8話
その翌日。俺は集合場所の駅前へときていた。
まだ朝早く、通る人達はサラリーマンばかりで、学生はほとんど通っていない。
昨日の夜、冬香ちゃんから連絡はきたものの、行く場所などは教えてもらえなかった。どうやら秘密にしたいらしい。
ここで待ってるのはいいのだが、まだ冬香ちゃんと琴美が来ていない。冬香ちゃんは多分車で来るのだろうが、集合時間からもう20分は経っている。事故とかに巻き込まれてなくちゃいいが…。琴美はどうせあれだろう。寝坊とかだろう。
「冬香ちゃん遅いね…」
「ああ、そうだな」
白のタンクトップに白のジャケットを着て、白のショートパンツを履くという、なぜか全てを白で統一してきた美花が、遅刻している冬香ちゃんのことを心配していた。ちょっと露出が多くないか?
「お前、寒くないのか?」
「ん?今日は暑くなる予定だし、別に今もそこまで寒く無いわよ。」
「そ、そうか。」
よく見ると、首から十字架のペンダントをかけている。なんか似合わないな。
そんなことを話していると後ろから声がしてきた。
「おーい!」
黒のTシャツに短パンという、とてつもなく夏に着るような格好で、青のスーツケースを転がしながら、琴美がこっちのほうに向かって走ってきた。
「あれ、琴美ちゃん遅かったね?」
「あー、いや。ちょっと色々あったんすよ…。はぁ…はぁ…。」
琴美は走ってこっちに向かってきたため、息切れを起こしている。
「どうせ寝坊したんだろ?」
「うっ。ち、ちげーし。はぁ…。」
まだ息が整ってない琴美だが、明らかに動揺している。やはり、こいつ寝坊してやがったか。
息が整った琴美が顔を上げて、こっちを見てきた。
「な、なんだよ。」
「あれだよ。ふ、布団が気持ちよかったんだよ!」
「やっぱり寝坊したんじゃねーか!」
っと言って、琴美の頭を軽くだけど叩いた。
「いたっ。なにすんだよっ」
「いてっ」
琴美は右足で俺の左足のすねの辺りを蹴ってきた。
けど、俺も弱く叩いたからなのか、琴美の蹴りもそこまで痛くなかった。
っとここで、美花が割って入ってきた。
「はーい。二人ともそこまで。朝からみっともない」
「だって玲がよー」
「琴美ちゃんが遅れてきたのが悪いってところもあるでしょ?まあ、ぶった玲も悪いけど。」
「うぅ…。」
琴美はそう美花に言われて、俯いて黙り込んでしまった。
ここは素直に謝っとこう。
「ごめん。俺が手を出したのが悪かった。本当にごめん。」
そう俺が言うと、琴美は顔を上げて驚いたような顔をしてこっちを見てきた。
「い、いや。別に…。こっちこそごめん。」
琴美はそう言って謝ってきた。とりあえず一件落着だな。
チラッと横目で香奈枝の方を見ると、こっちなんか気にするそぶりもなく、時計塔のところによりかかってずっと読書をしていた。
しばらくすると、ワゴン車が二台俺たちの目の前で止まった。
そして、その車の中の片方から、冬香ちゃんが降りてきた。
「ごめーん。遅れちゃった~。」
そういって冬香ちゃんは、こっちの方に両手を合わせながら歩いてきて謝ってきた。
「おはよう冬香ちゃん!大丈夫だけど、なんで遅れてきたの?」
「いやーそれがですね~…。」
冬香ちゃん曰く、家をでて車に乗ったところ、メイドさんがガソリンが少なくなってきていることに気がつき、ここにくる途中にガソリンスタンドによっていってたのだとか。
「けど私、美花ちゃんに通知送ったはずなんだけど…。」
「え!?」
驚いた声をあげて、携帯を確認する美花。
「あ、ほんとだ…。ごめん!通知オフにしてて気がつかなかった!」
両手を合わせて謝る美花に冬香ちゃんは微笑んで
「まあ、仕方ないよ~」
っと、優しく言葉をかけていた。
おいおい、なんで通知なんかオフにしてるんだよ…。今はどうにかなったけど、本当に困ったときどうするんだよ…。
「ありがと!それじゃ、みんな揃ってることだし、行こっか!」
みんなうなずいて、美花の言葉に答えた。
いつの間にか香奈枝もこっちの方にきていた。全然気がつかなかった…。
「それじゃーあ。みんな荷物はこっちにおいといて~」
「え、この車も冬香ちゃんの家の車なの?」
「そうだよ~」
俺は少し驚きながらも、さっき冬香ちゃんが出てきた車とは別の車の前に荷物をおいた。
ふ、冬香ちゃん一家って一体どんだけすごいのだろうか…。娘のためだけにワゴン車二台もだせるとか…。
「じゃあ、荷物おいたらこっちにきてね~。」
そういって、冬香ちゃんはさっき降りてきたほうの車のドアを開けた。
「ふ、冬香…ちゃん。」
美花が少し体を震わせながら冬香ちゃんを呼んだ。
「なんでしょう~?」
「こ、この車は…荷物をのせるためだけの車なのかな?」
「そう…だけど?」
冬香ちゃんはなんら不思議に思っておらず、当たり前みたいな顔をして首をかしげていた。
それを聞いた美花や、俺を含めた他三人も声が出なくなっていた。
こ、この子俺達庶民とは暮らしてる世界が違うんじゃないのだろうか…。
「あれ?みんなこっちきなよ~。先にいっちゃうよ~?」
「あ、う、うん。」
そういう美花に続いて、俺たちは冬香ちゃんのいるワゴン車に向かって歩いていった。
こ、これから俺達は一体どれくらい彼女の驚かされるのだろうか…。