2話
次の日の朝。俺は一人で通学路の道を歩いていた。
あーあ…美花には会いたくないな。もし会ったらどうしようか。結局昨日あんなこと言ってたけど、今日になって不安になってきた…。せめて部活までには考えとかないと…
「よぉ、玲!」
「うわっ!なんだ亮介か、びっくりしたなー」
「いやぁ今日たまたま朝練なくてさー。だからこんな時間に登校してるって訳」
あ、なるほどね。昨日の夜中に雨が降ってたらしいからな。グラウンドがぬかるんでたりでもしているのだろう。
ちなみに、こいつはサッカー部でスポーツ万能。俺と同じクラスメートで中学からの親友。なんか時々チャラいけど、いいやつなんだよな。
「へぇー。そういえば練習ついていけてるのか?」
「まぁ、なんとかな…。やっぱ体力は必要だって気づいたよ。お前も少しは走っといた方がいいぞ?」
「そうだな……っておいおいおい!!またそうやって一緒に走らせようとしてるだろ!?」
「(ちっ)いや?本当に心配したんだぞ?」
「おいおい!今、舌打ちしたろ!ぜっっっっったいに嫌だからな!!」
「なんだよぉー、いいじゃないかよー!」
「いやだね!俺は疲れることが好きじゃないんだ!!」
あ、これは冗談で亮介の誘いを断るために言ってるだけであって、本当は別に走ることもスポーツをすることも全然好きなんだよねー。
「お、言ったな?だったら体育の時間絶対に休めよ?ちゃんと『自分疲れるの好きじゃないからやりませーん』って言って休めよ?」
「…や、やるわけないだろ!」
「あれ?疲れるの嫌いじゃなかったっけ?あれあれ?おっかしいなぁ」
「…すいませんでした!運動大好きです、だから体育はしっかりやらせてください!」
「あれ?それで十分だと思ってるの?ちゃんと形で示してもらわないとー」
こ、こいつ調子に乗りやがって。たまに、こういうことさせるから嫌なんだよなあ…。仕方ない…やるか!
「すいませんでした」
…路上で土下座っておかしくね!?やってみてから超恥ずかしくなってきた…。しかも、路地が濡れているから冷たいし…。
ほら、横を通っていく生徒たちが冷たい目線でこっちみてるよ…。本当にこいつはいやな奴だ。
「よし、仕方ないなぁー許してあげるよ」
「ありがとうございます」
「んで、俺と一緒に走らないか?」
「断じて断る!」
っと、なんやかんやあったがどうにか一緒に走ることは諦めたらしい。本当にしつこかった…。
そして、学校生活は平穏に過ぎていった…。授業が終わるまでは…な。
放課後…。ついにこの時が来てしまったのか、美花と会う時が。
俺はなんとか何を話そうか決めることができ、後は美花と話して気まずさをなくすだけだった。
部室のドアを開けるとまだ誰もいなかった。
なんだ俺が一番かよ。まあ確かに、少しだけ俺たちのクラスの方が他のクラスよりも早く終わったからな。とりあえず、俺は自分の席に座って部員が来るのを待った。
そういえば本当に殺風景だよな。今度なんか家から持ってこようかな。
っと思っていると、部室のドアが開いたかと思ってそっちのほうを見たら、今井さんが部屋の中に入ってきた。
「こんにちは。琴美ちゃんだっけ?」
なぜか今、自然と琴美ちゃんと読んでしまったが、そこは気にしないことにしようかな。思い出すだけで恥ずかしくなってきた。
「あ、斉藤さんかー。びっくりしましたよ…」
琴美ちゃんは名前を呼ばれたとき一瞬体をびくっとさせたが、俺の存在に気がつくとほっと安心したような顔になった。
「ごめんね、びっくりさせるつもりはなかったんだけど」
「いえいえ、勝手に自分がびっくりしちゃっただけですから。気にしないでくださ
いよ!」
そういいながら彼女は俺とは机を挟んでドアに一番近い席に座った。
「あ、うん。そういえば、前集まった時に会ってるけど、ここで会話するのは初めましてかな?」
「はい、そうですね!これからよろしくです」
「いやいや、タメ口でいいよ全然!同級生なんだしさ。」
「そうですか!じゃあ早速、よろしくね玲!」
「え!?名前で呼ぶの!?」
「え?そっちがさっき名前で呼んでくれたから呼んだだけだけど…?」
た、確かに読んではいたが…。まぁ、俺的には名前で呼んでくれて嬉しいかったから、このままでいいかな。
「俺は全然名前で呼んでくれた方が嬉しいけど、そっちは?」
「あ、こっちも全然いいよ?名前で呼んでも」
「じゃあ改めてよろしく琴美!」
「うんよろしくね玲!」
琴美は笑顔で答えてくれた。うぅ…こんな可愛い子と同じ部活なんて…涙がでてきちまうぜ。
それに俺達は初めて話したにも関わらず、ここまで打ち解けてしまった。もしかすると、案外気が合うのかもしれないな。
それからすぐにまた、ドアが開かれた。
