風の使徒は、女同士の対決をする
読みに来て下さって、ありがとうございます。
やっと、女の子キャラの登場です。この話、気付いたら男ばっかりでした。
それは、嵐の様に、やって来た。
「スターシオ殿下!やっと、見つけましたわ。」
ピンクのフワフワ綿菓子の様な髪、黄緑の小花柄のドレスに黄色いリボンと花飾りが付いた小さな緑の帽子。
小柄な少女が、フワフワと小走りに走って来る。それを追う様に、もう一人、薄茶の髪の毛でラベンダー色の縞柄にレースをあしらったワンピースを来た女の子が小走りに駆けてきた。
彼女達の後ろからは、更に、2人の騎士がスタスタと歩いて付いてきている。
私とスターシオ様が手を繋いで手芸店から出てきた時に、ピンクの髪の少女は私達に突撃してきた。
「砦に行ったら町に出かけていると言われて、探しに来てみれば、何て事!噂は、やっぱり本当だったのね」
ピンクの髪の少女は、私とスターシオ様の前まで来ると、手を繋いでいる私達の手元と私達の顔を交互に見て、自分の口元に握りしめた片手をやり、もう一方の手を私達に突き付けた。
「いくらキレイな男の子だからって、男同士で手を繋いで歩くなんて、恥を知りなさい」
追い付いてきた薄茶の髪の少女が、ピンク髪の少女の斜め後ろから、私達を見て、ビックリした様な顔をし、顔を赤く染めた。
スターシオ様は、私を後ろに庇い、ピンク髪を睨め付けた。
「どうして、お前は、いつもそうなんだ。先ずは、挨拶だろうが。
ミオウ、彼女はマリエッタ・イーブン侯爵令嬢。私の兄の婚約者だ。イーブン侯爵令嬢、こちらはミオウ嬢だ」
「ミオウ嬢。家の名前もないのね。平民じゃない」
「初めまして、イーブン侯爵令嬢。私は、ミオウ・カザミと申します」
私は、覚えたばかりの騎士の礼をし、ニッコリとイーブン侯爵令嬢を見た。彼女は、何故か顔を赤くし、私を見つめ、ゴクリと喉を鳴らし、私の手を自分の両手で握り込み、自分の顎の高さに持ってきた。
「家名があるのね。黒髪に黒い瞳が、神秘的で素敵だわ。それに、食べてしまいたい位の赤い艶々の唇。何て美しいのかしら」
イーブン侯爵令嬢は、赤い宝石の様な目を輝かせ、熱の籠った表情で、私を見つめた。
「本当に、白い小さな顔に黒い大きな目が映えて、ねえ、綺麗な方ね
私は、ミニャータ。コパートン辺境伯の娘よ。ミニャータと、呼んで下さいな」
薄茶の髪の少女が、イーブン侯爵令嬢の両手を更に自分の両手で包み込み、私の顔を覗き込んだ。
「あら、私も、マリエッタと、呼んでちょうだい。ミオウ様」
近い、近い。マリエッタはミニャータに負けじと、私に自分の顔を近づけた。
女同士だから良いけど、男女だとヤバい距離感だわ。キャーっ。何か、何か、ヤバい気がする。
「2人とも、止さないか。ミオウは、私のものだ。それ以上、近づくな」
スターシオ様が、私を、無理矢理2人から引き剥がして、自分の後ろに隠す。
美しい顔が強ばり、スターシオ様は目を細めて冷たく2人の令嬢を睨んだ。
「ふん。男の嫉妬は醜いですわよ。グランシオ殿下に比べて、心の狭い事。そう言う所が嫌いなのよ」
「兄上と、比べないでいただこうか、未来の義姉上。まったく、相変わらず、態度も性格も口も悪い女だ。兄上の前では、上手く猫を被っている様だが、化けの皮が剥がれないように気を付けるんだな」
「ああ、うるさい、うるさいですわよ。相変わらず、綺麗なのは顔だけよね。グランシオ殿下の方が、数倍マシだわ。本当に、グランシオ殿下に乗り換えて良かったわ。大体、男の癖に私よりも美しいって言うのが、特に気に入らないのよね」
可愛らしい顔を歪めてニヤニヤと笑い、マリエッタは更にスターシオ様を詰った。
スターシオ様は、更に不機嫌になり、もっと目を細めた。
「下品な言いようだな。流石、自分の婚約者の兄に手を出し、兄上の婚約者を追い出した性悪女が」
そうなの?そうなの?こんな可愛い顔して、そんな事やっちゃったんだ~。くわばらくわばら。
「私に捨てられた男の癖に、うるさいわね。負け犬の遠吠えは、みっともないわよ。ねえ、ミオウ。こんな落ちぶれた第二王子より、第一王子の婚約者の私の侍従になって、王宮で働かない?」
あれ?おや?
