第二王子は、風の使徒を離さない
読みに来て下さって、ありがとうございます。
今回は、前回に引き続き、いつもよりロングバージョンで、お送りします。
第二王子スターシオ side
砦に、叔母上が侍女を連れてやってきた。叔母上は、聖女で、父上の年の離れた妹だ。
年齢は本人によって秘匿されているが、20代後半の筈だが、20歳前にしか見えない。なので、叔母上が魔獣退治の為に時々、砦に来ると、砦の中が騒然とする。困ったものだ。
そして、今回は叔母上と一緒に、兄上が婚約者のマリエッタを連れて、山の様な荷物を抱えてやってきた。
何故、王太子が嬉々として荷物持ちをしているのか。謎だ。
叔母上は、いつもの様に私の隣の部屋にある自分の部屋に入り、兄上がそこに荷物を運び込んだ。
「ミオウちゃんも、一緒にいらっしゃい。トーマス、この子の荷物を持ってきて。それから、ミオウちゃんのベッドをこの部屋に入れて頂戴」
「え!?叔母上。ミオウは、私の部屋に」
叔母上とマリエッタが、鬼の形相で私の方を振り向いた。何を言ってるんだ?と言う顔だ。
「そんな事だろうと思ったわ。寝ている淑女の顔を眺めていたんですってね。紳士にあるまじき行為よね~。
まあ、今までは、砦には女の子が一人しか居なかったから危険だから同じ部屋に置いていたんでしょうけど。
今日からは、ダメよ」
私は、叔母上に、ぐいぐいと扉の外に追い出された。
「まあ、当然だな。今まで、何て羨まし、けしからん生活をしてたんだ、お前は。許せんな」
一緒に追い出された兄上が、腹の前で腕を組み、うんうんと頷いて言った。
いや、チャンスがあったら、するだろう?好きな女の子と同じ屋根の下、いや、同じ部屋で同居したいだろう。
手は出さなくても、起きたら一番に顔を見て寝ぼけ眼の彼女に『おはよう』って言いたいし、眠そうな彼女に『お休み』って言って、寝顔を眺めていたいんだよ。
「そう言う事は、結婚してから、な。と、お兄様は思う。
本音は、こっちはマリエッタが14歳だから自重しているのに、マリエッタと同じ14歳の筈のお前が暴走して、色々やっちゃってるのが、悔しい。お兄様も、暴走して、あれやこれやしてしまいたい」
兄上が、遠い目をして、上を向いた。
王太子なんだから、そこは、自重してろよ。私みたいに、崖っぷちじゃないだろうが。
こっちは、両思いになっても、母上率いる女騎士団や、果ては、聖女様こと叔母上にまで、恋敵達(全て女)に、いつミオウが奪われるんじゃないかとヒヤヒヤしているんだぞ。
とにかく、存在をアピールしておかないと。
「取り敢えず、お二人共、スターシオ殿下のお部屋に、お入り下さい。そこに居られては、邪魔です」
荷物を持ったトーマスが、私達の前を通り、叔母上の部屋に吸い込まれる。
続いて、見知った砦の雑用係達が、ミオウのベッドを叔母上の部屋に運び込んだ。
お前達、対応が素早過ぎるだろう。私の部屋にミオウのベッドを運び込む時は、中々動かなかった癖に。
叔母上に逆らっても仕方ないので、自分の部屋に兄上と入り、何故かしたり顔のドナテロが入れてくれた、お茶を飲んだ。
兄上は、何故か、『マリエッタと一緒にやりたい100の事』を、お茶を飲みながら私に語り始めた。何か、いたたまれない。
いくら何でも、もう良いだろうと、兄上と一緒に叔母上の部屋に行った。
「叔母上、いい加減、ミオウを返して下さい。ミオウ、食事に……」
部屋に入ると、そこには。
「え?天使?それとも、もう一人の女神様?」
思わず、声が出た。
女神も斯くあるかと、美しいミオウが、着飾って立っていた。
普段のミオウは、性別を越えた美しさだが、ドレスを着て着飾った今のミオウは、絶世の美女。いや、美少女だ。
16歳なのに、何故か幼さが残ってしまうのが、ご愛嬌だな。うん。
