風の使徒は、失恋しました
読みに来て下さって、ありがとうございます。
ミオウ、混乱中です。
あぁ。失恋しちゃった~。
私の女騎士スターシオ様は、突如、居なくなってしまったのだ。
正しくは、架空の人物?私の妄想の産物?あー、あれだ。テレビドラマの登場人物みたいなもんだよね。
そっかー。はぁ。
しかしながら、スターシオ様という人物は存在するわけで……。
明日から、どういう顔をして、スターシオ様に会えば良いんだろう。
私が、『あーん』で野菜を食べさせていた可愛いスターシオ様。甘えてくるスターシオ様。寝顔まで美しいスターシオ様。私がスターシオ様の寝顔を見ていた仕返しに、私の寝顔を見に来るイタズラ好きのスターシオ様。
男だけど、まだ14歳なんだよね。
14歳と言えば、中2。中学生か~。日本の近所の中学生なんて、まだまだ、その辺走り回って遊んでたわよね。
うん?大人びているけど、14歳は、まだまだお子ちゃま?
な~んだ、簡単じゃない。
『弟』みたいなもんじゃない?
そう、弟。そう考えたら、ちょっとしっくり来た。
裸見られちゃっても、相手が子供だったら、ちょっとした事故よね?恥ずかしくないわよね。
そうそう、スターシオ様は、身体は大きいけど、まだまだ子供。ちょっと大人びてるだけの、まだまだ子供。私の可愛い『弟』なの。
よーし、スッキリしたぞ。お休みなさい~。
朝だ。私が目を開けると、スターシオ様の今にも泣き出しそうな悲しそうだけど美しい顔があった。
一旦、目を瞑って落ち着こう。うん。
「ごめん。でも、不安だったんだ。ひょっとしたら、私の知らない間に、ミオウが出ていってしまったんじゃないかと思って。部屋から居なくなってしまったんじゃないかと、落ち着かなくて。寝ている女の子の部屋に、入ってはいけないとわかっていたけれど」
これは、あれだ。お姉ちゃんに嫌われたんじゃないかとオロオロする弟だ。うん。
「おはようございます、スターシオ様。大丈夫ですよ。お姉ちゃんは、ちゃんと、ここに居ますからね。心配しないで」
「お姉ちゃん?」
「はい。私、スターシオ様より2歳年上ですし」
スターシオ様が、固まった。顔には表情がなく、まるで、美しい氷の彫像の様。スターシオ様の魔法は光属性なのに、吹雪が吹き出しそうな気配がする。
「へえー。お姉ちゃん、なんだ」
うんうん、そうなんですよ。
「また、妙な事を考えたよね。私がミオウより2つ年下だから、『弟みたいだ』とか、思ってるわけ?」
弟、可愛いよね。
私は、うんうんと頷いた。
「ミオウ、私はね、今、ちょっと怒ってるんだよ?」
スターシオ様は、そう言いながら、私の顔を両手で挟み、自分の方を向けた。
「私は、男として、ミオウが好きなのに。ミオウは、私を女騎士として好きだった。そして、今度は、弟みたいだと言う。
ミオウ、私を見て。
女騎士でもない、弟でもない、1人の男として私を見て、スターシオという1人の人間としての私を見て欲しい。駄目?」
スターシオという1人の人間。それなら、わかる。
「私は、ミオウが好きだ。最初は、キレイな人だと思って惹かれた。一緒にいて楽しくて、ちょっと頼りなくて、妙な所で抜けてて、たまに何を考えてるのかわからないけど。
でも、優しくて一生懸命で、いざと言う時に頼りになって。で、ずっと一緒に居たいと思ってる」
私は、男としてのこの人の事は、わからないけど、スターシオ様という人の事は、見てきた。
「私、スターシオ様は好きです。スターシオ様は、キレイで可愛くて、格好いいです。野菜が嫌いで、でも、その嫌いな野菜も、私が差し出すと食べてくれます。楽しいことが好きで、イタズラもちょっとします。私の為に怒ってくれて、私を大事にしてくれて、いざという時に、とても頼りになります」
スターシオ様は、顔を赤くして、嬉しそうに顔を輝かせた。
私は、言葉を続けた。
「でも、男としてのスターシオ様と言われると、よくわかりません。考えた事が、ないので」
スターシオ様の表情が、再び抜け落ちた。
え?だって、急に言われても、ねえ。昨日まで、女の人だと思ってたし、その後は弟みたいだと思ってたし。
「……じゃあ、今から、男としての私の事を考えてくれる?」
「あー、はい。がんばります。スターシオ様」
「頑張るって、あー、うん。まあ、いいか。ちょっと前進した気がするし。うん。頑張って考えてね」
頑張る事には、自信が有りますんで。任せてください。ふんふん。
「お取り込み中、申し訳有りませんが。スターシオ様。もうお話は、終わりましたよね?
では、言わせて頂きますが、昨日も言いましたが、寝ている女の子の部屋に勝手に入っては、いけません!」
ドアの所から様子を伺っていたトーマスさんが、そう言いながらスターシオ様の元に歩いてきた。スターシオ様の頭を片手でガッと掴むと、スターシオ様の部屋まで引っ張って行った。
「ミオウ様も、部屋の内側から、ちゃんと鍵を掛けて下さい。その為に、昨日、鍵を付けてもらったんですからね。わかりましたか?」
はい、すいません。ちゃんと、鍵を掛けます。毎朝、目を開けたら美しいスターシオ様の顔が見えるのは嬉しいけど、心臓に悪いしね。
「痛たたた。トーマス、力が強すぎるよ。痛いじゃないか」
「一体、いつになったら、女の子の寝込みを襲うのを止めて頂けるのやら。本当に、嫌われますよ」
「嫌われる以前の問題だよ。男として、見てもらえてないんだから。まあ、トーマスに言っても仕方がないけど」
「どういう意味ですか?」
「トーマス、恋人いないじゃないか」
「殿下にしか興味のないドナテロよりは、マシだと思いますが」
「誰に相談したら、いいんだろうか」
「ミオウ様の事を一番よくご存じなのは、スターファルコン様では、ないでしょうか」
「トリに、恋愛相談をしろと?」
がんばれ、スターシオ。負けるな、スターシオ。取り敢えず、一歩進んだぞ。




