風の使徒のお仕事は、お掃除です
読みに来て下さって、ありがとうございます。
何処にだって、嫌なやつは、いるんですよ。困ったことに。
うーん。こんな子供を相手に本気になっちゃ、駄目だよね。1割程度で行く?いや、1%位かな。
「ブツブツ言ってないで、行くぞ」
木剣を振りかぶって、飛び出してきた。
いや、駄目だよね。私、丸腰だし。
取り敢えず避けて、弱い竜巻を彼の周りに作ってみた。
「動かないで。動くと、多分、危ない」
私が、そう言うと、ケネスは硬直した。その間に、私は、その辺に落ちていた葉っぱ付きの枝を拾って、ケネスの側に行った。
「卑怯だぞ。何をする気だ」
「卑怯なのは、ケネスだろう。こんな細っこいチビ相手に、木剣で殴りかかって。まあ、それを止めなかった俺達も悪いけど」
文句を言うケネスに、他の騎士見習い達が口を出した。
あー、皆は、ちゃんと一応、卑怯だなとは思ってるのか。ふーん。でも、まあ、ここは、見せしめってことで。
「じっとしてて、危ないから」
ケネスの周りを渦巻く小さな竜巻に、私は枝を突っ込んだ。一瞬で、葉っぱは枝ごと砕けてケネスの周りを凄いスピードで周り出した。
「何だよ!これ」
「竜巻?うーん、ちょっと威力が凄過ぎたかも、ゴメン。普段、人を相手に闘わないもんだから、力加減が、わからなくて。これでも、手加減したんだよ?」
竜巻を消滅させると、ケネスは木剣を持ったまま、地面に膝を付き、恐ろしそうに私を見た。
やり過ぎた?
宿舎の方から、騎士見習いの小さな子と副団長が走ってくるのが見えた。
「お前らは、何をしている!ケネス、ミオウ」
副団長は、私達を睨み付け、不機嫌に私の頭を掴んだ。
痛いってば。と言うか、私?
「ミオウ、魔術を使うのは卑怯だぞ。殿下のご威光が、私までに届くと思うなよ」
何か理不尽~。こいつ、スターシオ様の敵?
「丸腰の素人に木剣で、飛びかかってくるのが、ここの騎士団の流儀?しかも、大勢で囲んで」
周りを見回しもせずに、副団長は、私の頭をそのまま地面に押し付けようとした。が、急に私の頭が軽くなった。
「副団長、ミオウ様は、私の管轄でしてね。手を離していただきましょうか」
トーマスさんが、副団長の襟首を後ろから掴んでぶら下げていた。
力持ちだな、トーマスさん。
「トーマス。たかが従者の癖に、生意気な」
「たかが従者に、ぶら下げられているのでは、鍛え方が足らないのでは?副団長」
トーマスさんが、副団長を片手にぶら下げながら、私を見て、ぎょっとした。
「ミオウ様、顔色が悪いですよ。大丈夫ですか」
「あー、ちょっと頭が痛いけど、大丈夫。助けてくれて、ありがとう。トーマスさん」
トーマスさんが、心配そうな顔をした。
あー、頭、痛い。トーマスさんも力持ちだけど、副団長の握力も凄い。頭、痛い~。
鐘が鳴り響いた。皆が一斉に鐘の方を振り向いた。トーマスさんが、忌々しそうに副団長の襟首から手を離した。
「副団長!魔牛の群れが村を襲っています」
騎士が1人、こちらに向かって走りつつ、叫んだ。
牛は、厄介なんだよな。大きいし、走り出したら、止まんないし。角あるし。しかも、群れか。
副団長は、慌てて走り出した。騎士見習い達も、宿舎に走り出した。トーマスさんも駆け出そうとして、慌てて私を振り向いた。
「ミオウ様は、ドナテロの所に行って下さい」
何言ってんの?一緒に行くに決まってるじゃない。
トーマスさんは、スターシオ様の出撃準備を終え、自らも準備をしている間に、私は、スターシオ様の馬に一緒に乗ろうとした。
「ミオウも一緒に行ってくれるのか。だが、私の馬は、危ない。トーマス、ミオウを乗せて」
スターシオ様は、団長と共に先頭に並んだ。私とトーマスさんは、治療係の神官達と共に、騎士団の後に付いた。
まず、スターシオ様が沢山の光の矢で、一斉に魔牛達を射た。続いて、騎士達が魔牛達に、切り付ける。
だが、更に地響きがした。もう一群れの魔牛達が、こちらに向かっていた。
ヤバい。幾らなんでも、多すぎる。
「トーマスさん、私も魔牛退治に行きます」
私は、馬から降りると、風に乗って空を飛び、魔牛達と闘うスターシオ様や騎士達を飛び越えた。宙に浮かんだまま、私は腕を伸ばして凪払う。
大風が起こり、魔牛達は吹き飛ぶが、すぐに立ち上がってこちらに向かって来る。
「やっぱり、お姉ちゃんがいないと、この方法ではムリか。では、これでは?」
先程、ケネスにしたように、竜巻をおこして、魔牛達を巻き込み、空高く飛ばしてみる。ぼとぼとと落ちてきた魔牛達は、すべて事切れていた。
後方を見ると、スターシオ様や騎士達も闘いを終えていた。魔牛達は、すべて地面に倒れこんでいる。
「ミオウ、降りておいで」
スターシオ様が、私に向かって、両手を広げた。切なそうな顔をしながら、スターシオ様は私を見つめた。
「風の使徒殿、これは、かたじけない」
血塗れになっている団長が、私をふり仰いだ。
いや、血塗れで笑う団長は、ちょっと何となく怖い。夢に出てきそうだ。
私は、慌てて視線をスターシオ様に戻し、その腕の中に、ゆっくり降りた。スターシオ様の首に私は両手ですがり、スターシオ様は私の背中に両手を回して、しっかり抱き締めた。
「良かった。ミオウが、そのまま飛んで行ってしまうかと思った」
「スターシオ様が、無事で良かったです」
私は、答えに詰まった。ずっと一緒に、いるわけには、いかない。
だが、今しばらく、スターシオ様の側に一緒にいたい。
「団長、あれは、何ですか?」
「副団長。あれは、その、なんだ」
「だから、何なんですか」
「まあ、スターシオ殿下のお気に入りだな」
「何で、弱っちい振りなんかしてるんです?」
「人間相手だと、力加減がわからんらしい。手を出すなよ」
「もう、出しちゃいましたよ……」
「菓子折りでも持って行って、土下座してこい」
ミオウは、本来、魔獣を吹き飛ばした後、魔獣を魔素に分解して空気中に魔素を撒き散らかすんですが、今回は分解せずにそのままにしてます。
人間が魔獣の死体をどうするのか知らないので、放置してます。




