風の使徒、従者見習いになる
読みに来て下さって、ありがとうございます。
スターシオの国の辺境砦のお話です。
まあね、働かざる者は食うべかざる、ですよね。
と言うわけで、私はスターシオ様の従者見習いになった。言ってしまえば、アイドルの付き人、推しの第1信者みたいなものかな?と聞いたら、従者のトーマスさんに呆れられた。
「第1信者って、どちらかと言うと、あなたの方が信者が付く立場でしょうに」
風神様に信者は居るけど、御使いには、居ないですね~。うちの神様、あんまり手のかかる方ではないので、私は、神殿の供物を取りに行ったり、スタンピード時の魔獣のお掃除したりするくらいで、人の前に出ることはないです。
そう言えば、スターファルコン先輩が言うには、風神様と雷神様は、異世界旅行中らしい。やはり、お姉ちゃんは自力で見つけねばならないみたいだ。
さて、スターシオ様は、どうやら王族の方らしく、殿下と呼ばれている。そして、このトーマスさんが従者兼護衛としてスターシオ様のお世話をしているらしい。このトーマスさん、20歳のイケメンお兄さんだ。
いや、髭ダルマばかり見てきたから、まあ、イケメンかな?多分という感想しかない。薄茶の髪に、茶色の瞳の背の高い優しそうなお兄さんである。筋肉は、程々。細マッチョとか言うやつだな。うんうん。
スターシオ様は、トーマスさんを信頼しているらしく、彼に私の素性を話し、私をトーマスさんに預け、着替え終えるとすぐに団長さんの元へと行ってしまった。
この、『あ、うん』の呼吸、スターシオ様のトーマスさんへの信頼度合い、トーマスさんのスターシオ様への慈しみや愛しさの混ざった眼差し……お二人は、愛し合っている?
うん、横に並ぶと中々、お似合いかもしれない。ンフフフフ。
「とにかく、何も持っていらっしゃらないと言うことなので、騎士見習いの服を貰ってきましょう」
神殿には、あるんですよー。櫛とか、鏡とか、生活用品一揃え。しかも、キラッキラで宝石付きのやつ。風神様のお下がりだけど。信者さん達が、色々献上してくれるんだって。
補給係に行くと、色んなサイズの見習い服が揃っていたので、一番小さいサイズの服を貰ってきた。多分、これでも大きいかも。生活用品一式も、配給。ありがとうございます。
ついでに、砦の中も案内して貰った。食堂、風呂場(これは、私はスターシオ様の部屋の物を使うので、使用しない)、鍛冶場、洗濯場、図書室、団長室、武器庫。
「何か、武器は必要ですか?万が一の護身用に1つ持っておかれた方が良いかもしれません」
「包丁しか握ったことがないので、止めておきます」
「むしろ、包丁は使ったことがあるんですね」
「風神様雷神様の酒の肴は、時々、私が作ってましたので」
えへへへへ。酒の肴を作るのは、得意なんですよ~。
「風神様雷神様の料理人なんですか?」
「いえ、主に掃除を担当しています。ですから、魔獣退治の折は、お任せください」
キリッ!私は真剣な顔をし、トーマスさんを見上げて、頷いてみせた。
トーマスさんは、怪訝そうな顔をした。
最後に医療室に連れて行かれた。
「私は、外で待っています。医者には、スターシオ様が話を通していますので、心配事があれば、ご相談下さい」
お医者さんは、髪の長い眼鏡をかけた先生だった。ちょっと鍛えてますよ~と言う感じで、適度な筋肉度合い、ニコニコと優しそうに微笑んでいるが、目は笑ってない。油断のならない先生だ。
「おや、大丈夫ですよ。初めまして。風神様の御使いでいらっしゃるそうですね。私は、砦の医師をしていますドナテロと申します。さあ、こちらへ」
ドアを開けた途端に、一歩外に戻ろうとした私を、ドナテロ先生は、そう言った。
医者なの?とてもじゃないが、違う職業の人に思える。
「そう警戒なさらずとも、大丈夫ですよ。私は、スターシオ様の味方ですからね。ちょっと診察をさせて下さい。スターシオ様に万が一の事があったら、困りますので」
わかった事が1つある。当然ながら私は余所者で、味方はスターシオ様のみ。ドナテロとトーマスはスターシオ様の味方なだけだ、多分。そして、スターシオ様は、甘い。この2人はスターシオ様に近づくモノを見極めるお目付け役だ。
ドナテロとトーマスは、スターシオ様の為に、私を警戒している。そして、私はスターシオ様の為に、逆にこの2人を警戒しよう。
私は、ドナテロの前にある椅子に座った。
「目を見せてもらいますね」
「目を見るのは結構ですが、頭の中に忍び込まれるのは、嫌ですね。後、薬を使うのも、止めてください。どちらも、危険ですよ?」
ドナテロ先生は、片眉を上げた。
「先輩」
私がそう呼ぶと、窓をすり抜けてスターファルコン先輩がドナテロ先生の頭の上に止まった。
『これは、これは初めまして。人間の挨拶は、これでいいんだよな?それとも、目ん玉くり貫くんだったか?』
ドナテロ先生は、私に触れようと手を伸ばしたまま、固まった。先輩に心の中を覗かれているのだ。
「先輩、ドナテロ先生の頭の中、どうですか?」
「ミオに話せない程、ヤバい感じ」
「えー?話してくださいよ~」
「ダメだ。お子ちゃまなミオには、教えられんくらい、真っ黒だ」
「ちぇっ」
まあ、ドナテロは、敵ではありません。味方でもないですけど。用心深いだけ。




