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第5話「心を溶かす温もり」

「救う、だと? 我を侮辱するか、人間」


 レイルは鼻で笑った。彼の目に宿るのは、憐れみと、そして諦観。


 これまで幾度となく彼の前に現れては、その力を求め、あるいは討伐しようとしてきた人間たちと同じように、カイルもまた戯言を口にしているとしか思えなかった。


 しかし、カイルは怯まなかった。


「侮辱なんてしていません。俺は本気です」


 彼は立ち上がると、無謀にもレイルのそばに留まることを決めた。


 その日から、カイルの奇妙な城での生活が始まった。


 まずカイルが取り掛かったのは、食事の準備だった。追放される際に持たされたわずかな食料と、城の厨房に残されていた保存食を使い、彼は温かいスープを作った。


 公爵令息として育てられたが、家庭教師から護身術の一環として野営の知識も学んでいたのが幸いした。


 出来上がったスープを椀に入れ、玉座に座るレイルの元へ運ぶ。


「……くだらんことを。我に食事は不要だ」


 レイルは顔を背け、受け取ろうとしない。


「それでも、温かいものを口にすれば、少しは痛みが和らぐかもしれません。それに、俺が食べたいんです。一人で食べるのは、寂しいから」


 そう言って、カイルはレイルの隣の床に腰を下ろし、自分の分のスープを静かにすすり始めた。


 カイルの言葉に、レイルはわずかに目を見開く。永い時の中で、誰かと食事を共にすることなど考えたこともなかった。


 拒絶されても、カイルは諦めなかった。毎日三度、彼は温かい食事を用意し、レイルの傍らでそれを口にした。


 数日が経った頃、カイルが少し席を外した隙に、玉座の脇に置かれたスープの椀が空になっていることに気づいた。カイルは何も言わず、ただ嬉しくて、そっと微笑んだ。


 食事の世話だけではない。カイルは呪いの痛みを少しでも和らげようと、城の中を必死に探索し始めた。


 昼間は、魔物が比較的おとなしくなる時間帯を狙って森へ出て、薬草を摘んでくる。夜は、埃をかぶった城の書庫で、呪いや魔法に関する古文書を読み漁った。


 ボロボロの服のまま、顔や手を泥で汚しながら、自分のために奔走するカイルの姿を、レイルは玉座から黙って見つめていた。


 最初は、すぐに諦めて逃げ出すか、あるいは自分に何か見返りを求めてくるだろうと思っていた。だが、カイルは何も求めない。ただひたすらに、献身的にレイルのために動き回っている。


 ある夜、カイルは薬草を煎じた布を手に、レイルの前に跪いた。


「失礼します。気休めかもしれませんが……」


 そう言って、呪いの紋様が浮かぶレイルの額に、温かい布をそっと当てる。その瞬間、レイルの肩が小さく震えた。


「……やめろ」


「でも……」


「やめろと言っている!」


 レイルはカイルの手を荒々しく振り払った。その瞳には、怒りだけでなく、戸惑いや怯えのような色が浮かんでいた。


 優しくされることに、慣れていなかったのだ。温もりに触れることが、怖かった。いつか失われるのなら、初めから欲しくない。そうやって永い間、心を閉ざしてきた。


 しかし、カイルは振り払われても、悲しそうな顔で微笑むだけだった。


「すみません。でも、明日もやりますから」


 その真っ直ぐな瞳に、レイルの心の壁が、ほんの少しだけ、音を立てて軋んだ気がした。

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