第18話「偽りの聖女との対峙」
深夜、カイルとレイルは闇に紛れて王城への侵入に成功した。レイルの魔力を応用した隠密魔法のおかげで、警備の騎士たちに気づかれることなく、二人は目的の宝物庫へとたどり着く。
宝物庫の最奥、最も厳重に警備された一角に、それはあった。台座に安置された、美しくも神聖な輝きを放つ『守護の宝剣』。
カイルが宝剣に手を伸ばした、その時だった。
「――やはり、あなたでしたのね、カイル様」
背後から、鈴の鳴るような、しかし氷のように冷たい声が響いた。
振り返ると、そこに立っていたのは、純白のドレスを身にまとった聖女リリアンナだった。その隣には、不気味な笑みを浮かべる宰相もいる。
「ネズミが嗅ぎまわっていると報告がありましたが……まさか、魔の森から生きて帰ってくるとは、しぶとい方」
リリアンナの瞳には、かつての慈愛の色はなく、侮蔑と憎悪だけが渦巻いていた。
「リリアンナ……! なぜあんな嘘を……なぜ俺を陥れた!」
「決まっていますでしょう? あなたのその忌まわしいスキルが邪魔だったからですわ」
彼女は悪びれもせずに言い放つ。
「さあ、おとなしく捕まりなさい。今度こそ、確実に息の根を止めてさしあげますわ!」
リリアンナが合図をすると、周囲から大勢の騎士たちが現れ、カイルたちを取り囲んだ。絶体絶命の状況。
リリアンナは勝ち誇ったように笑うと、手を天に掲げた。
「皆の者、見なさい! この反逆者が、再び私から聖なる力を奪おうとしています! ですが、神は私に味方しているのです!」
彼女の体から淡い光が放たれ、周囲に神聖な気配が満ちる。騎士たちは「おお、聖女様!」とひれ伏すが、カイルにはその力の正体がはっきりと視えていた。
カイルは『呪物鑑定』スキルを、リリアンナに向けて集中させる。
彼女が放つ光は、彼女自身から発せられたものではない。彼女のドレスに縫い付けられた、小さな黒い宝石。あれが力の源だ。
【名称:簒奪の聖杯の欠片】
【種類:呪具(魔力搾取・増幅系)】
【効果:遠隔地に存在する強力な呪い(悲しみの呪縛)から魔力を搾取し、疑似的な聖属性魔力に変換する。持ち主に奇跡の力があるように見せかける】
【備考:聖女リリアンナの力の根源。オリジナルは城の地下にあり、これはその小型版。対象の呪いが弱まると、周囲の生命力をも無差別に吸い上げるようになる】
「……そういうことだったのか」
全てを理解したカイルは、もはや彼女に何の恐れも感じなかった。
「リリアンナ。お前の力は偽物だ。そのドレスに仕込んだ呪具で、人々を騙しているに過ぎない!」
カイルの言葉に、リリアンナと、彼女を信奉する騎士たちの顔色が変わる。
「な、何を馬鹿なことを……!」
「その力は、お前が国民から搾取した富や生命力、そして……遠い地に封じられた、ある悲しい呪いを悪用して得たものだ! これ以上、人々を、そしてレイルさんを苦しめるのはやめろ!」
カイルの魂からの叫びが、宝物庫に響き渡った。