「あれ?部長じゃん!こんにちは!」
え?美花が来たのか?…やばい緊張してきた。
「おぉ!琴美ちゃんじゃん!今日は早いね!」
「いや、玲の方が早かったんだよ…。ちぇ、今日は一番だと思ってたのに」
「えっ?れ、玲いるの?」
はーい、ここにいますよー。っと、心の中で呟いておいた。というか俺の名前に対して動揺しすぎじゃあないだろうか…。
「うん、いるよ。ほら」
美花が部室の中に入ってきた。…目が合ってしまった。
「玲…、いたんだ」
「うん、まあな」
反応を見る限り知ってしまっているようだな…。ただすぐに落ち着いた表情になり、この間座っていた席に向かって歩いていった。
「あ、そういえば今日は冬香ちゃんは元々休みらしくて、香奈枝ちゃんは早退したから今日はこの三人だけよ」
え、まじかよ。そういや、3時間目辺りから香奈枝の席が空席だったような……そう言う事だったのか。
美花は鞄を机の上に置き、椅子の上にスリッパをはいたまま立ち始めた。と思っていると、手を腰に当てて威勢よくこういってきやがった。
「そこで今日は三人だけど、ここの部室の掃除するわよ!」
「えー!何で掃除なんすか部長!」
琴美は席を立ち、テーブルを思いっきり叩いて彼女に反論し始めた。俺も手を上げて、少し反論することにした。
「その意見には俺も賛成だ。なんで今日掃除するんだ?」
「いや、今日は部が設立されて2回目の部活動でしょ?だったらまず掃除をして、部室をきれいにしようかなって思ったんだけど…。だめ?」
「うーん。確かに部長の言う通りこの部屋をきれいにした方がいいよな…。うん、私は部長に賛成だ」
琴美はうんうんっとうなずいて、心変わりしやがった。
「それだけの理由で意見変わっちゃうのか!?早くねぇか!?」
「いや、なんでって聞いただけであって、別にやりたくないとは言ってないもん」
「…。あぁ、その通りだった。俺が悪かったよ、すまん」
「それじゃあ、今日は掃除で決まり!ちゃっちゃと始めて、ぱぱっと終わらせるわよー!」
張り切る美花。
「おー!」
それにのる琴美。
「お、おー…」
そして、一人だけやる気がない俺…。と、いう三人で部室の掃除を始めた。
俺達は掃除を始めたわけだが、一つだけ疑問があった。
この部屋は殺風景でほとんど家具なんか置いてないのに、掃除をする必要があるのか?ということだ。
なのに美花は掃除をしようというのだから驚きだ。まあそれでもやることはいっぱいあり、俺達は黙々と作業を進めた。
なぜかは知らないが俺達の部室には元から本棚が置いてあり、昔から置いてあるのだろうか、ほこりがすごかった。俺はその本棚担当となり掃除してるわけだが…。汚すぎだろ!?ほこり以外にも蜘蛛の巣やなんかによるシミ。もう年代が古いことは一目瞭然だった。仕方ない…やるか…。
掃除を始めてから、一時間が経過した。
「うん!だいぶきれいになったわね!いったん休憩にしましょう!」
あぁ~疲れたぁー!だけどまだまだ片付いておらず、まだ色々とすることがあった。
「いやー、みんな頑張ってるみたいだね!結構片付いてきたじゃん!」
部室のドアの前に立ち、部屋を見渡した後に美花がそういってきた。
「そうだね部長。雑巾がけも結構疲れるもんだな…」
琴美は雑巾を右手に持ち、右肩を左手で支えながらぐるぐると回している。まあそれなりに部室は広いからな……しかも二周ぐらいしてたし。そりゃ疲れるよな、うん。
「琴美ちゃん結構がんばってたもんね!お疲れ様!」
「ありがとう部長!」
「ちょっと質問いいか?」
ん?っと二人とも俺の方に疑問の顔を向けてきた。
「お前らって、どこかで知り合ってたのか?」
「「いや、高校になるまで知らなかった(よ)」」
見事なまでにはもっていた。
「なんでそんなに長い言葉なのに、はもるの!?逆にすげえわ!」
なんか、変なところで関心してしまった俺は、それ以上追及することを忘れ、ただひたすらに、なんでなんだ…っと一人で考え込んでしまった。
「それじゃ、再開しますか!」
それから十分の休憩をはさんで、美花が唐突にこう言ってきた。
「…ちょっと待って部長!もう部活終了の時間ですよ!」
っと、琴美が自分の腕時計を見てそう言った。
「え!?まじで!?…仕方ないな~、じゃあ今日はこれにて解散!お疲れ様でしたー」
と、琴美がなんとか時間に気付いてくれて部活は終わったのだが…。部活が終わったってことは、ついに美花と話すときが来てしまったようだな。
「それじゃ私、先に帰りますね!お疲れ様でした」
「うん。じゃあね琴美ちゃん!」
「じゃ、また明日ー!玲もじゃあね」
「おう!また明日な」
と、琴美は帰っていった。まさか空気を読んでくれたのかな…?
