1話
入学式…俺はあいつと一緒に久しぶりに登校した。約三年ぶりだな…。
「ついに高校生だな…」
「そうだねー…、まさか同じ高校にいくだなんてね…」
「こんなこと想像できなかったな」
「うん。こんなことってあるんだね」
あはは…といつものように笑いながら高校までの道を歩いていた。
「そういえば今日暇?」
「えっ?まぁ暇って言えば暇だけど…。どうして?」
「いや今日ね、小説の新刊が出るから一緒に買いにいかないかな?って思って…」
「あぁ、全然大丈夫だよ。んじゃ集合場所とかはあとで決めるか」
「うんわかった」
とか話していると、もう校門についてしまった。駅から高校までの歩く距離は本当に短かった。
校門にはもちろん入学式と書いてある(よくある掛け軸的なあれだ)のがおいてあり1本の桜の木がたっていた。
その木はものすごく立派だった。
「いこっか…」
「うん。クラスとか気になるしね」
俺たちは校門をくぐり、新入生の生徒らしき集団がいる場所に移動した。そこはまるで合格発表のような感じに混み合っていた。
そこの先にはクラス名簿が貼ってあり、その中から自分の名前を探すというごく普通のものだった。
「ねぇねぇ、私2組だったけど、玲は?」
俺は、俺は…と。…あ、あった。
「3組だな。今年も違うクラスだな…」
小学生の頃、俺達は六年間ずっと違うクラスだったのだ。まぁ、仕方ないんだけどな。
「えー、またかぁー…。まぁ仕方ないね!」
そういって彼女は割り切ったよう表情をして、下駄箱の方へと歩いていった。俺はその後についていく。
「そうだな。そういえば集合場所はどうする?」
「んーとねぇ。校門前にしとこっか」
「わかった。んじゃまた後でな」
「うん、また後でね!」
そうやって別れた俺たちはそれぞれ違うクラスに向かった…。
「ここ…か」
教室の中はアニメとかを見ていたせいで、予想通りというかなんというかどんよりとした空気となっていた。みんながみんな席についていて、緊張をしているような感じだ。まぁそりゃあ、元々同じ学校の仲の良い友達とかクラスにいない限り、みんな初対面だからな…。
ちなみに俺は結構ギリギリについていたため、誰が誰だかわからないし、同じ中学の人がいるかさえもわからないまま、席に向かったのだが…。
俺の席の後ろには見覚えのある後ろ姿があった。あぁ、多分やつだ。きっとやつだ。けどここで話しかける勇気も俺にはない。だってそもまず、この空気で話しかけられるはずがない。
俺はその席を通り過ぎ、ひとつ前の自分の席に着き、教室の前のドアから担任が入ってきてホームルームに…。
「えーっと、これからこのクラスの担任を務める夏目優樺ですっ。これから1年間よろしくーっ。えーっと、まずは自己紹介からかなー…」
と、めっちゃ綺麗な20代後半らへんの担任の先生の自己紹介が終わり、クラスの自己紹介へ…。
各々が自己紹介を終え、自分の自己紹介を緊張しながらもちゃんと終えたのだが…。俺は後ろのやつの自己紹介の方が気になっていた。多分あいつだから。
「名前は佐藤香奈枝。大枝中出身。どうかよろしく」
えっ、佐藤香奈枝?まさか…ね?っと思いつつ後ろを向くと、そこには奴がいた。えっ…とは思ったのだが確かに俺が知ってる香奈枝だった。
もし俺の知っている香奈枝だとしたら、実は俺のはとこで昔会ったことがある。でも、昔といっても小学校低学年ぐらいまでしか会ったことがないからなんともいえないけどな…。それにあの時のあの顔から、ここまでかわいくなってるとは思わなかった。
髪はショートカットだったし、茶色かったはずだ。それが今は、髪はロングヘアになってるし髪は黒い色になっている。染めたのだろうか…、それとも…
「…なんかよう?」
っと、さすがに席に着いた後もずっとみていた俺が不思議だったのか、香奈枝が声をかけてきた。ちなみに、自己紹介のほうは次の人が始まるところだった。
「あ、いやなんでもないさ」
「なら、前を向いたら?周りから見たらおかしく思われるわよ?」
「あ、あぁ…うん」
俺達は、香奈枝が一番後ろの席、俺がさっきも言ったが、その席のひとつ前である。つまり、香奈枝の後ろにはロッカーがあり、不思議に思うのは、俺の席の列と香奈枝の列の二列だけなのだが…。確かに、おかしく思うよな…こんなにずっと後ろ向いてるんだもん。
そうか…あはは。あの反応からして香奈枝は俺のこと覚えてないみたいだな(泣)ふっ、悲しくないさ…うん。別に悲しくはないさ!
