聖女様は、爆進中~
読みに来て下さって、ありがとうございます。
20話になりましたが、まだ、もう少しお付き合い下さい。
「こんにちは~皆さん~。やって来ちゃったわよ~」
気の抜ける様な優しい声が響いた。聖女様だ。
この国の聖女の印の蓮の花の刺繍が付いた白いワンピースを、身に纏い、私に向かって彼女は小さく手を振った。
「スタンピードが終わるまで、お世話になるわね~」
そう言う聖女様の後ろからは、何故か大きな鞄を両手に抱えた第一王子が続き、バニティバッグを持った彼の婚約者のマリエッタ嬢が、続いて現れた。
何故、王子が荷物持ち。
第一王子グランシオ殿下は、マリエッタ嬢がバニティバッグを持っているのも不本意らしく、グランシオ殿下はマリエッタ嬢に何度も『持ってやろう』と言い、マリエッタ嬢がその都度バッグを抱き抱えていた。
「グランシオ、マリエッタちゃんが持ってくれている私のお化粧道具入れに、手を出さないでちょうだい。
殿方には、わからないでしょうけど、ポーションの瓶も、お化粧品の瓶も、繊細なのよ」
そう言いながら、聖女様は、布でくるんであるポーション瓶を入れた籠をテーブルの上に置いた。
トーマスさんが、その籠を慣れた手つきで運んで行った。
聖女様は、勝手知ったるという感じで、砦の中にずんずん入って行って、スターシオ様の隣の部屋に落ち着いた。
「ミオウちゃんも、一緒にいらっしゃい。トーマス、この子の荷物を持ってきて。それから、ミオウちゃんのベッドをこの部屋に入れて頂戴」
「え!?叔母上。ミオウは、私の部屋に」
すごい勢いで、聖女様とマリエッタ嬢が、スターシオ様の方を振り向いた。2人の顔が、恐ろしくひきつっている。
「そんな事だろうと思ったわ。寝ている淑女の顔を眺めていたんですってね。紳士にあるまじき行為よね~。
まあ、今までは、砦には女の子が一人しか居なかったから危険だから同じ部屋に置いていたんでしょうけど。
今日からは、ダメよ」
聖女様に睨まれて、スターシオ様は、しおしおと小さくなった。
次いで、スターシオ様は部屋から追い出され、聖女様とマリエッタ嬢と私の3人が残った。
「さあ、始めましょう~」
身ぐるみ剥がされた私は、聖女様の侍女にお風呂に入れられ、磨かれた。更に、マリエッタ嬢と聖女様にブルーのストライプが可愛いデイドレスというワンピースを着せられた。
「あら、これは?」
「スターシオ様から、いただきました」
私が着けているブルーの石の付いたネックレスを見て、聖女様がニヤリと笑った。
「何だ~。こういう事は、ちゃんとやってるんじゃない。もう、スターシオちゃんったら、独占欲、丸出しなんだから~。でも、私、スターシオちゃんをちょっと見直しちゃった」
聖女様の侍女さんが私の髪を弄り、お化粧をしてくれて、私は、髪は短いながらも『美しいお姫様』になってしまった。
スゴい腕だな、侍女さん。
「ミオウ様は、元からキレイだったもの。更に磨きがかかって、傾国の美女ならぬ傾国の美少女になってしまったわね。
スターシオも、今のミオウ様を見たら、感動のあまり気絶しちゃうかもね」
フフンと胸の前で腕を組んで、ちょっと首を傾げて、マリエッタ嬢はニヤニヤした。
いやいや、それは褒めすぎですってば。
「でも、聖女様。こちらのドレスもミオウ様に似合うんじゃなくて?」
「あら~私は、こっちの方が、スターシオちゃんを骨抜きに出来ると思うわよ~」
2人は、ベッドの上に広げられたドレスを1つ1つ手に取って、私に合わせてみた。
へ?どういう事?これって、聖女様のドレスじゃないの?
「これは、全部貴女のドレスよ~。私は、聖女の活動中は、この聖女のドレスしか着れないの。だから、私のドレスは、ぜ~んぶこれよ」
その場でクルっと回って、聖女様は微笑んだ。
スゴくよくお似合いですとも。この服で、魔獣に向かって光魔法をドンドン撃ちまくるのか。それはそれで、美しい光景だよね。女騎士様の次に、聖女様を推せるかも、知れない。
聖女様、いいかも。お優しくて、強く美しい聖女様。素敵。
「蓮の花はね、泥の中から顔を出し、美しく咲くの。私達、聖女もまた、混沌の中に光を当て、魔獣や魔物を倒し、光に戻す役目を持っているわ。
聖なる風の力を操り、倒した魔獣を魔素に分解し、世界に戻す貴女の役目と、似てるわね」
フフフと可愛いらしく笑った聖女様は、私の両手を取ると、私を見つめて、更に言った。
「スターシオも、私と同じく光魔法を使い、聖者と呼ばれているのよ。
そんなスターシオと聖なる風の力を操る美しい風の使徒のミオウちゃん。2人の間に生まれる子供は、さぞかし美しく麗しい子供が生まれるでしょうね。
叔母様は、楽しみよ~」
は?こ、子供?子供ですか~~~!?
スターシオ様と私の子供。え?え?え~~!?
私、絶対、今、顔が赤くなってると思う。
やーん、ヤバい~。
「「んふふふふ」」
聖女様とマリエッタ嬢は、ニヨニヨとして、私を眺めていた。
ちょっと、マリエッタ嬢。貴女、まだ14歳だよね。もうちょっと、慎みってものを持ちなさい。
「叔母上、いい加減、ミオウを返して下さい。ミオウ、食事に……」
ノックの音に侍女が外を確認して、ドアを開ける。入ってきたスターシオ様は、目を大きく見開き、口を開けたまま固まってしまった。
「え?天使?それとも、もう一人の女神様?」
それは、褒めすぎだよ。スターシオ様。
「新しい髪紐だね、スターシオ。ひょっとして、ミオウちゃんに貰ったのかい?」
「そうだよ、兄上。ミオウが編んでくれたんだ」
「良かったじゃないか。見たことのない模様だけど、綺麗だね。青はスターシオの色、黒はミオウちゃんの色。薄茶とグレイは?」
「ああ。青は私の色で、黒はミオウの色なんだ」
「で、薄茶とグレイは?……トーマスとドナテロじゃないよね?」
「……聞かないで」
「どうしてそうなったか、お兄様には謎だよ」
頑張れ、スターシオ。今は、きっと誤解は解けてる筈。