そして琴美が部屋を出て少し経ってから美花に話しかける。
「それじゃ、俺達も帰りますか」
「う、うん。そうだね。あ、部室の鍵職員室においてこないとだから、先にいってて」
美花の言葉が少しだけ詰まっているように聞こえた。…気のせいかな。
「わかった。んじゃ校門の前にいるよ」
といって、俺達はそれぞれ別れていった。
ふぅー…。なんか結局このことばっかり考えてた気がする。美花がどういう反応をするか…とか、どういう気持ちなのかな…とか昨日の夜からずっと考えていた。なんでだろう。
それにいつからだろうか、こんな波乱万丈な高校生活を望んでいたのは。こんなことがあればいいなとずっと考えてきた。それが今まさに、起ころうといている。幼馴染との新しい生活が、そして新しい親との生活が。こんなにわくわくしてるのはいままででそうなかった。これから楽しい生活が始まると思う。多分いままでになかったような。
深雪には申し訳ないとは思ってるけど、俺は美花との生活も楽しいんじゃないかなと思っている。
ごめんな深雪。お兄ちゃんこれからの新しい生活を受け入れるや。だけど、決して深雪のこと忘れないから。だからこれからもお兄ちゃんのことを見守っててくれ…。
「れ、玲!帰るわよ!」
そんなことを考えていたら、いつのまにかに美花がもう来ていた。
「おぉ、やっと来たかー。…んじゃ行きますか」
俺たちは上履きから靴に履き替え、気まずい空気を漂わせ始めながら校門をでた。
しばらく沈黙の時間が続いた。さすがに気まずくなってきたので、俺から話しかけてみることにする。
「美花?」
「な、何よ?」
「お父さんから聞いたのか?」
「…ええ、聞いたわよ。再婚ですってね玲の親と…」
やっぱりか。今日の反応的に気付いてたけど、やっぱり知ってたみたいだな。
「ああそうだ。どう思う?」
「ど、どう思うじゃないわよ!そっちこそどう思ってるのよ!?」
「俺か?もう俺は決心ついてるから別にいいと思ってる。だって俺はもっと前から
知っていたからな」
「え!?嘘だ!いつ知ったのよ!」
「前、美花に電話した時だよ」
「……ああ!あの時ね。じゃあなんであの時に言わなかったの?」
「俺よりもお父さんから直接言われたほうがいいかなって思ったんだよ」
「そ、そんなわけ…ないじゃん…」
そこで、美花は顔を紅潮させて、俯いてしまいった。
「わ、私は…から言ってもらった方が…かった」
美花にしてはかなり珍しいのだが、かなり小声になって、途切れ途切れにしか聞こえなかった。
「え!?いまなんて言った?」
「な、なんでもないわよ!」
なんか必死な顔で言ってきたので、さすがに追求はしないことにした。こんな顔初めてみたな…。
「そうか。それでさ、これからは学校では誰にもばらさないようにして、名前はそのままで学校生活も変わらず過ごそうと思うんだが、これでいいか?」
「う、うん!それが一番いいと思う!」
「じゃあこれで決まりだな。ってことは俺達これから兄妹になるんだよな…」
「そうだね…。そういえば誕生日的には、私が妹ってことよね?」
「まあ、そういうことになるな。まさかこんなことになるとは思ってもなかったよ」
「そうだねー、高校入学してからこんなことになるだなんて思わなかった」
「一緒に暮らすんだよな俺達」
「ま、まぁそういうことになるわね」
「なんか、いつも一緒にいた気がするから、そんなに新鮮!って感じじゃないんだよな」
「え、そう?私は新鮮!って感じがするよ?」
「まじか!まぁ、また今度このことについてはゆっくり話そうや」
「そうだね。じゃあ私こっちだから。じゃあね!」
「おう、また明日な!」
なんとか気まずい感じにはならなかったけど、これから大変になるなぁ。もし学校中にばれたらどうしようか…。てゆうかそれより、ずっと一緒に帰ってたら付き合ってると思われそうで困るな。まあ、その辺は美花と話し合えばいいか。どうせまた明日、部室で会えるのだから…。
その夜、俺は夢を見た。美花と美花のお父さん、そして俺の母さんが、みんながリビングに集まって、夕食を食べているのを。本当に幸せそうでみんな笑ってた。ちゃんと過ごせてるなって起きた時に思った。まぁ、夢だからわからないだろうけど、きっと正夢になってくれるだろうと思い俺は学校へと向かった。
いやー、たまには誰にも会わずに学校に行くっていうのもいいなー。本当一人でいると心が落ち着くよ。
「おはよー!玲!」
いきなり誰かが俺の名前を呼びながら、左肩を叩いてきた。んな…、誰だ!俺の、のんびりできるこの時間の邪魔をするのは!?
そう思い横を見ると、琴美が俺に微笑みかけてきていた。
「って琴美かー。びっくりしたよ」
「あっごめん!びっくりさせるつもりじゃなかったんだけど…」
「いいっていいって。…そういえば昨日もこんなことなかったっけ?」
「…。あっ!あったねそんなこと!」
「俺が部室で待ってたらさ、琴美が入ってきていきなり驚いてさ」
「そうそう!そうだったよね!入った瞬間に挨拶されたからびっくりしたよ」
「ごめん。本当にあの時はびっくりさせるつもりはなかったんだけど」
「もういいって。気にしないでよ!」
「お、おう。あ、そうだ、琴美ってどこ中だったの?」
「えーと、八城中だよ。玲は?」
「あれ?八城なの?俺、湊中だよ」
「あれ!?案外学校近かったんだ!」
「みたいだな。じゃあいつも歩きで帰ってるん?」
「まあそうだけど…。疲れちゃう」
「まあな。俺も歩きなんだが結構疲れるんだよなあ…。そういえば方向どっちなん?」
「ん?帰る方向?」
「うん」
「えーとねー…。あっち」
「あ、俺と同じ方角だ」
「え、本当!?じゃあ今度送ってってくれない?いつも一人で寂しいんだよ…」
「まあいいけど。友達とかいないの?」
あ、その場合美花に先に帰ってもらえるように言わないとだな…。
「え?いるよ?だけど方角反対だったり、電車の子とかばっかりなんだよね」
「そうなのか…。それは仕方ないな」
じゃあ、美花の家も知らないみたいだな。よかったんだか、悪かったんだか…。
「ってことで今日部活終わったら一緒に帰ろうよ!」
「え?今日!?さっき今度って言ってなかったっけ!?」
「まあまあ!細かいことは気にしない気にしない!ほら学校ついたよー!」
うわっまじか!こりゃ部活の時に話をまとめるしかないな。
「じゃあまた部室で!」
「おう、またなー」
琴美は手を振って下駄箱の方へと走っていった。俺はその背中を見つつ下駄箱へとゆっくり歩いていく。さて、琴美にどう説明しようか…。
眠い。超眠い。なんなんだよあの先生。口調がのんびりしすぎて、もうむ…り。
はっ!つい寝てしまった!今は…、なんとかまだ授業中のようだな。っと、亮介寝てやがるぜ。起こしてやりたいがまた眠気が…。やばい。耐えろ俺。耐えるんだ俺。
…よし復帰したぁ!もうこれで大丈夫だぜ!さて、亮介をどう起こそうかなーっと。
うーん、ペンで背中を刺すか。いやいやつまらないな。こちょこちょは?いや、これは亮介の反応しだいでは注目されることがあるから却下だな。
よし!ここは俺の良心で普通に起こしてあげようではないか。
俺って優しいなーと思いながら、手を亮介の左肩に向かってのばしたその時。亮介の体が起き上がり、黒板に書いてあることを写し始めた。
え?ここで起きるか普通!?しかも写し終わった後、普通に寝始めやがったし!俺のさっきの努力はなんだったの!?