まぁ俺は、はとこって言われて初めて会いに行ったときに、明るくてすごく印象に残ったから覚えてただけであって、まぁあれ以来2,3回しか会ってないから、覚えてなくても普通だけどさ…。まあ、仕方ないか。
朝のホームルームも終わり授業までの自由時間になった。
「おい玲!なんだあの美少女は!知り合いなのか!?」
あー、こいつおんなじ高校だったんだっけ。
いきなり休み時間になって話しかけてきたこいつは白仁田亮介。なぜかこいつも関わりがあって小学、中学ともに同じで、まぁ一番の友達の仲ではあるのだが、まさか高校まで同じだとは知らされてなどいなかった。
「おぉ、亮介~同じ高校だとは知らなかったよー」
「はぁ!?お前相変わらずさらりとひどいこと言うよなぁー。さっきの俺の自己紹介聞いてなかったのかよ…」
「いやあ…ちょっとぼーっとしてまして…」
本当は後ろにいる香奈枝のことが気になってて他の人の話なんか聞いていなかったってところなんだけどな。
「いや、みんなの自己紹介の時にぼーっとするなよ…。じゃなくて!!誰だよあの美少女!知り合いなのか!?」
って言われましてもねー…。あっちは俺のこと、はとこって知らないわけだし、今事実を言って変に誤解されるのもやだしなー…。よし、ここは嘘をついといてしのいでおくか。
「いや、たまたま後ろの席で話しただけさ。だから何の関わりもないさ」
「そうか…。知り合いだったら紹介してもらおうと思ったのに」
「お前相変わらず美少女には、目がないんだなぁー」
「まぁな。美少女はほとんどチェック済みだからな!」
と、なんか胸をはって答えている亮介。こいつ顔はかっこいいし、運動もできるからもてるっちゃあもてるんだけど、なんかもったいないというか、残念というか…。中学のときも美少女から告白されてもなぜか断るし…。本当によくわからないやつだ。
「ふーんお前らしいなー。そういえば部活どうすんよ?」
「あぁー、俺はサッカー部にはいるつもりだぞ?玲は?」
あ…。話をふっときながら自分は決めてなかった。どうしたもんか…。
んまぁここはいつものあれでいくか。
「亮介とは違う部活に入る」
「お前…またかよ!中学の時もそうだったよなぁー」
そうなのだ。中学のときもこいつがサッカー部に入るといったから、俺は亮介とは違う、文化系の部活動に入ったのだ。しかも、たまたま2年の時に同じクラスで、文化祭の案が出された時もあいつとは逆の意見を出したりと、すべてにおいて違うことをしてきた。なのになぜだろうか、そういう学校関係に関すること以外は案外意気投合するんだよなー。だからこんなにも仲がいいんだろうな…。
「仕方ないだろー、俺お前ほど一緒に運動したくないやついないもん」
「うわ~、いまのは傷ついたわー…」
「ご、ごめんって。まぁ、また今度暇あったら遊びにでもいこうぜ」
「むぅ…。わかったよ」
と、ここで授業開始のチャイムがなった。
「おっと、もう時間か…。また後でな」
といって亮介は自分の席に帰っていった。
まぁ、授業といっても今日は入学式のため授業という授業ではなく、ちょっとした学活みたいなもので、そう急がしいものではなかった。
そして入学式。なんかこの高校は午後に入学式をやるらしく、入学式の前に自分のクラスの人の顔はなんとなくわかってしまうのだ。
「なぁなぁ、あの校長のハゲ方やばくねぇ?」
あぁーなんでここで話かけてくるんかな?場をわきまえてほしいものだ…。
「あぁそうだな。すげぇーすげぇー」
「お前…。まぁ見てみろってやばいから」
………。あはははは!やべぇ!なにあのハゲ方!まじうける!
