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風の使徒は、女騎士がお好き  作者: Hatsuenya


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7/23

風の使徒は、見習いの頂点を争う

 読みに来てくださって、ありがとうございます。


 ミオウちゃん、張り切って献身的に頑張ってます。



「おはようございます。スターシオ様」


 従者見習いの朝は、スターシオ様の洗顔の用意から始まる。

 だが、スターシオ様は、朝に弱い様です。

 井戸で汲んできた洗顔用の水を寝室のテーブルに置き、ベッドの中で身動ぎするスターシオ様を見た。

 おお、役得、役得。寝ているスターシオ様は、14歳という年よりも更に幼く見え、何か可愛らしい。


「う、ん……もうちょっと、寝る」


 美しく整った顔、長い睫毛に、淡いピンクの唇。寝惚けた声の愛らしさ。ンフフフフ。


「おはようございます。朝ご飯に、遅れますよ~」


 私は、スターシオ様の顔のすぐ横に顔を近づけ、スターシオ様の頬っぺたをツンツンしてみた。

 寝ぼけ眼で目を擦り、私の方を見て、うっすら目を開けたスターシオ様は、瞬きした後、目を大きく開いて飛び起きた。


「ミ、ミオウ!?」


「はい、おはようございます。スターシオ様。スターシオ様の従者見習いのミオウですヨー」


「え、何でミオウ!?ト、トーマスは?」


「私、トーマスさんの下っ端の見習い従者なので、スターシオ様の朝の洗顔係になりました。トーマスさんは、ただ今、朝のお茶をいれてらっしゃいます」


 ベッドの上で後ずさったスターシオ様は、シーツを胸元で抱き締めた。

 驚かせてしまったかな~。ごめんなさい。


「おや、おはようございます。スターシオ殿下。今朝は、スッキリ起きられたようで、良かったですね」


「良くない!トーマス、な、何で、ミオウが私を起こしに来てるんだ?朝一番は、不味いじゃないか」


「お寝坊なスターシオ様が、スッキリ目を覚まされるなんて。流石、ミオウ様。明日からもお願いします」


 任して下さい。見習いのお仕事ですから。ささっ、ベッドから降りてくださいね。


「駄目だ。朝一番は、駄目だから。トーマス、わかっている癖に!」


 何だか焦っているスターシオ様が珍しくて、お可愛らしい。ンフフフフ。



 朝食は、皆で食堂へ。

 スターシオ様は、未だ不機嫌続行中です。スターシオ様の食事量がわからないので、先輩のトーマスさんと一緒にスターシオ様の食事を取りに行く事にした。


「スターシオ様は、卵はスクランブルエッグがお好きです。ベーコンよりもソーセージを多めに。野菜は苦手ですが、多めによそって、ミオウ様がお口に運んであげれば、山程お食べになると思います。スープは普通に、パンは3個ですね。あ、フルーツはお好きですので山盛りで」


 トレイの上に、山盛りの食事の皿が載せられていく。騎士様だし、スターシオ様は体力資本ですからね。しっかり食べていただかないと。野菜も、しっかりですね。ヨーグルトや牛乳も、14歳は成長期ですから、重要です。

 トーマスさんも、スターシオ様と同じくらい山盛りで。

 私は、普通に中盛りで。背が高くなるように、牛乳は必須です。カルシウム、大事。背、伸びろ。


 途中、行儀の悪い足が延びてきたが、しっかりと無視させて頂きました。トーマスさんにギロリと睨まれた行儀の悪い足の持ち主の少年は、恐る恐る足を引っ込め、縮こまった。

 何せ、私、スターシオ様のお食事を運んでいますからね。ちょっかいかけないで頂きたいです。

 後でお相手しますから、かかってこい!ですよ。


「スターシオ様、お野菜が残ってます。はい、あーん」


 スターシオ様が、ビックリした顔で、恐る恐る口を開けた。私が口にお野菜を運ぶと、真っ赤な顔になって、モグモグと食べ出した。


「トーマス~。くそ~褒めていいのか、叱っていいのか。判断に困る」


「褒めてくださって結構ですよ、殿下」


 私に野菜を次々と口に運ばれ、スターシオ様は顔を赤くしながら、トーマスさんを横目で睨んだ。

 トーマスさんは、平然と食事を続けていた。

 野菜摂取は、大事ですから。スターシオ様には、しっかり食べていただきます。キリッ。



 さあ、ちょっとばかり、ヒエラルキーの順位を上げる事にしますか。

 朝食後には、馬の世話、朝の鍛練。そして、騎士達が日常業務を始める頃に、見習い達が鍛練場の隅に勢揃いした。朝食時の行儀の悪い足の持ち主もいた。うん、あの足には見覚えが、あるね。