まぁいいや、今度こそはしっかりと起こしてあげよう。っと思ったがやっぱやめた。もう面倒になってきたし。
「ふわぁー…」
なんか俺もなんか眠くなってきちゃった。さっき完全復活宣言したのなー…。
やっぱ今日の睡眠時間が4時間だったのがいけないなかな…。あ、やばいもう無理…だ。
んー…。よく寝たー!っていつの間に夕方に!?やば俺寝すぎた!
「ってゆうか、亮介起こしていけし!」
「ん?呼んだか玲?」
「おぉ、亮介!っているんなら起こせよ!いつの間に夕方になってるじゃん!」
「え?寝てる玲が悪いんじゃないか。授業中に寝てる玲が悪い」
「はぁ?それならお前だって寝ていたじゃないか!」
「あれは寝ているふりだ」
「う、嘘だ!確かに亮介は寝ていたはずだ!」
「じゃあ確信できる根拠はあるのか?」
「な、ない…」
「じゃあ諦めろ。授業中に寝ていたお前が悪い」
「うぅ。けどせめて起こせよ!」
「お前なんか起こすわけないじゃん」
「な、なんで!?」
「お前が嫌いだからだよ」
「え…?」
「だから、俺はお前が嫌いなんだよ。だから見知らぬ他人を起こすなんておかしいだろ?」
「あー俺も斉藤のこと嫌いー」
「私もー」
「俺もー」
みんなが俺のことを嫌いって言ってるよ。俺泣く!てゆうかもう泣いてる!こんなクラスなんてやだー!!
「じゃあな、斉藤玲くん。まあお前の顔なんてもう見たくないけどな」
う、うわーーーーーーーん!!!!!亮介がー!!!!
「玲…玲!!」
はっ、あれここは?教室?
「おいどうしたんだよいきなり泣いて。」
そこには亮介がいた。あれ?今は休み時間なのか?夕方じゃないし。ってことは、まさかさっきのは夢!?
「お前、寝ながらいきなり泣き始めたからみんなびっくりしてたぞ?何があったんだ?」
あ、そうか。今はさっきの授業が終わった後の休み時間ってわけか、なるほどなるほど…じゃねぇし!
「いや、夢の中でな、俺このクラスの全員に俺のこと嫌いだ!って言われまくった夢見てさー、夢の中で超大泣きしてたってこと」
「お、おま…お前かなりやばい夢を見たな。もしかして俺も嫌いだって言ったのか?」
「ああ、もちろんな」
「まじかよ!まあ、それは夢だ。現実じゃなかっただけよかったじゃん」
「お、おう。本当にひやひやしたよ」
「まあ、夢だったってことで。ほら授業始まるぞ!」
亮介がそう言って前を向くと、始業のチャイムが鳴り、先生が入ってくる。
さっきのが夢で本当に良かったが、まさか正夢になんかならないよな!?なったら絶対に不登校か退学するな。まあ、気にしないで授業しっかり受けるとするか。
あれ?亮介なんか泣いてないか?しかも寝ながらって…。
まさか俺と同じ夢を見たのか!?授業終わって今は休み時間だし、そろそろ起こして事情を聞くかな。
俺は亮介の肩をたたいてやった。
「ぐすっ。ぐすっ」
やっぱり泣いてやがった!
「大丈夫か、亮介?」
「うっ…うっ…。玲ー」
おい、泣きついてくるなよ気持ち悪い。
「さっきの玲と同じ夢見た…」
やっぱりか。お前も辛い思いしたんだな、うんうん。わかるよその気持ち。
「大丈夫だ、わかるぞその気持ち!」
「玲と状況は同じだけど、内容は逆だったよぉー!!」
え、今なんと?逆だと?
「それはいったいどういう意味だ?」
「玲とは逆にみんなから、ほめられたりした!」
「お前、嬉し泣きかよ!」
今度は俺が泣いていたよ。
放課後ってつまらないよなー。みんな部活に行っちゃうし、部活ないやつはそそくさ帰っちゃうし。クラスにはほとんど俺しか残らないんだよなぁ。
さーってと、そろそろ俺も部室へと向かいますか!