「亮介。お前はやっぱり最高の人間だ…。だがちゃんと場をわきまえようか。…くっ」
「なんだよー。お前今笑ってたくせにー…」
という愚痴ってる声が後ろから聞こえながらも無視していた。まぁ校長が話してる間ずっと笑ってたけど…。
入学式も無事に終わり教室に戻った俺は、帰りの連絡やら色んなかったるいことを終わらせ、帰宅の準備を始めた。
「玲ー、帰ろうぜぇー!」
「わりぃ、今日は先に帰ってくれないか?」
「なんでだよ?」
まずい、ここで美花の話を出すわけにもいかないしな…。ここは定番のあれでいこうか。
「家庭の用事だ」
「ちぇー、じゃあその辺の美少女誘って帰ろうかなー」
などといいながら教室を去っていった。あいつ、本当にその性格は直したほうがいいと思うが…。そういえば今日、あいつに二度も嘘ついちまった、まぁ、あいつだからいっか!
それに今日は約束があるから仕方ないんだ。そう、今日は美花との約束があるのだから…。
放課後…。俺は約束した校門の前で美花を待っていた。ただ、帰宅する生徒がかなり俺を見て不思議がってた時は恥ずかしかったなー…。
「ごっめーん!待たせた?」
「いいや。いこっか」
うん!と返事してきて俺たちは書店に向かった。
その後本屋に行ったものの、結局俺は元から買おうとしていたものが売ってなく、ずっと美花の付き添いをしていたわけで…。
けど、美花は買いたい本が買えてご満悦のようだ。
「ごめんね玲、付き合わせちゃって」
「いいっていいって!気にするなよ。買いたいもん、買えたんだろ?」
「うん!これほしかったから。ありがとね!」
って美花は言ってくれるが、本当におごったわけでもないし、ありがとうって言われる理由がわからないのだが。
まぁ美花が喜んでくれたんなら全然いいんだけどね。
「あ、私こっちだから。じゃあね!」
「いいって今日ぐらいは送っていくよ」
「えっ?本当に?いいって別に…帰るの大変になっちゃうよ」
「別に一緒に帰りたいって言ってんだからいいだろ?」
「うぅ…じゃあお願いしようかなー!」
と、彼女の家の方向に向かって歩いていく俺たちだった。
美花を家まで送ったあと、家に着いた俺はただいまーと言って自分の部屋に入り、制服を脱ぎ捨てた。
ふぅー今日は色々あったなぁー…。
入学式、佐藤香奈枝との再会、親友が学校に入学してたこと…。まだまだ色々あったな…。けど、これからこの学校で俺の高校生活始まるんだな!
