お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃ~ん!
読みに来て下さって、ありがとうございます。
物語も佳境に近づきました。
グランシオ殿下とマリエッタ嬢は、その日の内に王城に帰り、その日の内から、私と聖女様の楽しい砦ライフが始まった。
私はスターシオ様の侍従見習いから聖女様の侍女見習いに代わり、聖女様とラブラブしていた。
最初は、砦の皆に驚かれ引かれたものの、今ではデイドレス(というワンピース)での私の振る舞いも馴れたもの。
多分、お淑やかに、見えると思う。
聖女様が砦にやって来て、初めて食堂に夕食を食べに行った時は、食堂にいた皆が、聖女様の美しさと尊さに衝撃を受けていた。
そうでしょうとも、そうでしょうとも。
叔母の聖女様に見とれる男達に、スターシオ様は不機嫌になり、やたら私と聖女様にくっ付いてきて、周りを睨み付けていた。
わかります。わかりますよー。
「スターシオ様ってば、叔母さんっ子だったんですねー。聖女様、大人気だから、妬けちゃいますよね」
「違う。違うから、そういう事じゃない。まあ、わかってないんなら、いいけれど」
聖女様の侍女見習いになったせいか、騎士見習いの男の子達の態度も変わってきた。
彼らも美しい聖女様の虜になった。聖女様の用事をする私にやたらと話しかけ、物を持ってくれる。
「いや、ほら。僕たちは騎士見習いだし、重い物を持つのは、苦じゃないから。むしろ、ほら、そう。修行だし」
ありがたいので、お湯の入った洗面器、本、洗濯場に持っていくシーツ等、色んな物を運んでもらった。
その度に何故かスターシオ様がやって来て、彼らから荷物を取り上げ、自分で運んでくれる。
いや、スターシオ様は第二王子でしょう?何、やってるんだか。
「虫退治だよ。まったく、ちょっとミオウが可愛い格好をすると、虫が山程沸いてくるんだから」
虫退治。虫、何処にいるんですかね?どうやら私が知らない内に、スターシオ様は私に集まる虫を退治してくれているらしい。
ありがたい話だ。
そうこうして過ごしている内に、スターファルコン先輩が、砦に飛び込んできた。
「スタンピードが始まる。奴ら、魔力溜まりから、次々と沸いて来やがった」
スターファルコン先輩が言うには、雷神様のペットサンダーボルト先輩からの報告では、お姉ちゃんは元の大きさに戻り、隣国の砦にて雷で魔獣を退治し、活躍しているそうな。
流石、お姉ちゃん。仕事の出来る女。
私は、結構気に入っていたデイドレスを脱ぎ、騎士見習いの服に着替えた。砦の皆との思い出の服。色んな事が、あったよね。副団長に押さえつけられた事も、今となっては懐かしい。
上に風神様の刺繍付きスタジャンを羽織ると、私は、お姉ちゃんの雷神様スタジャンを手に持ち、スターシオ様と共にホワイトアローに乗った。
私達が丘の上に着くと、離れた小高い丘の上に、大勢の人影が見えた。あれが隣国の砦の騎士団かな。女の人達も何人かいた。
遠くから砂煙が見えてきた。魔力溜まりから、どんどん魔獣が沸いている。
「スターシオ様。向こうの丘にいるお姉ちゃんに、届け物をしてくるね」
スターシオ様は心配したが、先輩が一緒に行くと言うと、少しだけ安心した。
スターシオ様の先輩への信頼度が厚い。
私は風を起こし、お姉ちゃんのいる丘に飛んだ。
「お姉ちゃん、元気そうで良かった!」
お姉ちゃんだ。お姉ちゃんだ。お姉ちゃんだ!