思えば俺、琴美と約束事したんだっけな。美花に言わないとだなぁ。
「あ、玲!」
おっと、噂をすれば美花じゃないか。本当に噂をすればその噂にしてた人が現れるんだな。っと心の中で関心しつつ美花に返事をする。
「よっ、美花じゃないか」
「何?今から部室向かおうとしてたの?」
「おう。そのつもりだけど、美花もそうじゃないのか?」
「え?そうだけど?」
「なんやねん!!」
「え!?ど、どうしたの!?」
「だって、…いやなんでもないさ」
「え!?超気になるんですけど!」
「いや本当に気にするなって」
「ちぇ…仕方ないなー。あ、そういえば今日は先に帰ってていいよ!」
「え!?なんで!?」
美花から先に帰っていいよって言われるのはこっちにとってはありがたいのだが…。なんか、怪しいぞ?いつもならこんなことはないのに、今日に限ってこうなるだなんて、絶対に裏があるに違いないはずだ!
「え?いや、ただちょっと作業があってね」
「だったら今やってくればいいじゃん!」
「いやいやいや。私が部室に顔出さないといけないじゃない?」
「なんで?」
「そりゃ、部長だから?」
何気に自慢されたー。
「だったら部室に持ってくればいいじゃん」
「いや、外での作業だからそれは無理だよ!」
なんかこれ以上反発しても無駄な気がしてきたな。諦めるか。どうせ俺が一緒に帰るのもばれない訳だしな。
「わかったよ。じゃあ今日は先に帰ってるよ。」
「ごめんね。多分その作業が今日終われば明日は一緒に帰れるからさ。」
「そっか、わかったよ」
「うん。ほら、ついたわよ!」
そんなことを話しているといつの間にか部室についていた。
ドアを開けると、すでに琴美が席について待っていた。
「おぉ部長!待ちくたびれたぜーって玲も一緒か」
「なんだそのがっかりした顔は!俺が邪魔か!?」
「いやーそういうわけじゃないけどっさっ…」
琴美は口を手で押さえて笑いをこらえていた。
「じゃあなんで笑いをこらえてるんだ?」
「い、いやそ…そういう…わけじゃ…ないんだけど…ぷっ」
ついに笑い声が口から漏れていた。
「笑ってんじゃねえか!」
「いや気のせいだと思うよ…ぷぷっ」
「笑ってんじゃねぇか!気のせいじゃねぇよ!!」
「まあまあ、そう怒らない、怒らないっ。あははっ」
ついには、口から手を離して笑い始めやがった。
「まだ笑うか!?」
なぜ琴美は笑っていたのだ?帰りに聞いてみるとするか。
「はーい。二人ともちゅうもーく!」
「ちょっといいか?」
「何よ玲!」
「いや、他の二人はどうしたのかと…」
「えーとね、わかんないけど休みだってー」
「あ、そうなんだ」
「それだけ?」
「ああ、それだけだ」
その確認がとれたところで琴美の正面の席に座る。そして俺が座ったところで美花が話を切り出す。
「んじゃ改めて。今日の部活は…」
まあどうせ昨日の続きとかで、掃除の続きとかなんだろうな。結局途中までだったからまだ微妙に散らかってるし。
「解散!」
「「はいぃ!!!????」」
突如美花の口から出た解散の言葉に俺と琴美は驚き、机を叩いて美花の方を見る。
「ふ、二人してどうしたの!?」
「いや私は部長が来ていきなり解散!って言ったのに驚いただけだ!!」
「俺も琴美と同じ意見だ!」
俺と琴美は美花のほうを見続けながらそう答えた。なんでいきなり解散なんだか、わけがわからない。
「そうだったの!?」
「「うん!!」」
「そっか…。ごめんね、私これから作業しにいかないとなの。だから先にいくね!じゃあね!」
そう言ってドアの近くにいた美花は、ドアを強めに閉めて行ってしまう。俺と琴美は机に手を置いたまま美花がでていったドアを見ていることしかできなかった。
「行っちゃったな」
「うん。行っちゃったね」
そう琴美が返答してきたところで、再び勢いよく扉が開かれて美花が現れる。
「玲!部室の鍵閉めといてね!!」
そして、そんなことをいうなり美花は扉を閉めて部室を出て行った。なんで俺が指名されたのかわけがわからんのだが。
そして、残された俺と琴美は呆然と立ち尽くしていた。
お互い座り直し、少ししてから俺は琴美に話しかけることにした
「ごめんな。昔もたまにあんな性格になることがあったんだが、まさか治ってなかったとはな…。迷惑かけちゃってるだろ?」
「いやいや。逆にあの性格のおかげで私もテンション上げさせてもらうことがあって嬉しいよ」
「そうなのか。ならよかった」
「うん。じゃあすることもないし帰ろっか」
「そうだな」
そして俺と琴美はお互い椅子から立ち上がる。
「それじゃあ玲、家まで送って行ってねっ」
琴美が微笑みながらそう俺に言ってきた。
「そうだな。約束したことだし一緒に帰るか」
「うん!」
その時の琴美の笑顔に少しだけドキッとしたことは俺の心の中だけにしまっておこうと思った。
「あ、そだ。俺、鍵を職員室に持っていかないとだから玄関で待ってて。」
「うんわかった。先に行ってるねー」
琴美はそう言って鞄を肩にかけて部室を出て行った。それから少し経ってから、俺は部室に鍵を閉めて職員室へ向かった。
職員室に鍵を返し、下駄箱へと向かう途中俺は琴美のことに関して少しだけ考え事をしていた。
琴美は何故男口調なのだろうか。別にいつも男口調っというわけでもなく、たまに普通の女の子のような口調や態度、反応に戻ることもあるのだが、基本的には男口調だ。俺にはどうも無理しているように見えるのだが、多分それは気のせいだと思いたい。琴美が元々日常的には男口調で、二人になったときには基本的には女の子の口調に戻るのだと。そう思っていたい。
そんなことを考えていると下駄箱についてしまった。俺は下駄箱の辺りに琴美がいないことを確認してから、靴に履き替え外に出ると琴美は簡単に見つかった。琴美は俺の存在にはまだ気が付いておらず、俺から声をかけることにする。
「ごめん、遅れちまった」
「遅いぞー」
「悪い悪い、んじゃ行くか」
「うん」
そして、俺達は校門を出たのだがしばらく沈黙が続いていた。うっ、気まずい…。
「ねえ、そういえばさ」
「ん?どうした?」
琴美もこの沈黙した空気が気まずかったのか話しかけてきた。
「今日さ、部活早く終わったじゃん?」
「うん、そうだな」
「だから今からどっか出かけない?時間もあるしさ!」
それは俺にとっては思いがけない言葉であった。てっきり俺は『美花なんで先に帰ったんだろうねー』っとかその辺りを話題にしてくると思ったからである。
「そうだな。どこか行きたいところでもあるのか?」
「うん。で、できたらでいいんだけどさ!」
「ん?どこどこ?」
「れ、玲の家とか…無理かな?」
顔を赤らめながら、こっちを見ないでそう言ってきた。え?は?え…?
