風の使徒は、美少女騎士も、お好き
読みに来て下さって、ありがとうございます。
そろそろ、ミオウの姉が、見つかりそうです。
砦への帰り道、騎士団の皆に出会った。
正しくは、熊の魔獣と闘う騎士団に出くわした。日本で見かけた熊よりも、かなりでかい。魔獣は、どれも、とにかくでかい。でかい上に魔法を使ってくるので、厄介なのだ。
「スターシオ殿下、丁度良い所に、お帰りで」
騎士の中には、既に怪我を負っている者もあるが、熊に付いている血は、熊自身の物なのか、騎士達の物なのか判断出来ない。熊の皮膚が厚いので、剣が中々通らないのだ。
騎士達に下がってもらい、私は竜巻を興して熊を上空にすっ飛ばし、落ちて来た所を、スターシオ殿下に光の矢で射てもらった。
止めは、団長さんのまさかりで、首を落とす。
熊の魔獣、強すぎ。そして、デカ過ぎる。熊って、食べれたっけ?
「やはり、魔獣の出現率が高くなっている」
スターシオ殿下が、独り言ちた。
「スタンピードが、近いかもしれません」
私がそう言うと、近くに居た団長や騎士達が、ギョッとした。
「今まで、この辺りではスタンピードが起こった事は、ないぞ」
団長さんが、興奮して畳み掛ける様に、私に話した。
「今まで、風神様と雷神様に言われて、私と姉が、魔獣達が増えすぎたり、スタンピードが起こると同時に魔獣達を処理してきました。
私達が居ないので、魔獣達への処置が遅れ、魔獣達が活性化しているのかもしれません。早急に、姉を探さねば」
私はスターシオ殿下の方に顔を向け、彼の顔をじっと見つめた。
いよいよ、お別れだ。スタンピードを放って置くわけには、いかない。スターシオ様を、砦の皆を守る為にも。
私達のお仕事は、魔獣のお掃除ですから。
「団長。隣国でも、魔獣達の出現率が増えている様だ。早急に王宮に連絡を取り、隣国と共同戦線を張る旨、提案してみる。
これは、我が国だけの問題では、ない」
スターシオ様が、団長に提案した。
私達が砦に帰ると、スターシオ様は、早速、団長達と会議に入った。
見習い従者の私は、スターシオ様を労う為に、厨房に潜り込んで、ちょっとしたお摘まみを作っていた。
餃子の皮を作って少量のチーズを挟んで三角に折り、サッと揚げたら塩コショウ。これが結構美味しいのだ。
料理人達と味見をしていたら、見習い騎士の1人が、私を呼びに来た。私に来客が、あるらしい。
私が応接室に行くと、昨日会ったミニャータ・コパートン辺境伯令嬢が待ち構えていた。
「ミオウ嬢、貴女に少々、お話がありますのよ」
ニッコリ笑ったミニャータ嬢の目は、笑ってなかった。
彼女は、私にソファーに座るように指示し、ミニャータ嬢の連れてきたメイドが、私にお茶を入れてくれた。
私は、お茶請けにと、先程のチーズフライを一皿差し出した。ミニャータ嬢は、お気に召したようで、サクサクと食べ続けた。
「これ何なの?ついつい食べちゃって、止まらないわ」
お気に召したようで、何よりです。チーズフライは、スターシオ様達の所にも、料理人が持って行ってくれている。
「何て物を持ってくるのよ。美味しくて、ついつい全部食べちゃったじゃない。太ったら、どうしてくれるの!?」
お皿の上は、すっからかん。まあ、カロリー高そうだよね、あれ。
レシピが欲しいと言うので、その場で書いて、メイドさんに手渡した。
大した料理では、ありませんけどね。餃子の皮を作るのが、ちょっと手間かな。
「さて、本題ですわ」
手を拭き、お茶を飲んで一息ついたミニャータ嬢は、私に話を切り出した。
「早い話が、私と勝負して下さいな。そして、貴女が負けたら、スターシオ殿下から身を引いてちょうだい」
いきなりな話よね。こんな女の子とスターシオ様がくっ付くの、何か嫌だな~。
騎士服に身を包み髪を1つに束ねて、剣を構えたミニャータ嬢は、美少女騎士だった。
え!?スゴく可愛いんだけど。女騎士も良いけど、美少女騎士も、スゴく良くない?