数日後。結局俺は高校生活が始まったばかりなのに、いきなり風邪をひいてしまい仮入部や部活動見学が全くできなかったのだった。そしてどうしようかな…っと悩んでいたとき、隣で歩いていた美花が俺の心でも察したかのように、とあることを提案してきた。
「ねぇねぇ、私たちだけで部活作ってみない?」
「え?急にどうしたの?」
「いや玲、風邪で寝込んでて部活もろくに見れてないでしょ?」
「まあそうだけど…美花は部活動入らなくていいの?」
「うん。実は私も部活決まってなくてさ。それで生徒手帳みたら、こう書いてあったの」
美花の見せてきた生徒手帳にはこう書いてあった。
第16条部員5名以上。そして部長、副部長の決定済み…書いてあることが多すぎる…。
「でね、もう部員四人集まったし顧問のサインも、もらったからあとは玲に入部してもらえばいいってわけ!だから、はいってくれるよね?」
「もうそこまでされてるのに入れないって言えるわけないだろ。入ってやるよ」
「やったー!よろしくね玲!」
っと、意外な形で部活が決まってしまったのだが…。まあいっか、新しい部活動で、しかも5人という少ない人数で部活できるのだから。
家に帰り、食事をしている最中に母さんが珍しく真剣な顔をしてこっちを見ながら言ってきた。
「玲、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
「ん?どうしたん?」
そう俺が問い返すと、少しだけ言うのを躊躇ったのか俺から視線を外した。が、すぐに俺の目を見て言ってくる。
「…実は母さん…再婚しようと思ってるの」
いきなりすぎて声にならなかった。けど、これは母さんが決めたことだし、俺には止めることはできない話だ。少し知らない家族が増えるだけ。そう割り切れば全然大丈夫だ、きっと…。
「そっか。まぁ母さんが決めたんだからいいよ。再婚…しなよ」
「玲…ありがとう。ただ再婚するから引っ越そうと思うの。大丈夫?」
「まぁ、いいけどちゃんと学校には通えるんだよね?」
「えぇもちろんよ。別にここから近いし全然大丈夫よ」
「ならよかった。それでそのお相手さんって誰なん?」
「………」
母さんは少しだけ俯いて黙ってしまった。俺はそんな母さんを見て話題を変えようとはしなかった。この話は話を変えていいほどの気軽な話ではない。そのくらい俺にでもわかる。だから母さんが何か言ってくれるまで俺は待つことにした。
そして沈黙の時間が続き、だんだん気まずくなった来た頃に母さんは顔を上げて重そうな口を開く。
「……幼馴染の…美花ちゃんのお父さんよ」
俺はその場に固まってしまった。ただただ理解が出来るまでずっと…。
やっと、整理がついてなんとか飯を食べ終えた後、母さんが
「後、今週の日曜日に子供たちもふまえて、顔合わせという感じで集まることになったわ。だから、その時に美花ちゃんのお父さんにもちゃんとあいさつしてね」
…そうだよな。そりゃ顔合わせとかはしないとだよな。
「そういえば、おじいちゃんとかのご報告的なあれって、もうすませたの?」
「うん…。もう済ませてあるわよ。後は挙式くらいかな」
「そっか…。ちょっと慣れるまでには時間かかるかもだけど、頑張ってみる」
「…っ。ありが…とうっ」
母さんが泣き始めてしまった…。そんな親の決め事に子供が介入するのは良くないしな…。しかもそこまで話が決まっているのならなおさらだ。
「ほらっ、飯食べようよ。冷めちゃうし…」
「そうねっ…。食べましょっか」
その後は終始無言だった。母さんは泣き止むまで結構時間かかったし、話しかけにくいムードだったというのもあった。けど、どこか母さんは嬉しそうで、本当によかったなって思う。是非とも幸せになってほしいな…。
俺は自分の部屋に戻っていた。ただ、ひとつだけ疑問に思ったことがある。美花は…、美花はこのことを知っているのだろうか…。今確認してしまおうか…どうしようか…とずっと悩んでいた。
それから数十分経ち、結局俺は今聞いてみることに決めた。もし美花が知っていたとして明日、俺はどんな顔をすればいい?何を話せばいい?だったら今聞いて話し合って、『普段みたいに接し会おう』って言えば楽じゃないか!と考えた。だから…俺は美花に電話をかけた。メールにしようかなと悩んだのだけれどもやっぱり電話のほうが美花が嘘をついているのかわかりやすいと思ったからだ。
「もしもし?玲、こんな時間にどうしたの?」
