第二王子は、風の使徒に困惑させられる
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昨日は更新出来ませんでしたが、毎日更新がんばります。目指せ、完結。
第二王子スターシオside
トリの案内で、馬に乗った私とミオウは、温泉に向かっていた。馬に乗るのは、初めてだと言うミオウは、私の前に乗せた。
馬に乗る前に、ミオウは私に馬の名前を聞き、彼の前に立って、彼を真剣な目で見た。
「では、白馬ホワイトアロー殿。緊急事態ですので、あなたに私から少しばかり、力をお貸しします」
そう言うと、ミオウは、ホワイトアローの首に両手を巻いて押さえ込み、頬にキスをした。
え?ズルくないか。馬のクセに。
ホワイトアロー、お前もお前だ。普段、私以外の誰かが触ると怒り狂うクセに、何故、ミオウに対しては、大人しいんだ?
「今から行く場所は、美味しい草が生え、疲労回復に良い美味しい水が涌き出てる。一緒に行こう」
ミオウがそう言うと、ホワイトアローは、喜び勇んで、私達に早く行こうと促した。
トリは、スゴい速さで風を切るように飛んだ。普通の隼では、ない。流石、風神様の隼なだけは、ある。ホワイトアローも、それに負けじと付いていく。
ミオウは、ホワイトアローの鬣にしがみつき、楽しそうに笑っている。私は、身体中の痛みをおして、ミオウが馬から落ちやしないかとハラハラしながら馬の手綱を持ち、ミオウの身体を包むようにして囲った。
「ホワイトアローはスゴいね、騎士様。スターファルコン先輩に付いて行けるなんて」
ミオウが、下から私の顔を見上げた。本当に楽しそうだ。キラキラと瞳が輝き、美しい顏に浮かぶ笑顔は、更に私を魅了する。砦に持って帰っては、ダメだろうか。この少年を手放したくない。
私が、こんな立場でなければ、全てを捨てて付いていったかもしれない。全ての責務を放棄して、好きな人と自由に暮らして生きていきたい。
砦の騎士の中には、男同士で愛し合っているものもいるが、私は、それが許される立場にない。子孫を残すのは、王族の務めだ。初めて好きになった人が、同性だなんて、私も難儀な奴だな。
「普段は、自分で風に乗って飛ぶんだけど、馬に乗るのも楽しいですね。馬に乗って走れるなんて、騎士様は、凄いな」
空を飛べるのか。凄いな。鳥の様に空を飛ぶのは、どんなに楽しい事だろう。
ブヒヒンと、ホワイトアローが抗議の声を上げた。少し、荒ぶっている様だ。
「ああ、ごめんごめん。私達2人を乗せて、こんなに速く走れるなんて、ホワイトアローの方がスゴいよね」
そう言うと、ミオウは、ホワイトアローの首の後ろを優しく叩いた。ホワイトアローは、それに答えるかの様に走るスピードを上げた。
『おう!隼の意地を見せてやる。馬よ、付いて来い!』
追い越されそうになったトリが、スピードを上げた。
周りの景色が流れて行く。私も、何だか楽しくなってきた。飛ぶように走る馬に乗りながら、空を飛ぶのは、こんな感じだろうかと考えた。
「さ、寒い。先輩、スピード出し過ぎだってば。私、今は神力が、ほぼないから、バリアー張れないんだからね」
馬が走ったのは、10分程だったか。ぶるぶる震えながら、ミオウが言った。私は、これはチャンスだとばかりにミオウの背中に被さって、暖めてやった。
「ありがとうございます。でも、もうすぐですから、ホワイトアローから降りて歩きますよ」
すぐ側に、小さな泉とみずみずしい草が生えている場所があった。私達は、そこにホワイトアローを置き、温泉に向かった。
少し歩いていくと、岩場の間に、突然、それは現れた。
「じゃじゃーん。風神様雷神様の特別仕様、『風神雷神温泉』へ、ようこそ~」
ピーイピーイとトリが囃し立てた。
「お休みの日に、風神様雷神様と、お姉ちゃんと私の4人で作りました。えっへん」
ミオウ、えっへんって、反り返ってドヤ顔するの、可愛いな。さっきまで寒さに震えていたのに。最近では、滅多に笑うことが無くなった私まで、楽しさに笑みが溢れる。
「いつもは、お姉ちゃんと2人で入ってるんですよ。今日は、初めて他の人と入ります。同性だと、気兼ね無く一緒に入れるんで、嬉しいな~。あ、ちょっとピリピリしますが、雷神様の神力のせいなんで、気にしないで下さい。
服は、この辺に置いとくと、濡れませんから」
「つっ!」
身体のあちこちを打ったせいで、上着を脱ぐのにも一苦労している私を見るに見かねて、ミオウが、後ろから上着を脱がせてくれた。
何だか、何も出来ない王子に戻ったみたいだ。砦に来てからは、自分の事は自分で出来るようになったのにな。情けない。
「温泉の温度は、人間が入って丁度いい感じに調整してあります。これも、私とお姉ちゃんと雷神様の努力の結晶です。頑張りました。
しっかり肩まで浸かって下さいね。ちょっと潜ると、神力が行き渡って髪まで艶々になります。あ、ヤバい」
ずるっと音がして、温泉の中に浸かる私の方に、ミオウが飛び込んできた。私の顔にミオウがぶつかる。
顔が地味に痛い。が、何か柔らかい物が顔に当たっていた。
「す、すいません。ちょっと、滑っちゃって。顔、大丈夫ですか?」
立ち上がったミオウの胸に目が行く。うん、大きくないけど、確かに、胸がある!?
「ミオウは、女の子?」
私は、慌てて後ろを向いて、ミオウに聞いてみた。
「はい、そうです。だから、同性なんで大丈夫ですよ~。安心して、お風呂に入ってて下さいね。私、よく男の子に間違えられるんですけど、女ですから」
能天気なミオウの声が温泉に響いた。
『同性ですから、大丈夫』って、それは、その……。
私の方こそ、女に間違えられてるのか!?
『おう!酒くれよ酒!』
「あー、トリ。なあ、ひょっとして、私はミオウに女だと思われているのか?」
『そーなのか?俺は、お前が男だってわかってたぞ。白濁した温泉で良かったな。ほら、そこの石に小さな窪みがあるだろ。酒はそこに入れてくれ。俺専用の杯みたいな、う、うぐ』
「どうやったら、この誤解が上手く解けるか一緒に考えてくれたら、酒をやろう」
『く、クゥチバァシをはにゃせ~』
ミオウは、この国の男の名前とか、女の名前とか、よくわかっていません。がんばれ、スターシオ。