食堂へミオウと叔母上を連れて行くと、食堂内の皆の視線がミオウへと集まり、時が止まったかの様に、皆は動きを止め、静まり返った。
ただ、ミオウだけは、隣に立つ叔母上を見て、さもありなんとニッコリ微笑んだ。
違う、叔母上じゃない。皆が見ているのは、ミオウだからね。
まあ、気付かない方が、私はありがたいけど。
取り敢えず、私はミオウの前に立ち、食堂中を睨み付けておいた。
見るんじゃない。ミオウが減る。しっしっしっ。ほら、突っ立ってないで、道を開けろ。
叔母上の侍女となりデイドレスに身を包んだミオウに、男共が群がった。特に、同じ年頃の騎士見習い達は、遠慮がない。
ミオウが運んでいる荷物を持ってやり、ドアを開けてやり、一言でも話をしようとする奴らから、更に私はミオウの荷物を奪い、ドアのストッパーとなり、虫の様に群がってくる奴らを排除して回った。
「虫退治だよ。まったく、ちょっとミオウが可愛い格好をすると、虫が山程沸いてくるんだから」
冗談じゃない。ミオウの目に止まりそうな奴らは、全部、排除だ。
私は、余裕のない男だからな。フンフン。
そうこうしている間に、トリが砦に戻ってきた。
スタンピードが、始まる。
騎士見習いの服の上に風神様の上着を身に付け凛と立つミオウは、ドレス姿とはまた違い、凛々しく美しい。
私達は、叔母上や砦の皆と共に、魔獣が生まれ続けているという国境へと向かった。
ミオウは彼女の姉君と2人で魔獣との闘いの中心に立つのだ。そこには、私の居場所は、ない。私は、それが何よりも恐ろしかった。
ミオウの姉君が、雨の如く雷を大量に降らし、ミオウは空を駆け、風を起こして魔獣達を魔素に変えて空に返す。風を操るミオウは、美しい闘神の様だ。
私は、砦の皆と一緒に、一匹でも多く魔獣を倒し、彼女の負担を減らすべく奮闘した。
だが、魔獣達の数は多すぎて、ミオウも少しふらついてきた。
ああ、私の力など、何と微少なモノなのか。
『女神様、女神様。私に力を下さい。ミオウの隣に立つとまでは、いかなくとも、彼女の助けとなれる、皆を守れる力が欲しいんです』
祈りながらも、前方から来る魔獣達に光の矢を放った。
『ただいま~娘達。待たせたな~』
天から、誰かの声がした。
『お土産も持って帰ってきたからな』
今度は、違う声だ。耳から聞こえるのではなく、直接、頭の中に声が響いた。
ミオウの周りに風が吹き集い、大きな竜巻が生まれた。
竜巻は、周囲の魔獣達を巻き込み、空高く吹き上げ、魔獣達は次々と地面に落ちて、破裂した。
そして、空から2つの光が落ちて来て、男と女の姿となった。
『女の子は、すぐにお嫁に行っちゃうからね。寂しくならないように、今度はカップルを連れて帰ってきたよ~』
空から、再び声が響いた。
男は狂ったように雷を操り、魔獣達に撃ち放つ。女が、男の倒した魔獣を荒れ狂う風を操り、粉々にする。
2人の加勢で、瞬く間に魔獣が消え去った。煌めく魔素が、空中に散って、輝きながら空に舞い上がり消えていく。
『ははははは~。仲良しさんだよね。二人とも。だから、美々子も美央も、安心してお嫁にお行き』
風に乗って、誰かの声がした。
『2人とも、幸せにおなりなさいな』
ああ、女神様だ。女神様の声が、辺りに響いた。
私は、思わず女神様に感謝の祈りを捧げた。
傷つき、地面に座り込み、伏した皆を助けてくれる様に女神様のお慈悲に縋った。叔母上や隣国の光の騎士や聖女達も、祈っていた。そして、私達の祈りが光となって更に辺りを満たし、女神様のお慈悲によって、傷ついた人達が癒された。
スタンピードを起こした魔獣達は跡形もなく消え去り、隣国の騎士達と私達は挨拶を交わし、互いの砦に戻った。
「落ち着いたら、遊びに行くからね。ちょっとやり残したことを、済ませてくるから」