美花は、電話をかけたらすぐにでた。携帯でもいじっていたのだろうか…。
「いや…。美花あのな…」
「ん?どうしたの?」
「いや。それがな…」
「ん?なんも用ないんなら電話切るよー?」
「あ、ちょっとそれは待ってくれ…」
はぁ…。っと長いため息をついて、俺は覚悟を決めて美花に聞くことにした。
「美花、お父さんからなんか聞いたか?」
俺心臓バックバクでやばい状態だった。
「んーいきなりどうしたの?」
「どっちなんだよ!?」
「うぅ…。なんも聞いてないよ?いきなりどうしたのそんなにこわばった声だして…?」
「いや、なんでもないよ。ごめんないきなり電話しちゃって」
「いいっていいって!じゃあまた明日ね!」
と言って美花は電話を切った。はぁー…。よかったぁー…。これで美花が知ってたらやばかったな。もし、知ってたら明日会った時に、話にくくなっちまうもんな…。けど、いつか知らされるんだよな。ちゃんとそん時の覚悟もしておかないとなんだよな。
そんなことを思いつつ俺は眠りについた…。
次の日、登校中たまたま美花と遭遇した。
「おはよー!」
ビクッて少しだけなったけど、ここで異変を感じ取られたらやばいから、平然を装って後ろを振り向いた。
「おぉ、美花じゃないか。おはよ」
「そういえば、昨日の電話どうしたの?いきなりでびっくりしちゃった」
「いや、気にすんな。今日初めての部活じゃないっけ?」
「あぁー!そうだった!今日メンバーがわかるから楽しみにしててね!」
「あぁ。楽しみにしてるよ」
その後もいろんな世間話で盛り上がって校舎についてしまった。
「じゃあ放課後部室でね!」
「うんわかったー」
といいながら別れたのだが…、美花が振り返って
「玲ー!そういえば部室知ってたっけ?」
「あっ、知らないや。どこにあるの?」
「もう…。私がー迎えにいくから待ってて!」
「わかった!」
玄関先でこの会話をしたのだが、運がいいことに誰も人が通らなかったため、誰にも聞かれずに済んだ。まぁ、ラッキーだったな。
その後、美花と俺のクラスの前で別れて(俺のクラスの方が、階段に近いためだ。)美花は、小走りでクラスの中へと消えていった…。
「玲~、部活決まったんか?」
朝っぱらからうるさいやつだな…。ちなみに亮介は結局サッカー部に決めたらしく、なんかこの頃夜に一緒にランニングしようぜ~とうるさくて困っている。こいつ俺が部活決まったか知らないくせに、一緒にランニングしようとかいってきたんかよ!なにが目的なんだかさっぱりだ。
「決まったさ。美花と一緒に部を立ち上げるんだよ」
「まじか!いいなぁー俺もそっちに行きたかったな~」
「お前はサッカー部で頑張るんだろ?」
「まぁそうだけどよ…体力が足らないんだよ…」
「だからってまた俺をランニングに誘うつもりじゃないだろうな?」
「なっ、お前俺の考えてることがよくわかったな…」
「いや、この件だといつもこれじゃん」
「あ、確かにそうだなー」
「お前、バカだな」
などと、いつものように朝のホームルーム前にくだらない話でいつも盛り上がってしまうんだがたまに…
「白仁田くーんっ。前を向きましょうねぇ~」
「はーい、すいませーん」
こうやってホームルーム中までしゃべってしまうことがあるところがあるんだよね…。ただ、担任の先生がさっきみたいに、ほんわかって感じの先生なので、クラスのみんなも逆にうるさくなることもなく、ほわわーんとしたクラスとなっている。とてつもなく楽で良いクラスだ。
ちなみに俺が寝込んでいる間に席替えをしたらしく、俺の席の前に亮介が来ていて、香奈枝が後ろにいるのは変わらずだった。運がいいんだか悪いんだか。
放課後になり、教室で美花を待っているのだが…。あーあ…美花こねー…。
その後5分ほどして、教室の前のほうのドアが開くと、美花が現れた。
「ごっめーん遅れちゃった!」
「結構待ってたんだぞー。…まぁいいや早くいこうぜ!」
「ごめんねーっ。こっちだよー!」
と、美花につれられ部室に向かっていった。
…教室まで遠いな!こんなかかるとは思わなかったよっ!
俺達は部室の前までやってきたのだが、自分の教室から階段を降りて、左に行って…っとかして、やっとここまでついたのだ。だいたい十五分ぐらいだろうか。
「もう、みんな揃ってるはずだからまず私から入って、ちょっとしたら入ってきてね!」
とか言って、美花は先に部室の中に入っていってしまった。「いやぁみんな早いね!」っという美花の声が部屋の中から聞こえてきた。…よしっいくか!
