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4章 サイコパステスト2問目

 カジスキという人形が話す。

「2問目は俺の過去の話だ。夏木は俺がどういう人間か聞いているか?」

「……爆弾魔だときいてます」僕は正直に答える。

「うんその通りだ。でも俺は子どもの頃から爆弾魔を目指してたわけじゃない」

 そりゃそうだろ。

「はあ、そうなんですね」

「科学者になりたかったんだ」

「なればいいじゃないですか」

 謎の爆弾を作れるのだから、それはすでに科学者だろう。

「俺は崇高な使命のもとに爆破をしている」

「……」

 なんだこいつ? サイコパスか電波系か。

「過去の事件によって俺は爆弾魔になった。それに関するクイズだ。話が長くなるぞ」

 人形は前置きして話し始めた。

「俺が小学生の時、両親は勉強に厳しかった。塾のテストで良い成績を取らなければ親から過酷な説教をされ食事が貧しくなる、テレビやマンガなどの娯楽を取り上げられるといった具合だ。

 俺も将来ブラック企業に勤めたくないからしぶしぶ努力していた。

 寝る時間をけずり、食事中も勉強をしてそれなりの好成績を収めていた。

 努力は辛いが、将来それなりに幸せになれるのだろうと思ってた。

 俺には3歳上の中学生の兄がいた。成績がとても優秀であり、俺以上に睡眠時間をけずって勉強していた。

 俺と違い優秀な兄は周りを見下していた。頭の悪い人を馬鹿にし俺を馬鹿にしていた。そうすることで過酷な勉強をし続ける辛さを軽減していたのかもしれない。

 ある日、家には俺と兄しかいなかった。

 リビングで勉強する俺の前に兄はやってきた。

 兄は手に輪っかがある長いロープ持っていた。

 その先は2階の手すりにしっかりとくくり付けられていた。

 そして兄はイスの上に乗って口を開いた。

『1番を目指す勉強が辛いから自殺しようと思う』

 俺は面食らった。

 俺は兄に勉強しろと言ったことは生まれてから1度も無い。

 それは両親しか言わない。

 だから、勉強が嫌で自殺するなんて、自分ではなく両親に言うべきだと思った。

 兄の自殺は俺に関係のないことだ。

 そう言いたかったが、異常者で性格が悪い奴にそんな言葉は通じない。

 しかし、常識が無く嫌いな人間であったとしても、自殺は止めなければならない。

 なぜなら、自殺を止めなかったことを自覚して人生を生きるのは過酷だからだ。また自殺された場合、自殺に見せかけて殺したと両親や警察に疑われる可能性もある。

 だから俺は説得することにした。

『自殺したら兄貴の友達や親や俺が悲しむからやめとけよ』

『そんなものはどうでもいい』兄は俺の説得を聞かない。

 やつは人の感情などどうでもいいようだ。

 こいつに感情論は無駄だ。

『兄貴は1番を目指す勉強が辛いと言ったな。例えばオリンピック選手なら金メダルを取らなければいけないが、俺達は違う。1番以外でもいいんだ。世の中の半分はテストで平均点を取れない馬鹿だが、彼らが全員不幸ではない。1番以外でも幸せになれる』

 俺は独自の考えを持っていたのでそれで説得した。

 努力した人は幸せになるが、すごく努力した人がすごく幸せになるわけではない。

『お前に俺の気持ちはわからない』

 そんな説得は兄の心に響かなかったようだ。

 イスに乗り、首を縄の輪に通した兄は今にも飛び降りそうだ。

『まあ待て。今自殺されると俺が殺したと疑われる可能性がある。俺が今から友達の家に行ってアリバイを作ってくるから、3時間ほど待ってくれないか?』

 3時間もすれば親が帰ってくるので時間稼ぎをしようとした。

 そう語る俺に対し、兄は無言でイスをけり首を吊った。

『なにしてんだおまえ!』

 俺は怒号を上げて助けに走った。

 俺はぶら下がっている兄を、下から支えて呼吸ができるようにしようとした。しかし、兄の足を支えたところ、大きくけられて俺は床に倒れてしまった。

 このままでは死んでしまうと絶望した時奇跡が起きた。

 縄がかけられていた手すりが折れたのだ。

 それにより兄は地面に倒れこみ、命は助かった。


 俺は手すりが折れた奇跡に感謝した。

 そして色々と考えることになった。

 世の中には害悪な人間がいる。罪のない人間に命懸けで嫌がらせをする人はいる。

 兄以外にも異常な奴はたくさんいる。

 なぜそんな非道なことをするのか?

