第二王子は、風の使徒に魅了される
読みに来て下さって、ありがとうございます。
女騎士、視点です。性別、違ってますが。ミオウが勝手に勘違いしています。
第二王子スターシオ side
目を開けると、圧倒的な美が私を貫いた。小さな白皙の顔に艶やかで美しい黒髪が掛かっている。細い首、仄かに赤く艶々の唇。大きな黒目が、心配そうに私を上から見つめる。
まるで絵画から抜け出て来たかの様な美しい天使。手を伸ばして、その首に腕を絡め、滑らかな頬を撫で頤に手を掛けて、その唇を。
「だ、大丈夫ですか?何処か痛い所は、ありますか?」
声までもが、天上から聞こえる鈴の様だ。喧しくもなく、美しく響くソフトな声。
私の腕は、上がることなくパタリと落ちた。怪我は無いようだが、全身が痛い。
どうやら、夢では、ないらしい。
彼は、天使でもない。うん、これは喜ばしい。現実の存在だ。
じっと見つめていても、その美しさは変わらない。いや、現実感が増した分、生々しさが加わって、触れてみたくなる。
今まで、私の事を『美しい』と言い、私に触れようとする輩が多く、気持ち悪かったが、自分がこの様な気持ちになるとは、思わなかった。
「君は、誰?私は、助かったのか?」
吹っ飛ばされて、馬から落ちた。
私は、小規模なスタンピードの果てに残った最後の一頭、巨大なイノシシの魔獣に追いかけられていた。
他の兵士達は疲弊し、傷付き、皆、既に倒れていた。私はイノシシに、残る魔力の限りの光の矢を射て、馬にしがみついて走り出した。体力も気力も限界で、馬にしがみついているのが、やっとだったのだ。
そして、天使に助けられたのだ。
馬は、無事だった。起き上がってみたものの、力尽きた私は、天使の上着を頭の下に入れられて、寝転がされた。
「魔獣は、どうした?」
「大丈夫です、騎士様。私が吹っ飛ばしときました。もう、心配いりません」
そう言って、黒髪の天使は、胸を張った。仕草まで、可愛い。
それに比べて、私は、どうだ?不甲斐ない。みっともない。良い所など1つもない。もっと身体を鍛えていれば良かった。光の力の保持者と呼ばれ、いい気になってたのが、この様だ。
危機に陥った天使を、格好良く、助けてみたかった。
馬に乗って天使の危機に駆けつけ、そして、倒れる天使に手を差し伸べて、言うのだ『怪我は、ないか?もう大丈夫だ』。
ああ、普段の私なら、そう言えるのに。何と言う体たらく。
「私は、スターシオ。少年、名は何と言う?」
「ミオウ。ミオウです」
「ミオウ。ありがとう。美しい名だな」
ああ、本当に美しい。まるで、大輪の花か、星の名の様だ。
「スターシオも、美しい名前ですね。まるで、星から降る光の様だ」
「ありがとう。その……1人で、この荒野にいたのか?親は、どうした」
「親は、いません。姉と2人でここで仕事をしてたんですけど、はぐれちゃって。あ!そうだ、お姉ちゃんの服、取ってこないと」
そう言ったまま、ミオウは、固まってしまったが、すぐに空を見上げると、指笛を吹いた。
ピィーと甲高い音が、辺りに響いた。
キラリと何かが光って、落ちてきて、ミオウの背中にぶち当たり、ミオウは地面に突っ伏した。かなり、痛そうだ。大丈夫だろうか。
「痛いっ!ゴンって言った。絶対、ゴンって言った!
先輩、急降下で落ちてくるの、止めて下さいっ!痛いからっ」
鳥だ。今のスピード、魔鳥より速いんじゃないか?それとも、魔鳥か?
「スターシオ様、こちら、私の先輩の隼って鳥のスターファルコン先輩です。先輩、こちら、スターシオ様です。私、ちょっと荷物取ってくるんで、先輩は、ここで魔獣が来ないか見張っといて下さい。行ってきます」
ミオウは、さっさと1人で走って行ってしまった。
え?私は、鳥に守られて留守番なのか?ミオウ、何気に、足が速いな。元気なのだな。
私が、起き上がってミオウの後を追おうとすると、スターファルコンが、私の胸の上に乗って、私を地面に押し戻した。
『じっと寝てろよ。魔力不足で、ふらふらなんだろ?おおっと、お前の場合は神聖力か。こいつは、お誂え向きだな』
スターファルコンが、フフンと鼻で笑った。鳥の癖に。
「喋れるのか。いや、頭に直接、話しかけられてる?」
『おうよ。こちとら、そんじょそこらの鳥じゃねえんだ。ちょっくら、お前に話があってな。お前、あれは、俺のモノだ。手を出すんじゃねえぞ?』
「あれって、ミオウの事か?」
『そうだ。さっき、お前が切なそうにケツを見てた奴の事だ』
スターファルコンは……面倒だな、トリで良いか。こんな奴、トリで十分だ。私と名前が被っているのが、何気に腹が立つしな。うん。
トリは、トリのクセに、ニヤリと笑って私を睨め付けた。嫌な奴だ。しかも、下品だ。まあ、確かに私は、ミオウのケツを、ゴホン、いや、お尻を見てたが。
だって、可愛いだろう。ほっそりとした身体に似合う可愛いお尻。足もすんなりと長くて、キビキビと動く。動く時はシャキシャキと、しているのに、止まると何故か動作が色っぽい。目が離せないのだ。
『ほうら、まただ。ヒャッハッハッ。お前、オスだろう。まあ、まだガキの様だから許してやるが、俺とお前とでは、格が違う。あいつとお前とでも格が違う』
「何を言う。私はこの国の第二王子で光の守護者と呼ばれるのだぞ」
『俺の主君は、風神様。そして、ミオウもまた、風神様に仕える者。お前には、手の届く者では、痛っ!』
ミオウが手刀をトリの頭の天辺に打ち当てた。もう片手には、布包みを持っている。布包みの外側には、雷神様の美しい刺繍が刺してあった。
私は、起き上がって、自分が枕にしていたミオウの上着を広げてみた。
雷神様の刺繍と揃いの風神様の刺繍が施されている。
「風の御使い。風の使徒様」
「あー、スターシオ様の国では、そう呼ぶんですか?と言うか、先輩、軽々しく喋りましたね。この、お喋り鳥!」
ミオウは、荷物を放り出し、片手でトリの首を絞め、もう片手で嘴を掴んだ。
ちょっと、最初のミオウのイメージと違うかもしれない。でも、やはり可愛くて、目が離せない。
私の天使。風の使徒。
「スターシオ様。もう少し横になっていた方が、良いです」
「いや、そう言うわけには、とにかく、上着をお返し致します」
「だって、まだ回復してないじゃないですか。この上で寝てたら風神様のお力で回復が速く」
「駄目、駄目です。やはり、風神様の上着じゃないですか。お返しします」
「いや、だって、回復……あ、回復。そうだ、温泉に行こう」
『温泉、良いな。温泉か。行くか、温泉。酒は、あるか?』
「あ、私、少しなら持っています」
『行くか、温泉』
「行きましょう、温泉」
次回、温泉です。いきなり、後書きで全員一致で決まった温泉行き。私も、行きたい。