年の頃は14歳か15歳。すんなりした体つきに、まだ少しあどけなさが残って。素敵過ぎる。
え!?こんな美少女騎士と闘うなんて、ムリ、ムリ、ムリ、ムリ。
「いざ、尋常に勝負よっ」
剣を振りかざし、ミニャータ嬢が私に向かって突進してきた。仕方がないので、私は、ミニャータ嬢にくるっと風を送り、彼女を風で巻いてやった。
ミニャータ嬢は、その場でクルクル回って、目が回って尻餅をついた。
「きゃんっ」
悲鳴まで可愛い。
私が、ミニャータ嬢に手を貸そうとすると、後ろから誰かに抱きつかれた。スターシオ様だ。
「ミニャータ嬢、何をしているのかな?」
底冷えする声が、スターシオ様から漏れた。随分と、ご立腹の様だ。
「ミオウの手作りおやつを、美味しく頂いていたら、見習い騎士が、注進に来てね。ミニャータ嬢は、わざわざそんな格好をして何をしに来たのかな?この忙しいのに」
ギロリと睨んだスターシオ様に怯まずに、ミニャータ嬢は、スターシオ様を睨み返した。こちらも、真剣だ。
「スターシオ殿下に、結婚を申し込みに参りました。我が辺境の地には、スターシオ殿下の力が必要ですわ。スターシオ殿下、どうか、私と婚約してくださいまし」
「ほほう。謹んで、お断りする。大体、私の何が気に入ったんだ?聞いてあげるよ」
「美しい顏と、お姿。多大な光の魔力。素晴らしい剣の腕前。魔獣だらけの辺境には、スターシオ殿下が必要ですわ」
「私は、貴女が、必要では、ない」
「だって、私の周りには筋肉だらけで、ぜんっぜん私の好みの美形が、いないのよ。強くても、皆、筋肉だるまなんですもの」
「他所を当たれ。私を巻き込むな。私には、ミオウが、いるんだからな。
大体、辺境伯の家に必要なのは、文官だろうが。強い兄が当主になるのだろう?だが、お前の兄は生憎と脳みそを使うことは苦手だ。お前もな。
嫁になるナディーラ嬢が采配を取るだろうが、その補佐をする人間が必要だな。学園に戻ったら、頭の良くて顔の良い奴を探せ。筋肉無しの」
ミニャータ嬢は、プンスコむくれながら、お尻の土を払って立ち上がった。
「ミオウ程ではないが、お前は見てくれだけは良いんだから、垂らし込んで来い。何だったら、補佐に向く奴を紹介してやるぞ」
「その言い方!やっぱり、殿下とは相容れられないわ。その性格が、ムリ!ああ、もう。学校で線の細いイケメンを探す事にするわ。やってらんない。約束よ、殿下。絶対、頭が良くて顔が良いイケメンを、紹介してね」
ミニャータ嬢は、プンプンしながら、剣を担いで帰って行った。
ああ、私の美少女騎士~。カムバック~。
「ミオウは、こっち見て。あんなのより、私の方が強いから。まったくもう、ちょっと目を離すと、これだ」
スターシオ様は、不機嫌な声のまま、私を抱き締めて離してくれなかった。
まあ、これはこれで良いけどね。
「そうそう。ドナテロが情報を持ち帰ってきたよ。隣国の辺境砦の団長は、ちっちゃな妖精に、えらくご執心なんだそうだ。寝ても覚めても一緒にいるらしい。その妖精は、雷神様のハンカチと共に、飛んできたらしいよ」
それは、紛うことなく、お姉ちゃんだっ!お姉ちゃん、ミッケ!
「では、スターシオ様。私、お姉ちゃんの所に行ってきます。今まで、お世話になりました」
「いや、待って、待ってってば。行かないで」
「だから、離して下さいね。よいしょ、よいしょ」
「えーと、そう、そうだ。とにかく、連絡を取ろう。うん。隣国の砦と共同戦線を張るから、その時に会えるからね。焦らないで」
「え~、すぐに会いたいのに~」
頑張れ、スターシオ。ちょっとずつ、靡いてきたはず?