 それは不幸だと思っているからだ。

 なぜ命を絶つほど不幸だと思うのか?

 欲望が深すぎるのだ。

 今ある幸せを当然だと思っている。

 当然だと勘違いしているから、感謝の気持ちを持たず、実力もないくせにもっと欲しくなり人を傷つける。そして満たされない辛さから自殺する。

 ご飯が食べられること、健康であること、戦争が起きていないこと、建物が爆破されていないことは幸せなのだ。

 人々がそれぞれ必ず必要とする幸福、これが満たされない場合狂うもの、俺はこれを幸福要求値と名付けた。幸福要求値を下げることが俺の使命だ。

 俺は世界を、人間の意識を変える使命がある。

 俺が爆破することで、近所の爆破されなかった人は幸せになる。

 爆破された人も死人が出なかったことで幸せになる。

 全ての人の幸福要求値を下げてやる。

 そうすれば自殺する人、自殺される悲劇の人は減るのだ。

 俺はその使命のために建物を爆破している、というわけだ」

「……」

 僕とモモさんはカジスキの長い話を聞き終えた。

 この話が事実か知らないが、人の悪意に触れたカジスキは精神に異常をきたして犯罪者になったということらしい。

 いやいや。

 異常者になった理由はわかったが、建物爆破して人に迷惑かけるなよ。

 てかなんでこの場に渡川いねえんだよ。こういう話は医者とかカウンセラーが聞くべきだろ。

 なんてことを考えていたら、警察官のモモさんが口を開いた。

「悲惨な過去があることはわかったわ。でも、犯罪者にならなくていいじゃない」

 その問いにカジスキは答える。

「俺が犯罪者にならない道もあっただろうな。

 でも俺は目の前で自殺することが犯罪にならない理由がわからない。たとえば露出は犯罪だろ。目の前で露出されることと自殺されることのどちらが嫌か? ときいたらほぼすべての人間は自殺されるほうが嫌だって答える。

 目の前で自殺して人の心を破壊するのが犯罪でない。なら俺が老朽化してるのに工事をしない危険な場所を爆破して危険を取り除くのも犯罪ではない。犯罪と言う言葉の定義が間違っているんだ」

 うーん、イカレている。

 というか、これクイズだったよなあ。

「それでクイズってなんなの?」とモモさんがきく。

「ああ、うっかり忘れていたよ。大人になった俺は気づいた。必死になって兄を助ける必要はなかった、別にあいつが死んでもよかった。なぜそう思ったのか答を出してくれ」

「……」

 いったいどういうことだ?

 自殺しようとする人は助けたほうがいいはずだ。

 家族や友人ならなおさら助けるべきだ。

 助ける必要がないとは、サイコパスの考え方だ。

 この問題は難しい。

 とりあえず質問をするか。

「兄は自殺未遂のすぐあとに亡くなったのですか?」

「いいえ」

「兄は殺人などの悪事をしましたか?」

「いいえ、していない」

「あなたは兄に殺意を持っていますか?」

「いいえ」

 カジスキの兄はすぐに亡くなったわけではなく、また死ぬべき悪人でもなく殺したいとも思っていない。

 うーんと僕がうなっているとモモさんが口を開く。

「この難問。数々のマンガとドラマを見てきた私はわかるわ。ずばり大人になった君は兄と敵対したのよ。命懸けの死闘を繰り広げる中、楽しかった日々を思い出し苦しんだのよ。こんなに苦しい思いをするなら家族の愛など知りたくなかった。そういう悲劇ね」

「あー、熱弁のところ悪いが違う」

 カジスキは無残に切り捨てた。

「……」

 僕はあらためてこの問題を考える。

 兄は自殺をして失敗した。

 カジスキは自殺を止めようと説得したが失敗した。

 大人になったカジスキは必死になって兄の自殺を止める必要はなかったという結論に至った。

 それはなぜか。

「大人になって思ったのは、自殺は止めるべきだが必死になって止める必要はなかった、ということですか?」

「はい、そうだ」カジスキが答える。

 人の自殺を止めるべきだと思っているが、その説得が失敗しても仕方がないと思っている?