俺の脳内はパニックに陥っていて琴美の言葉が理解できずにいた。
よし、ひとまず確認。話題ない→気まずい→一緒に出かけたいといわれる。よしここまではOKだ。その次。琴美が顔を真っ赤にして『家に行ってもいい…かな…?』だと?これは夢か?夢かもしれない。よし確認だ。
俺は軽く頬をつねってみる
「痛い…」
ここは紛れもなく現実であった。
「な、何してるの…?」
まだ少しだけ顔が赤い琴美が問いかけてくる。
「いや、ここは夢の中なんじゃないかなっと思ってな」
「そんなわけないじゃん…。それでどうなの?だめなの…?」
琴美さんその上目づかい反則です。これでだめって言う男がいたらそいつをぶっとばすな確実に。
「ああ、もちろん大丈夫だ」
「え、本当!?」
「うん。今日親コンサートに行くから出かけてるはず」
「そうなんだ。じゃあ今から行こうよ!」
「そうだな。じゃあ行くか」
「うん!」
というわけで出かけるかと思いきや、俺の家で遊ぶことになってしまったわけなのだが…。
なんか入学して、琴美に会って三週間で色々と発展しすぎじゃね!?こんなことってあるもんなの!?絶対にないはずだ!普通ならな。なのになんでこんなにもいきなり発展するんだ!?おかしいだろ!?まあ、俺にとっては全然嬉しいのだが。
それに琴美とかなり仲良くなれるチャンスだから前向きに捉えるとしようかな。それじゃいきますか。
と、まあ少し経って俺の家の近くまで来たのだが…。あ、そういえば
「琴美は時間とか大丈夫なの?」
「うん。親が共働きだから帰ってくるのいつも遅いんだよね」
「そうなんだ。それだったら帰る時も送っていくよ」
「え!?本当に!?」
「うん。さっき言ったけど親コンサート行ってて帰ってくるの遅いからさ。どうせ家にいるの俺だけだし。それに、いつ出かけて帰ってきても親が帰ってくるまで大丈夫ってこと。だから全然琴美を送って帰るのも大丈夫!」
「そっか、ありがとね!」
「おう」
それから日常的な雑談をしていると俺の家の前についた。
「着いたぞ。ここが俺の家だ」
「あ、ここが玲の家なんだ。案外普通だね!」
「普通で悪かったな」
「いや、悪いってわけじゃないんだけど」
「そうなのか?」
「まあね」
「そっか。んじゃ中に入るか」
と、言って俺は家の鍵を手に取り、開けた。
「…玄関も普通だね」
「普通で悪かったな」
「それさっきも聞いた」
「まあ、どこの家もこんなもんだってことだろ?」
「そうともいうかもね。あがってもいい?」
「どうぞどうぞ」
「お邪魔しまーす!」
この一連の会話の間俺達は、靴を脱がずにずっと玄関で話していたのだ。
「まずはリビングから紹介するよ」
靴を脱いで琴美の横に行くと案内してほしいといわれたのでまずはリビングから紹介していくことにした。そのたびに色々なところを見ていたのは好奇心からなのかそれとも…。まあ、考えるだけ無駄か。
そして、リビングから色々と紹介していって最終的にはやはりというべきなのか、俺の部屋も紹介することとなった。
「そしてこの部屋が俺の部屋だよ」
「ふぅーん。素朴」
ここでも琴美はきょろきょろと部屋の隅々まで見ているようだった。少しだけ探りを入れてみるか
「そんなに俺の部屋じろじろ見て面白いか?素朴なんだろ?」
「いや、まあそうなんだけどさ…。自分の部屋じろじろ見られるの嫌だよね…ごめん」
「いいって謝るなよ。別に怒ってたわけじゃないんだし」
「そうだよね…えっちい本とか同学年のしかも同じ部活の女の子に見られたくないよね。うんうん」
琴美は俺の言葉なんか聞いてなんておらず、勝手に変な解釈をされていらっしゃった。
「言っとくけどそんな本ないからな?」
「本当に?じゃあありそうなところ探しちゃおっかなー」
「おう、二か所までなら探していいぞ」
「二か所…ねえ。まあ、いっか」
そういって琴美は心当たりがあるのか怪しそうなところを探し始めた。
少し経ってから手ぶらの琴美が俺の元へと帰ってきた。
「本当だなかった」
「だろ?」
「うん。これは認めるしかないね」
その後自然な流れで俺は近くにあったクッションへ。琴美は俺のベッドに座った。
あー、シーツがぐちゃぐちゃになっちゃった。後で直しておかないと…。
「そういえば、玲って中学で付き合ったことってあるの?」
「え、いきなりどうした!?」
「いや、ちょっと気になってさ」
「いや、誰とも付き合ったことないよ。琴美は?」
突然の質問に驚いたが、素直に答え琴美に聞き返す。
「私?私は一度もないよ。」
「え、まじで?琴美なら付き合ってそうなんだけどなー」