扉を開いて俺は衝撃を受けた。まず、中央に長テーブルが二つくっついておいてあって、少しだけ高級そうなイス、そしてそれ以外はほとんど何も置いてない殺風景な部屋…。ここが俺たちの部室なのか?
メンバーを見渡してみると、…な、なぜここに香奈枝がいるんだ!?しかも女子しかいねぇ!
「なにしてるの?早く座りなさいよ!」
美花がなんかうるさいので空いている席へと座った。
「じゃ、最後の一人が席に着いたところで、自己紹介始めましょっか」
という美花の掛け声と共にまず美花から自己紹介が始まった。
「まずは私から。皆さん知ってのとおり部長の鯨井美花。この部の設立者で1年。まぁこれから約3年間よろしくね!」
と、まず美花の自己紹介が終わり、次は俺の番だということなので、さらりと終わらせてしまった。
「はい、次ー」
次に席を立った子は、どこかやんちゃっぽく見え、運動部系な女子って感じをだしている。髪はショートで、軽く茶色がかっている。スタイルはいいし、普通に可愛い思う。
「えー私は今井琴美。1年4組です。なんか美花に誘われてきたけど、まぁ楽しく過ごせればなーと思ってるからみんなよろしく!」
「うんうん、琴美ちゃんよろしくねー!はい次ー」
予想通り、ボーイッシュって感じな子だったなー。美花となんか繋がりがあるのだろうか…。
次に席を立った子は、いかにもドジっ子って感じで、巨乳で、髪は長めで茜色をしている。なぜか、立った瞬間から涙目だし…。
「うぅ…自己紹介とか苦手ですー。美花ぁー私の分は飛ばしてぇー!」
「ダメよ!しっかり自分の仕事をはたしなさい!」
おいおい、この子にだけは強く言うな…。しかも自己紹介って仕事なのか?
「うぅ…、仕方ありません…。平野冬香です!えぇーと1年2組です。これからよろしくおねがいしますぅー…」
「うんまぁ良しとしようじゃないか!はい次!」
予想通りのドジっ子っぷり。こりゃ、扱いに疲れそうだな…。
最後に席を立ったのは、先日俺のクラスにいてびっくりさせた、佐藤香奈枝であった。清楚キャラ感バリバリ出してるし…。まぁ、確かに周りから見たらそう見えなくもない…。
「佐藤香奈枝、1年3組。…よろしく」
「よし!みんな自己紹介はおわったわね。じゃあ今日はみんなで雑談でもしましょうか!」
ということで、みんなそれぞれが雑談を始めてしまったので俺は隣にいる香奈枝に俺のことを覚えているかを確認してみることにした。
「こんにちは、佐藤さん」
「…こんにちは」
「えーと、話すのは自己紹介の時以来かな?」
「えぇ、そうね。それで何か用?」
…あぁ、やっぱり覚えてないみたいだな。ちょっと遠まわしに覚えているか聞いてみるか。
「佐藤さんっていとこか、はとこっていた?」
この結果次第で覚えているかわかるな。
「…なんでそんなこと聞くのかしら?」
やばっ変な目で見られたっ!何?この変態、みたいな目で見てるよー…。決して俺はそういう訳じゃないのにっ!
「あの…ね、そういうわけじゃないからね!?」
「じゃあなによ。なんで聞いてきたのよ」
本当のこというわけにもいかないしなー…。
「ちょっと家庭内事情を知りたかっただけさ!」
「…。あ、今井さんってどこ中だったの?」
…ぐすん。ぐすん。
「玲、なんで泣いてるの?」
「…美花ー」
「え、ちょ、何!?どうしたの!?」
「うっ、うっ」
「ほら、泣かないのっ!みんな驚いてるでしょ!?」
「…だって、だってぇー」
「だってじゃないのっ!ほら、こっちきなー」
美花が抱きしめてくれた。
「…部長!?何してるんですか!?」
「い、いやっ!べ、別に玲がかわいく見えたんじゃないいんだからねっ!」
…これって、ツンデレっぽい言い方だよね。…気にしない、気にしない。
「部長…ある意味やばいですよ」
「え?何が!?」
「…わからないならいいですよ」
今井さんはなんか、呆れたような顔をしていた…。
「それならそうと早く元の位置に戻ってください、そこの君」
「え!?あ、はいぃぃ!」
なぜか知らんが、今井さんが急激に怒ってらっしゃった!
