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Embryo

そう遠くない未来の月曜日。海に面した崖を一人の人物がよじ登る。

月明かりを反射する海面に照らされる、肌を見せない黒いボディスーツとマスクは漫画の怪物を思わせた。

時折遠くの方から銃声が聞こえる。恐らく彼の他に潜入しようとした哀れな一兵卒か、無人機のセンサーに引っかかった小動物だろう。

「前者だったら大変だな。」 心の中で呟いてマスクの下で薄く笑い、崖を昇り終える


『到着したようだな、崖のぼりはどうだ?』

左耳にはめられた小さな無線機から声が聞こえる。

「もうやりたくない、次からはもっとスマートな方法で頼む。」

『検討しよう、だがこの任務に失敗したらその機会も失われることになるだろう』

上官の声に耳を傾けながら周囲を眺める。

様々な兵器の研究が行われていたという広大な森の上空には、機銃に猛禽類の翼を取り付けたような無人機が飛び交い、サーチライトが周囲を照らしている。

『周囲の様子はどうだ?』

「無人機が多い、兵士は…ここからじゃ見えないな。だがいることは間違いないだろう。」

『そうか、それじゃあもう一度確認するぞ?君の任務はテロリストが占拠するその兵器設計局、TTK-392に潜入───』

「首謀者の能力者数人を暗殺、ついでに奴らの言う『復讐』について調べる…だろ?」


気だるげな声で答える男を軽くたしなめ、

『そうだ、…昔共に戦った仲間を殺すというのは納得いかないだろうが、我慢してくれ。』

政府が恐れたことは、裏切り者の存在だ。他の人間はどうでもいいが自分が殺されては困る。そう考える人間は思っていたより多かったようだ。

真っ先に疑われたのはかつてクーデターに参加しており、なおかつ政府の事情に詳しい人間だ。

そのために、かつてクーデターに参加していた彼がこの作戦に選ばれたのだ。常に行動、会話、体調をチェックされていては裏切ることも難しいだろう。そう考えられたのだ。

『今回の作戦で血を流すのは君一人だ、だがその血を流さないように私を含む数人がこの無線でサポートする。』

「直接サポートしてくれ。核でもブチ込めば一瞬で終わるだろう?」

『そう言うな、今変わる。』

数秒の静寂の後、懐かしい声が響いてきた。

『聞こえるか?俺だ。』

「…まさか高木か?勘弁しろよ、何年お前にかかわらなきゃいけないんだ。」

『俺だって御免だ、上からのお達しだから仕方がないだろう。そうじゃなきゃお前の体調を一々チェックしたりはしない。』

「戦場で釵でも振り回してる方が似合いだぜ、スーツの着方わかるのか?」

口は悪いが、どこかほっとしたような声を確認したのか、無線機から聞こえる声が変わる。

『…とまあ、そういう訳だ。昔からの知り合いならちょうどいいだろう?気兼ねなく接せる。』

無責任な声に、舌打ちをしたくなる。

『それから、これからは暗号名コードネームで呼び合う。君は…そうだな、フェンリルだ、今からきみはフェンリルだ。』

フェンリル?大した名前だ、政府の犬にしては格好いい。」

苦笑しつつ、そうだというように尋ねた。

「じゃああんたはなんて呼べばいい?アングルボザか?」

『そうだな……ウィルク、私はウィルクだ。』

「…あんた英語圏の生まれじゃないだろう?まあいい、グラハム中佐か。了解した。」


戦闘装具(コマンドベスト)の中を見てみろというので手探りで漁ってみると、黒いゴーグルのようなものが入っていた。

『今のうちに君の装備の説明をしておこう。まず君が今出したその装置───複合万能ゴーグル"クルフェトス"だ。

 クルフェトスには三つの機能が取り付けられている。双眼鏡、暗視装置、そして私たちのいる作戦室へ映像を送るカメラだ。』

「最後のは必要なのか?」

『我々のサポートが要らないなら外して海に捨てればいい、その小ささにそれだけの機能をつけるのにどれだけの人間が徹夜したと思っている?』

「…わかった、中佐。ケースに入れて末代まで飾らせとこう。」

『次は君が今着ているそのスーツ、"オズボーン"だ。そいつは画期的な迷彩服だ、ナノマシンを含んだ繊維で作られており、スーツの表面を接触した物に一番近い色に変える。』

「その言い方だと変化するパターンは決まっているようだな。何にでもなれるわけじゃないのか」

『そのスーツは君の好きなゲームから出したんじゃないんだ、贅沢は言わないでくれ。

 言っておくがそのマスクも合わせて一つのオズボーンだからな?無くしたりしてくれるなよ。』


中腰の姿勢から立ち上がり、胸の鞘から電流の走る黒いナイフを抜く

『準備はいいな、これよりOperation Black Sabbathを開始する。日曜日までに終わらせろよ。』

無線機から聞こえる力強い声にセンスねえな、と呟き、フェンリルは薄暗い森に向けて、ゆっくりと向かっていった。

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