「え?なんで?」
「その辺はご想像におまかせします」
「なんで!?」
「なんでといわれてもねえ…」
少しの静寂が流れ、逆に俺が質問することにする。
「じゃあなんで知りたいの?」
「そりゃ気になるじゃん?」
「っといわれてもな。ま、諦めてくれ」
「うぅ…」
ふぅ、なんとか言うのは回避できたか。理由なんて直接いうもんじゃないよな。
「そういえばさっき聞き忘れたけどさ」
「何?」
「何時まで大丈夫なの?」
「あー、帰る時になったら言うよ」
「わかった」
そして俺達は学校のことなどの雑談をしてその後を過ごした。
あれ?やば寝ちまった。琴美は!?っと思って左右を見るが琴美は見当たらなかった。
もしかすると俺が寝ている間に一声かけて帰ってしまったのかもしれない。
「あ、玲起きたんだ」
そう思ってた俺は後ろからいきなり声が聞こえてきてびっくりした。
「え、琴美!?」
「なにびっくりしてるの?」
「いや、だって俺寝ちゃってたから帰っちゃったのかと」
「いやいや、もし仮に帰ったとしたら家のドア開けっぱなしで帰らないとでしょ?そしたら泥棒とか入ってきた時大変でしょ?」
「あ、そうだね。ありがとう」
「いや、そこまでじゃないよ」
「いやいや。って言うか時間大丈夫なの?」
「うん。玲寝てたけど、実際30分ぐらいしか寝てないよ?」
「え、あっ本当だ!」
時計を見たらまだ6時28分だった。
なんだ結構寝てたのかと思っちゃったよ。
「そうだ玲。一緒に夕飯食べに行かない?」
「え?俺は丁度一人で食べないとだから大丈夫だけど、琴美は大丈夫なの?」
「親に友達と一緒に夕飯食べるからってメールしとけば大丈夫!」
「そっか。もう行く?」
「いや、もうちょい話してようよ」
「そうだね。まだ6時30分だし」
「うん!」
結局、駄弁ることにはなったのだが…。まだ少し眠い。
「玲もしかしてまだ眠いの?」
「うん。まだちょっとね」
「じゃあ7時30分まで寝ていいよ?」
「え?その間琴美はどうするの?」
「んー。隣で玲の寝顔でも見てよっかな」
「え…?」
「嘘だよ!実は本持ってきてるから読書でもしてるよ」
「そっか。んじゃお言葉に甘えて。おやすみ」
「うん。おやすみー」
と、俺はまたも寝てしまったわけで…。生活リズム崩れないかなと少しだけ心配してしまったが、まあいっかと思い夢の中へとおちていった。
ん…?どこからか音がする。上か?
そう思い腕を上げ、音のするところを叩いてみるが伝わってきたのはベッドの柔らかい感触だけだった。どうやら空振りしたらしく、音は鳴りやまない。
「くっそ…なんで目覚ましがかかってんだよ…っと!」
俺は改めて目を閉じたまま音のなる方へ手を振り回していたら、なんとか目覚まし時計を叩くことができ、止めることに成功したようだ。
そして目を開くと、そこには琴美が目の前で寝息をたてて、すやすやと眠っていた。
…!?なぜ琴美が俺のすぐ横で寝ているんだ!?やべぇ超緊張してる。顔ちけぇ!しかも唇とほんの数センチぐらいだし!そして何でだ?なんで琴美が横で寝ているんだ!?んーまああれだ、まずは起きるか…。
さて、あーなるほどねそういうことか。俺の予測に過ぎないが、多分琴美も眠くなってしまい、そのまま寝るとお互い7時半には起きれないと判断したのだろう。それでその十分前、つまり7時20分に目覚ましをセットしておいた。ってところだろうか。肝心の本人は起きてないけどな…。実は琴美は朝が弱かったりするのだろうか?…んまあ、その辺は後で機会があったら聞くとして、今は琴美を起こすことにするか。
そして俺はしゃがみながら寝ている琴美に声をかける。
「琴美ー。おーい琴美ー!」
「うーん。あ、玲!」
「おはよー!」
「おはよーじゃないよ!って一応目ざましやっといてよかったみたいね」
「そうだね。てゆうかなんで目覚ましかけてあんの?琴美起きてたんじゃないの?」
「いや実は…私も眠くなっちゃって。じゃあ起きなかったら大変だから目覚ましかけておこうかなって思ったわけ」
「なるほどね。だからこんなにシーツがぐちゃぐちゃになったのか…。もしかして琴美って寝ぞう悪い?」
「うっ…。わ、悪い!?」
「悪くはないが。そのせいで俺の隣で寝てたんだぞお前」
うわっ誰が見てもわかるような感じに顔が赤くなってくよ。やっぱ恥ずかしくなるよなぁ。俺も起きた時そうだったし。
「ちょ、そ、それは本当なの!?ど、どうせ嘘とかなんでしょ!?」
「違うよ。本当さ」
「…。もう!玲のえっち!痴漢!変態!!」
はい、ぶたれましたー。俺悪くないよね?絶対にあっちが悪いよね?