「おい、新入り。ちょっとばかり可愛い顔してるからって、いい気になってるんじゃないぞ」


 学校で言う、校舎裏に来い!って、やつだ。女の私を、男共が大勢で囲んでいるという、ヤバい図です。


「お前、走り込みや柔軟の基礎鍛練のみで、剣の稽古や格闘術なんかも全部、サボってるだろう。おまけに、スターシオ殿下にベタベタしやがって」


 どうやら、スターシオ殿下のファンらしい。まあ、あんなにお綺麗な方ですから、当然と言えば、当然。

 だがしかし、私、ここは一歩も譲るわけには、行きません。

 んー、でも、よく見たら、身体は大きいですが、全員、子供ですよね。私に、グダグダ文句を言ってる行儀の悪い足の持ち主も、日本で言うと、中学生位?スターシオ様と同じくらいの年齢かな。


「私、従者見習いなんです。服がなくて騎士見習いの服を着てますけど、騎士見習いじゃないんで、剣は持たせてもらえません。格闘術も習えませんので、上司のトーマスさんに護身術を習ってます」


 行儀の悪い足が、ちょっと怯んだ。何だ。私が従者見習いなのが、分かってなかったらしい。


「だ、だからと言って、スターシオ殿下に『あーん』は、ないだろう」


 もう、スターシオ様ったら、罪作りなんだから。こんな少年にまで、モテちゃって。って、スターシオ様と同い年くらいか。


「スターシオ様に、苦手な野菜もしっかり食べていただくのが、私の仕事の1つです」


 キリッ!私は真剣な目で、行儀の悪い足の持ち主を見返した。


「ふん。走り込みは、やたらと速いし、基礎鍛練も機敏だが、とにかく、生意気だ。おい、お前、俺達と勝負しろ」


 勝負ですか。そうですか。

 どうぞ、どうぞ。ここは1つ、全力で叩きのめして、皆さんのヒエラルキーの頂点に立たしていただきます。ガキんちょ達に、構ってる暇は、ないので。今からお洗濯の時間ですので。

フンフン。


「おい、こいつの相手なんかお前で十分だ。イーガス、お前が、こいつの相手しろ」


 1番小さな騎士見習いが、そっと皆から離れて、何処かに行った。


「おい、イーガス!って、どこ行きやがった。まあ、いい。俺が相手してやるから、覚悟しろ」


「ああ、食堂で行儀の悪い足を私に向けて、トーマスさんに睨まれた方ですね。お名前は?私、ミオウと申します」


「っつ!俺は、ケネスだ。俺の足は行儀なんか悪くないっ!お前が避けたから、俺がトーマスさんに睨まれたんだぞ」


「スターシオ様のお食事を、落とすわけにはいきませんから、避けさせていただきました。私がスターシオ様のお食事を落としていたら、あなた、トーマスさんに殺されてますよ」


 あの人なら、やる。スターシオ様の為なら、ニコニコと優しげな笑顔のまま、きっちり、後腐れなく、殺しに来るだろう。

 ケネスも思い当たる節があるのだろう、顔が青くなった。


「……四の五のうるさい!おい、誰か手伝え。こいつに、ここの規律を教えてやる」


「俺は、やらない。話を聞けば、こいつに悪い所は、ない事がわかったからな。お前が独りで騒いでるだけだったのが、よくわかった。ケネスが1人でやれよ」


 「俺も」「僕も」と、ケネス以外の騎士見習い達は、ケネスの後方に下がった。皆、覚めた目でケネスを見ている。


「うるさい!よし、お前!ミオウ!俺と勝負だ」


 





「スターシオ様。野菜も、しっかり食べてください。はい、『あーん』です」


「……ああ、『あーん』。これは、人参だな」


「はい、そうです。今度は、トマトです。はい、『あーん』」


「トーマス、ニヤニヤするな。お前だな、こんなに野菜を盛ったのは。しかも、私の苦手な野菜ばかり」


「スターシオ様。野菜が苦手で食べれない等、まさか、そんな格好悪い事は、仰いませんよね?」


「覚えていろよ、トーマス」





 がんばれスターシオ、立派な身体は、まず、食べ物から作られるのだ。うんうん。

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