風の使徒は、女騎士と女同士の秘密の話をする
読みに来て下さって、ありがとうございます。
ミオウ、異世界に来て、初めての町でのお買い物です。
副団長の菓子折りの中身はクッキーで、非常にうまうまだった。騎士団では、ガッツリお腹に溜まるデザートしか出ないんだよね~。大学芋っぽい奴とか、お焼きみたいな奴とか。
ふわっふわのスイーツが食べたい。昨日討伐に出かけた騎士団員は、今日は朝からお休みです。自主練に励む人、寝坊する人、許可を貰って町に出ても良いらしい。
食堂に朝ごはんを食べに行くと、団長さんに手招きされて、食後に団長室に来るように言われた。正式な騎士団員ではないので、お給料は出ないが、昨日、私が倒した魔牛の素材の買取り価格が決まったらしい。
牛の素材と言うと、角とか、毛皮とか?かな。よく、わかんないけど。
今朝も、スターシオ様に『あーん』して、しっかりと野菜を食べて貰う。うんうん、よしよし。
「流石、ミオウ様。私では、スターシオ殿下に野菜を食べて貰えませんから」
自分の朝食を食べながら、そう言うトーマスさんを、スターシオ様はギロリと睨んだ。美人さんは、ギロリと睨んでも、美しいんですね。羨ましいです。むしろ、睨まれてみたいかも。
そう言えば、今朝の副団長の頭を踏みつけたスターシオ様は、鞭を持って頂きたいくらい、迫力のある美しさでした。
はあ。
「野菜を残さずお食べになったら、ご褒美として、ミオウ様が一緒に町に行ってくださるかもしれませんよ」
トーマスさんの言葉に、スターシオ様は俄然張りきりだして、野菜を食べるスピードが上がった。『あーん』で。
『あーん』は、必須らしい。気に入ってるんですね、野菜を『あーん』で食べるの。
「ミ、ミオウの苦手な食べ物は、私が『あーん』して、食べさせてあげよう」
私、好き嫌いありませんので大丈夫です、スターシオ様。それに、トーマスさんからスターシオ様の苦手な食べ物を『あーん』して食べさせるのは、従者見習いの私の仕事だと、お聞きしました。
仕事を奪わないで下さいね。
トーマスさんが、ポケットから小瓶を取り出して、スターシオ様に手渡した。
スターシオ様が、怪訝な顔をした。
「毒も薬も入っていません。スターシオ様の野菜完食のご褒美にと、用意していた物です」
そう言って、トーマスさんは瓶の中から1つ取り出した。トーマスさんが、それを自分の口の中に放り込んだのを見て、スターシオ様は、瓶から中身を一粒取り出した。
「はい、ミオウ『あーん』して」
私が口を開けると、スターシオ様が顔を赤くして、それを私の舌の上にそっと置いた。
イチゴ味の飴。
「美味しいです。スターシオ様、イチゴの飴がお好きなんですか?」
「子供っぽいだろうか。昔から、苦い薬を飲んだ後や、嫌いな野菜を頑張って食べた後に、いつも乳母が口の中に入れてくれたんだ」
スターシオ様は、照れ臭そうに微笑んだ。思い出の味なんですね。
騎士団長に買取り金の計算書を渡され、出納係の所に行くように言われた。出納係にお金をもらった私は、スターシオ様とトーマスさん、ドナテロ先生と共に町に出かけた。スターシオ様は王族なので、2人は護衛として一歩下がって付いて来るとの話だ。
「そうだ、手、手を繋ごう。そう、ミオウが迷子にならない様に」
確かに。私は、この世界に来て初めての町歩きだったから、迷子になるかもしれない。うん。
スターシオ様のご厚意に甘えて、手を繋いでもらった。大体、先程貰ったお金の価値も、全然わからない。このお金で、目的の物が買えるんだろうか。
「何処か行きたいところは、ある?」
「まず、刺繍糸が欲しいです……後、下着って、何処で売ってるんですか?」
後半は、後ろの2人に聞こえないように、私はスターシオ様の耳元で、こっそり言った。
そう、下着。騎士団の砦では、男物の下着しか配給されないので、困っているのだ。
「え!?し、下着!?」
「しーっ。スターシオ様、声が大きいです。後ろの2人に聞こえるじゃないですか。スターシオ様は、どうなされてるんですか?」
私が、再びスターシオ様の耳元で話をすると、スターシオ様は顔を赤くして、片手で顔を覆った。王族の方なので、下着の話は、恥ずかしいのだろうか。でも、砦には他に女の人がいないので、スターシオ様しか頼れる人が、いない。
後ろから、吹き出す声と、忍び笑いが聞こえた。まったく、男共ときたら、何でも笑い話にするんだから。こっちは、わかんないから聞いてるの。女にとっては、死活問題なのに。いくら、私の胸が小さくても、必要なものは、必要なのだ。プンプン。
「まあ、王族の方には、専用の仕立て屋が、いらっしゃいますからね。ブフフフ。スターシオ殿下は、ご存じじゃないんですよ。女性用下着は、仕立て屋や服を取り扱っている店に置いてますよ。私が兄の振りをして、一緒に入りましょう。ブフフフ。スターシオ殿下は、隣の本屋に用が、お有りなので。あー、お腹痛っ。笑いすぎた。後で、生理用品も買いに行きましょう」
ドナテロ先生が、笑い泣きしながら、私と一緒にお店の中に入ってくれた。
トーマスさんが『だから、言わんこっちゃない。自業自得ですね』と笑いながらスターシオ様に言ってるのが、微かに聞こえた。
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「ドナテロ先生、私、この国の貨幣価値がわからなくて。これだけもらったんですけど、何をどれだけ買えるのかわからないんです」
「今までは、どちらに住んでらしたんですか」
「風神様雷神様のお住まいです。信者の方からの貢ぎ物で暮らしてたので、お金を使うことがなくて」
「マジ本物の、使徒様なんですね」
「あ、でも、私は普通の人間なんで、お金の使い方は、分かりますよ。一緒に住んでる先輩達は人じゃないですけど」
「人じゃない?」
「鳥とか、熊とか、猿とか?何方も、料理したり、掃除したり、人智を超えてますけど」
「料理する熊……」
わくわくデートじゃなかった。ただの買い物でした。スターシオの為に、次回はデートにしてあげたいです。