「こ、こら!琴美ー!」
「だ、だってこいつずっと美花にくっついてるんだもん!」
「まぁ、そうだけど…。ほら、離れなさい玲」
「あ、うん…」
その後、今井さんはなぜか俺が席につくまで睨みつけてきた。…怖い怖い。
結局、その騒動が落ち着いた頃、俺は平野さんと話していた。
「平野さんは中学どこだったの?」
「えーっとねぇ、大野江中なんだぁー。多分、斉藤くんはわからないと思うよぉ?」
「う、うん。知らないやっ」
…な、なんだこのしゃべり方は。ほんわかっていうか、のほほんというか、なんかまったりできるなぁ、平野さんとしゃべってると。
「そういえば、変な話ですけど一つだけいいですか~?」
「え、あ、うん。いいよ」
「私、体が弱くて学校休みがちなんで、部活にでてこなくても気にしないでくださいね」
このときの平野さんはさっきまでのほんわかな声ではなく、真剣で全く違う、なんか私は影のような人間なので、いてもいなくても気にしないでください。のように聞こえたような気がした。
「う、うん。わかったよ」
そういった時、平野さんは優しく微笑んでくれた。
「あ、あともう一つ、斉藤君って言いにくいので、玲くんって呼ばせてもらってもいいですかぁ?」
「うん全然いいよ」
「それでは、私のことは冬香と呼び捨てでお願いします~」
「わかった、けどなんかあれだから、冬香ちゃんって呼ぶよ!」
「はいっ」
そういうと、また優しく微笑んでくれた。…たださっきのあの言葉には裏がありそうだな。
そして俺は気まずいながらも、香奈枝に話しかけてみた。我ながら、また話しかけるだなて馬鹿だなって思う。
「こ、こんばんわっ!」
「…こんばんわ?」
…やらかしたぁぁぁ!!こんにちはだろうがぁ!しかもなんでさっき話してたのにまたこんば…じゃねえや、こんにちはからなんだよ!ばかだろ俺!普通、そういえばさぁ…。とかにしとけばよかったんじゃないかぁぁ!!
「何もがいてんの?…ばっかみたい」
「あ、あぁぁぁぁあぁああ!!」
こいつは凶器だぁぁ!精神破壊機という名の凶器だぁぁぁ!!
…俺の精神力は0になり、机につっぷ伏せて一人…泣いていた。
その後俺はいつのまにか寝てしまったらしい。
「あ、玲起きた?」
目の前に美花の姿が…あれ?みんないない。
「あ、うん…。みんなは?」
「玲が寝てる間に下校時刻になったから帰ったわ」
あ、なるほど…もう7時18分ですか。どんだけ寝てたんだよ、俺。
「んじゃもう下校時刻過ぎてるし帰りましょっか」
「あぁ、そうだな…」
俺達は先生に見つからないように、校門の方へと向かった。
帰り道…。まぁ、俺はもちろん美花と一緒に帰っていた。なんら変わらないいつもと同じの帰り道、だけどもう数ヶ月後か数日後かわからないけど、変わるんだよな。隣に美花がいることは変わらない。ただもうこの景色は変わってしまう。
なぜなら俺の母さんと美花の家の親父さんとが結婚するらしく、俺達は同じ屋根の下で暮らすようになるらしい。まだ美花は親父さんから何も知らされていないようだが、絶対にいつか知ることになる。俺はその時美花に対してどういう顔をすればいいのだろうか…
「どうしたの玲?そんな深刻そうな顔してー。」
「え?あ、いやごめん。なんでもないよ!」
「またまたぁー。どうせ香奈枝ちゃんのこととかでしょー?」
「う、うん。まぁそんなとこかな」
うわっ、俺知らないうちにそんな顔してたんだ。気を付けないと。
美花にはまだばれてはいけない。絶対に親父さんから教えてもらったほうがいい。自分のことだから美花が「なんで!?」とか言ってきても、絶対に対応してくれるだろうし、納得もさせてあげられると思う。
俺だったら絶対に納得もさせてあげられないし、逆に混乱させてしまうだけだ。ただ再婚するということだけしか知らない俺には、説明さえもできなしな。
「んもぉー…。玲、この頃私に隠し事多くない?」
「なんだよー。別に彼氏彼女でもないし、美花だって一つや二つ隠し事はあるだろ?」
「あ、あるわけないじゃん!私は玲に隠し事なんかしないよ…」
「じゃあ、彼氏とかいんの?」
「い、いるわけないでしょ!そっちこそどうなのよ!?」
んー、いないけどここは嘘ついてみようかなー。美花って、からかうとおもしろい部分あるからなぁー。
「うん、いるよ」
「…!?ほ、本当に?」
やべっ、泣き出しそうな顔し始めちゃったよ…。さすがにかわいそうになってきたな。ばらすか…。だけどなんでこんな顔してるんだ?