「ちょっ、いきなりぶつのはないだろー!」
「だってー。よし!この件はなかったことにしよ!」
「琴美が言うな琴美が!!」
「え!?まぁそうだけどさー。別にもうお互い忘れようよ」
「わかったよ。あっ!もう7時30分過ぎてんじゃん!早くいこうよ!」
「あ、本当だ。玲は準備とか大丈夫なん?」
「うん大丈夫!じゃあ行こうか」
「うん!」
そして俺達は部屋を後にし、しっかり鍵を閉めて目的の場所へと向かうことにした。
俺達二人は車道沿いにある歩道を並びながら歩いていた。
にしてもまだ四月だからなのか、そこまで暑くなくて制服でいても丁度いい感じだ。
「な、なんかこうやって歩いているとデートしてるみたいだね」
あー、確かに他の人からみたらデートしてるみたいだよな。あっ確かこういうデートを…。
「これって制服デートってやつだっけ?」
「う、うん!そうだね!」
「琴美は今日楽しかった?」
「うん!すごく楽しめたよ!」
「そっかよかった」
「こんな楽しかった放課後は初めてだよ」
「え?あ、そっかいつも一人で帰ってたんだもんね」
「うん。今日はありがとね!」
「って言ってもまだ飯を食べに言ってないけどね」
「あっそうね。早く行こっか!」
「そうだね」
俺達はゆっくりと歩きながら、今までのことや学校での世間話などの話しをして店へと向かっていった。
「ここ?」
「うん。ちょっと遠かったけど大丈夫だった?」
「大丈夫、大丈夫」
「じゃあ行こっか」
「うん」
俺がドアを引いてから、俺達は店の中に入ったのだが。かなりがら空きだった。やっぱ平日だからなのかな?
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいですか?」
「はい」
「では席へご案内します」
俺達は店員さんについていった。まぁ俺も昔はよくここに来てたから大体店の中は把握できてるのだが。なるべく端の方にしてほしいっとひそかに願う。
「こちらになります」
おぉ!壁際の端きたぁぁ!!!今日は運がいいな!
「ご注文がお決まりになりましたらこちらのボタンを押してください。ごゆっくりどうぞ」
そう言って店員は去っていった。
「今日は俺がおごるよ。なんか好きなもの食べていいよ」
「え!?そんな、いいっていいって!ちゃんと払うから!あっ」
「どうしたん?」
「いや、財布家に忘れてきちゃった…。だけどおごりだなんて…。ちゃんと今度返すよ!」
「いいっていいって。今日はおごらせてくれよ」
「なんで?」
「まぁその辺は気にするなって!ほら何食べる?」
琴美は少し不満そうな顔をしたが、どうやら諦めたらしい。
「えーと私はこれだね!」
「じゃあ俺はこれにしようかな」
お互いの注文するメニューが決まり、各テーブルに置いてある呼び出しボタンを押す。
すると、音が鳴りそれに気が付いた店員がこっちに向かって歩いてきた。
「はい。ご注文はお決まりでしょうか」
「私はこれで」
「じゃあ俺はこれで」
「はい。かしこまりました。少々お待ちください」
そういって、去っていった。
「そういえば、琴美って俺の連絡先知ってたっけ?」
「ううん」
「じゃあ教えるよ」
「え!?あ、うん!」
「じゃあQRコード出すから読み取ってね」
「おっけー」
おっきたきた。あれ?俺っていつからこんなに積極的になったんだろうか。
「あっ、俺が今からメッセージ送るよ」
「あ、うん。わかった」
ふぅ。これで連絡先交換完了っと。
人があまりいないからかお互いの連絡先を交換し、俺がトイレに行っている間に料理は運ばれてきていた。
「あれ、もうきてたのか」
「うん、ついさっき」
そう言いながら琴美はナイフとフォークを俺の料理の上にハの字で置く。
「お、ありがと」
「いえいえ、それじゃ食べよっか」
「うん、そうだね。いただきまーす!」
「いただきます」
ハンバーグをナイフとフォークで一口大に切って頬張る。
「うーん!さすが大手チェーン店だけあって昔と味が変わらないや!」
「あれ?玲も、昔これ食べてたんだ」
「まーね。よく親が連れてきてくれたんだよ」
「そっか」
そんな他愛もない普通な会話をしながら食べ進めた。にしても、玲『も』ってことは琴美もよく食べたのだろうか?んま、その辺は気にしなくてもいっか。
いやーおいしかったおいしかった!超満足だ!
「おいしかったね!」
「うん」
「んじゃ、食べ終わったことだし帰りますか」
「そうだね。もう8時過ぎちゃってるし」
「大丈夫なの?」
「え?何が?」
「いや、家の事情とかさ」
「大丈夫だよいつも遅いし。この時間帯にはまだ帰ってないんだ」
「そっか。じゃあ琴美の家まで行きますか!」
「え、あ、ありがとう!」
「いいって。別に最初っから送っていくって言ってたじゃん!」
「あー、そっか。そうだったね」
「じゃあ行こっか」
席を立ち会計を済ませた後、俺達は琴美を家に向かった。
その店から琴美の家はそこまで遠くなかった。だけどそれまでの時間はものすごく楽しかった。美花と話すとき並に。
だけど、どうせまた部活で話せるやって思ったらそこまで別れるのは苦ではなかった。
「あ、あそこが私の家ね」
「…結構普通だな」
「さっきのおかえしとかかな?」
「なに!ばれてたか!」
「ばればれだよ!」
「そっか。んじゃまた明日学校でな!」
「うん学校でね!」
そういって琴美は自宅の中へと入っていった。
さて、ここからが問題だ。全くもって帰り道がわからない。でもまあさっき来た道を戻って店につけばそのあとはわかるから、とりあえず来た道を戻るとしよう。
その考えは功を奏し、なんとか無事に日付を回る前には帰ることができた。