おとこ?
男?
お・と・こ?
って、誰が?え?
「ミオウは、女の子だ。誰が、どう見たってキレイな女の子だろうが。とにかく、私のミオウに手を出すな。触るな、見るな。ミオウが、減る」
「落ち目のスターシオ殿下には、勿体ない。ミオウは侍女服も似合ってよ」
スターシオ様とマリエッタの応酬は続く。
まあ、確かに私は女ですが。いや、それよりも。
「あの、スターシオ様は、男?」
「ええ、そうよ。ミオウ」
マリエッタ様が、何を当然の事を。と、言いたげに私をじっと見た。
「……」
スターシオ様の目が泳いだ。
「スターシオ様は、女騎士様では、ない?」
トーマスさんとドナテロ先生の方を見ると、2人共、私から視線を外して、明後日の方向を見た。
「いや、その。私は、今まで一度も、ミオウに私が女だと言った事は、ない」
「まあ、ないですね。確かに」
スターシオ様は、気まずそうに私をチラチラ見た。こんな時まで、キレイな顔してるな~ちょっと伏せた目を長い銀色の睫毛が彩って、ああ、キレイだな~って、思ってしまった。
シオシオしているスターシオ様を見ていると、可愛いなと思う。決して、嫌いには、なれそうにないんだよね。
はぁ。
まあ、勝手にスターシオ様が女だと思い込んだ私が、悪い。
「ゴメン、言い出しにくくて。誤解されてると、わかってたんだけど、嫌われそうで、言えなかった」
「一緒にお風呂も入っちゃいましたし、私の裸の胸にスターシオ様の顔を埋めちゃいましたし、他にも、あんな事や、こんな事とか一杯あって。
で、混乱してます」
スターシオ様が、赤くなった顔を片方の手の平で隠して、明後日の方向を向いてしまった。
「はぁ?何してるんですか。スターシオ殿下っ!?」
ですよねー。
私も、現実逃避しても、いいですか?
とりあえず、私達はマリエッタとミニャータをそこに置いて、砦に帰ることにした。
もう、今日は、ごはん食べてお風呂に入って、寝よう。うん。そうしよう。
「ミニャータ、私達、放置されちゃったんだけど」
「まあ、マリエッタ、うるさいしね」
「私、こんなに可愛いのに。皆、無視だし」
「はいはい。相手があの美形のスターシオ様と超絶キレイなミオウときたら、ねー。二人並ぶと、一幅の絵でしかないわよ。私達なんて、霞んじゃって、霞んじゃって」
「ああ、スターシオめ、子供の頃から、腹立たしいったらありゃしない。こんなに可愛い私なのに、あいつの隣にいるだけで、私の存在が皆無になるのよ」
「はいはい。美しさの次元が違いますからね~。私なんて、最初から諦めてますから~」
「本当、腹立たしい~~キィーっ!」
マリエッタは、スターシオを振った元婚約者です。ミニャータは、その友人です。どちらも、キレイな人が大好きです。マリエッタは、スターシオは嫌いですけど。