姉君にそう言うミオウの襟首を掴んで、引っ張って行き、抱っこしてホワイトアローに乗せた。
「大丈夫だよ。私、スターシオ様を置いて行ったりしないから」
私は後ろからミオウを抱き締めて、彼女の頭に自分の頬を乗せた。
「ごめん。でも、ミオウが1人で闘っているのを見るのが、恐ろしすぎた。ミオウが、魔獣に集られて、死んでしまうんじゃないかと思った」
「大丈夫。大丈夫だよ。スターシオ様」
ミオウは、無事に私の元に戻って来た。姉君の元ではなく、私の手の中に。それが、どれだけ幸せな事か。
トリが、飛んできて私の頭の上に止まった。
『おい、王子。何、くっついてるんだよ。ミオウも、怒れよ』
「普段の私なら、頭の上に止まるとは、不敬だと怒るところだが、今日は特別だ。
おい、トリ。何処かにキレイな花が咲き誇る場所は、ないか?」
『ああん?花って、花に何の用があるんだよ?ここいらは、荒野だぞ。そんなもんある筈が』
『あらあら、お花畑に御用なの?私で良ければ力になってよ?』
女神様の声がした。あっという間に、辺り一面が、花畑となり、色取り取りの花が咲き誇った。
砦に帰る筈だった騎士団は、足を止めた馬を降り、私はミオウの手を引き、もう片方の手でホワイトアローの手綱を引き、皆から少し離れた。
手綱を離すと、私はミオウの前に跪き、ミオウを見上げた。トリは、ホワイトアローの頭の上に飛び乗った。
「ミオウ、私はミオウを失いたくない。私はまだ14歳で結婚できる年ではないけれど、成人したら、私と結婚してくれる?」
『美々子も美央も、安心してお嫁にお行き』
風に乗って、聞こえた声は、おそらく風神様か雷神様の声。美央とは、ミオウの事。美々子とは、ミオウの姉君の事だろう。
『2人とも、幸せにおなりなさいな』
女神様もまた、ミオウとミオウの姉君に祝福を下さった。風神様が、ミオウを嫁に出しても良いと言う事ならば、私とミオウが結婚する未来が開けた。
私は、言い直した。そうじゃない、未来じゃなくて。
「ねえ、ミオウ、愛している。もう、離れたくないんだ。結婚して欲しい」
ミオウは、私を見つめて、顔を赤くし、頷いた。
「うん。私も、スターシオ様を愛している。結婚しよう、スターシオ様」
辺りに光の風が舞い、風に乗って、天から花びらが降ってきた。私は、立ち上がって、ミオウを抱き締め、天を仰いだ。
『我が愛し子よ。おまけの祝福よ』
『風が、お前達に幸せを運ぼう』
野太い砦の騎士達の歓声が響き渡った。
女神様の祝福の元、風神様の祝福の元、聖女である叔母上、我が友ホワイトアロー、風の神の使いスターファルコン(トリ)、忠実なるトーマスとドナテロ、そして砦の皆の立ち会いの元。
私とミオウは、夫婦として結ばれた。
「スゴいサービスだったわね~。女神様も風神様も、太っ腹~。
このプロポーズは、後世に語り継がれるべきね」
「……」
「ねえ。聞いてる?団長さん」
「いや、ちょっと、ハードルが上がったなと、思ってしまった」
「あら、私は、貴方のプロポーズなら、どんなプロポーズでも、一生の思い出よ?何なら、私がプロポーズして、貴方の一生の思い出にしても良いけど」
「ああ!ちょっと待ってて!せめて、少し格好つけさせてくれ」
「あら、お花?髪に付けていただけるの?」
「今は、こんな事しか出来ないが
聖女リリーナ、貴女に私の一生分の愛を捧げたい。結婚してくれ」
「ええ。お返しに私は、貴方に、生まれ変わっても続く愛を捧げるわ。結婚しましょう」
「それは、スゴいな。生まれ変わっても、愛してもらえるのか」
「私達、王家の愛は、重いのよ。ごめんなさいね」
余分に、愛をお届けしました~。第一王子も、ガッツリ執着心の重い愛ですから。おそらく、聖女の兄で王子達の父である国王も、こんな感じじゃないですかね?
そして、次回、もう一話、お付き合い下さい。