私はお姉ちゃんにスカジャンを放り投げた。雷神様刺繍のスカジャン。これを着ると、お姉ちゃんは雷神様の加護で、空を飛べる様になる。
「団長さん達は、私達が撃ち漏らした奴らをお願いします。それでは、お掃除に行ってきます」
お姉ちゃんは、そう言って、私と一緒に空を飛んで魔力溜まりに近づいた。
スターシオ様達には、スターファルコン先輩が話をしに行ってくれた。
お姉ちゃんは、どんどんどんどん雷の雨の様に雷を落とした。
風よ吹け。魔獣達よ、大いなる風神様の風の前にひれ伏せ、跡形もなく吹き飛べ。
雷に撃たれ吹き飛ばされた魔獣を、私は風で粉々にし、魔素にして、飛び散らせる。
私達の後ろで、スターシオ様が光の矢で射り、隣国の光の騎士が光の鞭を操り、辺境騎士団達が、隣国の騎士団達が、次々と魔獣を切り裂き、炎で燃やし葬って行く。
こんなに大々的な討伐は、初めて見る。
だが、魔獣の数は多く、騎士達の足元が段々覚束なくなっていく。数が、多すぎるのだ。
聖女様の侍女さんが、氷魔法を駆使して魔獣達の足元を凍りつかせ、聖女様は光を鎌の様な形状にし、前方の魔獣達を一振で消滅させて道を作った。
隣国の聖女様と女の人達も、魔術を駆使して、騎士達に協力して闘っている。炎の輪が飛び、魔獣を捕まえ、そこに騎士達が止めをさす。
隣国の聖女様が光を放ち、魔獣の眉間を撃つ。側のおばさんが、風魔法で魔獣の首を切り裂く。
だが、段々それも、勢いが減っていっている。
いつもと違い、スタンピードが大規模過ぎる。
風神様雷神様の不在によって、魔力溜まりに魔力が集まり過ぎ、私達お掃除係の不在によって魔獣達が溜まりすぎたんだ。
『風神様、風神様。力を下さい。魔獣を飛ばし、皆を守る力を、私に下さい』
眼下では、スターシオ様が、団長さんが、一撃で、どんどん魔物を葬っていく。でも、騎士見習い達は、既に限界が近い。トーマスさんやドナテロ先生が倒す魔獣達の止めを指している彼らは、段々、剣を持つ手が上がらなくなってきた。
剣を滑らせた見習い騎士の代わりに、勝ち気なケネスが、魔獣に飛びかかって止めをさした。
私は、彼らに向かってきた一群の魔獣達を竜巻で吹き飛ばした。
『風神様、風神様。私の大事な人達を守る力を、私に下さい!無力な私に力を下さい。あの人達を、助ける為の力を下さい。お願いします、風神様』
すると、空から声がした。
『ただいま~娘達。待たせたな~』
雷神様の声がした。
『お土産も持って帰ってきたからな』
風神様の声がした。
私の身体に力が満ち溢れ、私の周りに風が吹き集い、大きな竜巻が生まれた。
竜巻は、周囲の魔獣達を巻き込み、空高く吹き上げ、魔獣達は次々と地面に落ちて、破裂した。
そして、空から2つの光が落ちて来た。
「先輩方、初めまして~。雷神様のお土産その1の、來人です~」
「初めまして。同じく、風神様のお土産の杏です」
『女の子は、すぐにお嫁に行っちゃうからね。寂しくならないように、今度はカップルを連れて帰ってきたよ~』
空から、雷神様の声がした。
「うん。俺達、恋人同士なんですよ~な~杏。ほらほら、どんどん雷を落とすよ。雷と言えば太鼓。ドラマーの俺に任しとけって~」
男の子は、ちょっとばかり、お調子者の様だ。
「あんたなんか、ただの幼馴染みでしょうが。ほら、ちゃんと全部の魔獣に当てなさいよ」
杏と名乗った女の子が、來人の倒した魔獣をドンドン風で粉々にする。
2人の加勢で、あっと言う間に魔獣が片付いた。キラキラキラキラした魔素が、空中に散って、空に舞い上がり消えていく。
『ははははは~。仲良しさんだよね。二人とも。だから、美々子も美央も、安心してお嫁にお行き』
風に乗って、風神様の声がした。
『2人とも、幸せにおなりなさいな』
女神様の声が、辺りに響いた。
聖女様達や隣国の光の騎士、そしてスターシオ様の祈りが、光となって更に辺りを満たし、傷ついた人達を癒した。
こうして、スタンピードは跡形もなく消えてしまい、お姉ちゃんは隣国の辺境騎士団と共に砦に帰り、私は風の使徒として、皆と一緒に砦に戻った。
「落ち着いたら、遊びに行くからね。ちょっとやり残したことを、済ませてくるから」
私がお姉ちゃんにそう言うと、スターシオ様は私の襟首を掴んで、引っ張って行き、抱っこしてホワイトアローに乗せた。
「大丈夫だよ。私、スターシオ様を置いて行ったりしないから」
私の後ろに乗ったスターシオ様は、後ろから私を抱き締めて、私の頭に自分の頬を乗せた。
「ごめん。でも、ミオウが1人で闘っているのを見るのが、恐ろしすぎた。ミオウが、魔獣に集られて、死んでしまうんじゃないかと思った」
「大丈夫。大丈夫だよ。スターシオ様」
私達は、騎士団の皆と砦に帰った。
「お兄様は、気が気じゃなかったんだよ。スターシオ」
「大丈夫だ、兄上。私には、女神の加護がある。心配ない」
「お兄様は、こと、戦闘においては、無力だからね~」
「いいから、離れて。と言うか、放して!兄上は、魔力がなくとも、力だけは強いんだから」
「スターシオが、お兄様に冷たい!」
第一王子は、力は強いけど頭脳派です。