「冗談だよ冗談!本気にした?」
「も、もう玲のバカ!嘘つき!!」
いってー…。右足首蹴られたー…。ただ、冗談と言った時にほっとしたように見えたのは気のせいだったのかな…。
「ご、ごめんて。許してよ…」
「むー…。仕方ないなー今回だけだからねっ!」
と、いつも許してというとこうやって言っていつも許してくれた。今回って言葉何回聞いたことやら…。
「ありがたやー、ありがたやー…」
「もう。いつもそうやってー…。あっ、私こっちだから。じゃあね!」
「おう。またなー!」
といって俺達はそれぞれの家へと帰っていった。
結局家に帰った後、家が真っ暗なことに気づいて、リビングの電気をつけ、自分の部屋へと向かった。その後俺はなんでだかはわからないけど、部活で1時間近く寝ていたのに、制服を脱いだ後に布団にダーイブっ!したら、いきなり睡魔が襲ってきて寝てしまった。…疲れてたんかな。
そして、次に起きたときは親が帰ってきて、玄関のドアを開けたときであった。時計は八時二十三分を指していて、帰ってきたのが七時四十八分だったから、だいたい…四十分ぐらいか。…にしても、今日は母さん帰ってくるの遅かったな。珍しいものだ。
その後、寝ぼけながら風呂に入り終わった俺は、リビングに行きいつのまにか用意されていた夕食を食べることとなった。
飯を食べ始めて、ちょっと経った頃…。
「玲。母さん、美花ちゃんの家のお父さんと婚姻届出してきたから、多分今日の夜にでも美花ちゃんに伝わると思う…」
ついにか…。今日一日ずっとどうしようかと思っていたけど、今日のうちに結論は出さないといけないみたいだな。随分といきなり時間が減らされたものだ…。
「そっか…。まぁ、こっちはこっちでどうにかしとくよ」
「どうにかって?」
母さんはきょとんっと小首を傾げて聞いてきた。
「え、あ、いやぁ…。こっちの問題だよ!気にしないで!」
「う、うん…。わかったよ…」
なんか、色々と察しられた気もするけど…。まぁ、いっか…。またなんか言われたときは、さっきみたいにはぐらかせばどうにかなるさ…!
と、まぁなんかいろいろとそういう話をずっと夕食時には話していた。それで、一緒に住むのは二週間後らしく、もうすぐだった。
いきなりすぎて困るなと俺は思っていた。まぁ、昔から俺には相談なしに勝手に決める人だったから別に気にしてはいないいんだけど、やっぱりもうちょっと早くから教えて欲しかったな…。さて、部屋に行くかな。
その後、俺は明日どう美花と話せばいいか考えていた。こっち系の話はもちろんするつもりだった。俺は、はやく現実を受け止めようと思ったからな。だけど何を話そうかな…。ストレートに言ってみようかな。まぁ明日にはどうなってるかわかってるさ!そう思いながら俺は寝た。