第3話「唯一無二のスキル」
「答えよ。さもなくば、塵も残さず消し去るぞ」
魔王――レイルの声には、有無を言わせぬ威圧感が込められていた。
本来であれば、その一言でカイルの魂は砕かれていたはずだ。しかし、今のレイルには、その言葉通りの力を振るうだけの余力がないように見えた。
玉座から立ち上がろうとするものの、全身を苛む呪いの痛みに顔を歪め、再び深く座り込む。
額には脂汗が浮かび、浅い呼吸を繰り返している。その姿は、絶対的な支配者というよりも、呪いの檻に囚われた痛々しい獣のようだった。
カイルは恐怖を感じていた。体の芯が凍りつくような、根源的な恐怖だ。
だというのに、彼の足は一歩、また一歩と玉座へと向かっていた。
レイルのあまりの苦しみように、見ていることしかできない自分に苛立ちを覚えたのだ。
追放され、全てを失った自分も不幸だと思っていた。だが、目の前の男が耐えている苦痛は、そんなものとは比べ物にならないように思えた。
永い、永い間、たった一人でこの激痛に耐え続けてきたのだろうか。
その孤独を想像した時、カイルは思わず手を伸ばしていた。
「……っ、貴様、我に触れるな!」
レイルが威嚇するが、カイルの手は止まらない。そして、カイルの指先が、呪いの茨が絡みつくレイルの腕にそっと触れた。
その瞬間だった。
――ブツンッ。
カイルの頭の中で、何かが弾けるような感覚が走った。
「ぐっ……あ……!」
視界が白く染まり、強烈な頭痛が襲う。これは、カイルが忌み嫌い、そして今この場に追いやられる原因となったスキル、『呪物鑑定』が強制的に発動した合図だった。
普段は呪われた「物」にしか発動しないはずのスキルが、なぜか生きているレイルに対して発動している。
そんな思考をする余裕もなく、膨大な情報が濁流のように脳内へと流れ込んできた。
【名称:悲しみの呪縛(Soul Bind of Sorrow)】
【種類:古代封印魔法・魂干渉系】
【術者:古代の英雄 アルトリウス】
【対象:魔王 レイル】
【効果:対象者の魔力を封印し、その魂に直接作用する継続的な苦痛を与える。対象者が他者への強い害意を抱いた場合、苦痛は増幅する】
【解呪条件:古代英雄の三つの遺物を集め、術者が込めた『真意』を理解する者によって儀式を行うこと】
【備考:本呪いは、憎悪ではなく、深い悲しみと友愛によって編まれている。術者は対象者の暴走を止めるため、自らの命と引き換えにこの封印を施した……】
「う、ぁあああああっ!」
情報の奔流に耐えきれず、カイルはその場に膝をついた。息ができない。頭が割れそうだ。
だが、それ以上に彼を衝撃が襲っていた。




