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番外編「もしも、魔王様が人間に化けてお忍びで会いに来たら」

 魔王レイルは、自らを苛む「悲しみの呪縛」を解く手がかりを求め、人間の姿となって王国に潜入していた。魔力を抑え、目立たない旅人として情報を集めていたが、これといった成果は得られずにいた。


 ある日、立ち寄った街の広場で、貴族たちの嘲笑の的になっている一人の青年を見かける。亜麻色の髪を持つ、優しそうな顔立ちの青年だ。


「見ろよ、アルフレッド公爵家の出来損ないだ」


「あの不吉な『呪物鑑定』スキル持ちめ」


 青年――カイルは、何を言われてもただ黙って俯いているだけだった。その姿に、永い間、魔王として孤独に耐えてきたレイルは、どこか自分と通じるものを感じ、興味を引かれた。


 レイルが何気なく彼に近づいた、その時。


 カイルがふと顔を上げ、レイルと目が合った。そして、驚いたように目を見開く。


「あの……失礼ですが」


 カイルはおずおずとレイルに話しかけてきた。


「あなた、何かに酷く苦しんでいませんか? 体の奥底から響くような、とても深い悲しみの気配がします」


 レイルは衝撃を受けた。初対面のはずの青年に、自らの呪いによる苦痛の本質を、ピタリと言い当てられたのだ。この青年が持つという『呪物鑑定』は、噂通りの不吉な力などではないのかもしれない。


「……気のせいだろう」


 レイルは正体を隠すため、素っ気なく答えてその場を去ろうとした。


「待ってください! 気休めにしかならないかもしれませんが……」


 カイルは懐から小さな薬草の包みを取り出し、レイルに差し出した。


「これを煎じて飲めば、少しは痛みが和らぐはずです。あなたの苦しそうな顔、放っておけなくて……」


 見返りを求めるでもなく、ただ純粋な善意で差し出された薬草。レイルは戸惑いながらも、それを受け取った。


「……礼を言う」


 その日を境に、二人の奇妙な交流が始まった。


 レイルは「レイ」と名乗り、情報収集という名目でカイルに会うようになる。カイルは貴族社会で孤立しており、レイが初めて自分を色眼鏡で見ずに話してくれる相手だった。


 二人は街外れのカフェで話し込んだり、一緒に図書館で本を読んだりした。カイルはレイのミステリアスな雰囲気に、レイルはカイルの優しさと、その奥に隠された芯の強さに、互いに惹かれ合っていった。


「レイさんは、いつもどこか寂しそうですね」


「……お前もな。本当は、強い心を持っているのに、それを隠している」


 互いの本質を見抜き、寄り添い合う時間。それは、孤独だった二人にとって、何よりもかけがえのない宝物になっていた。


 レイルはまだ、自分が魔王であることも、カイルのスキルが自分の呪いを解く鍵かもしれないことも告げられずにいる。


 もどかしくも甘い恋物語が、今、静かに始まろうとしていた。

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