 つまり兄の死を恐れていない。それにより親や友人が悲しんでもどうでもいいと思っている。

 僕はカジスキの話を思いだす。

 彼が恐れているのは、自分が殺したと疑われることなのか。

 ならサイコパスの答はこうなるか。

「あなたは大人になって吉川線という言葉を知った。ロープによる自殺と他殺では首につく痕が違う。だから自殺されても殺したと疑われることはない。人殺しと疑われないのだから必死になって止める必要はなかった」

「……正解だ」

 おおー、とモモさんが驚愕の声を上げる。

 この問題、人として正解してよかったのか…?

 モモさんは人形の首をつかんで自身に向けた。

「これで私たちの勝ちでいいの?」

「ああ、爆破は中止しよう。おめでとう」

 人形はジーと音を立てて首を僕に向ける。

「夏木、俺は気分が良い。お礼に何か質問があれば答える」

 カジスキは上機嫌なようだ。

「質問ですか……」

 いきなり聞かれても困るなあと考えると考えていると、モモさんが僕にささやいてくる。

「……夏木君、カジスキに住所と今いるとこ聞いて」

 さすが警察、抜け目がない、なんて考えているとカジスキが口を開く。

「モモ、俺がいる場所がわかっても捕まえることはできないよ。それにクイズに正解したのは夏木だから、彼が質問すべきだ」

「……」

 さて、この爆弾魔に何を聞こうか。そういえば、カジスキは僕の親父と同じ名前の佐倉本地を知っていると言っていたな。

「佐倉本地という人に会ったことありますか?」

「あるよ」

「彼が行方不明のせいで、息子の僕は命を狙われています。どこにいるかわかりますか?」

「残念ながら知らないな」

「それは残念です」

 まあそんな簡単に情報は手に入らないか。では何を質問しようか。

 やっぱ爆破の方法が気になるな。

「前に渡川先生から変な話聞いたんですよ。警察署の屋根が内側から爆破されたと。監視カメラに不審者がいなくて方法がわからないそうなんですよ。どうやって爆破したか教えてくれます?」

「……」

 沈黙。さすがにこれは秘密か。

「逆に夏木はどうやって爆破したと思う?」

 逆に質問してきたぞこの人形。

 そういえば爆破の方法は渡川の友人の土座衛門さんがうまく推理してたな。

「爆薬を積んだドローンを光学迷彩で見えなくした。それを建物に侵入させて突撃させた、とかどうですか?」

「……凄い推理だ」

「外れですか?」

「いや、半分当たっている。俺もそれを思いついたが大量の爆薬をバレずに運ぶのが不可能だった。重くなればそれを運ぶのに音がしてしまう。でもその問題は解決した」

「どうやって解決したのですか?」

「夏木にクイズだ。昔万博があり防犯対策でペットボトル飲料の持ち込みが禁止された。なぜかわかるか?」

「……なぜって、火炎ビンの持ち込み対策ですか?」

「ふふふ、面白い発想だな。ちなみにペットボトルにガソリンを入れるのは危険だからやるなよ。持ち込み禁止の理由は爆弾対策だ。液状の爆弾がある」

「なるほど」

「ある日、科学者たちの集まりがあった。そこで君のお父さん、佐倉本地さんが言った。『液体ではなく気体化した爆弾を持ち込んで爆破させる、そうすれば持ち込みを防ぐことは不可能になる』。これを聞いた科学者たちはみんな笑って馬鹿にした。どれだけ大量の気体が必要なんだと。……でも俺は笑わなかった。やらなければ不可能か可能かはわからない。そして俺は本地さんと協力し数年かけて見えない爆弾を完成させた。これを気体爆弾と名付けた」

「それが爆弾の正体ですか」

「そうだ。人のカバンを調べようが、ボディチェックをしてX線にかけようが気体の持ち込みを防ぐことはできない」

 だが、爆発を起こすには多くの気体が気体が必要になると思う。「ではどうやって大量の気体を持ち込んでいるのですか?」

「言うわけ無いだろ。犯罪に使われて大惨事になるぞ」

 いやあなた犯罪者でしょ、とツッコミたくなったが僕は黙る。「さすがに俺も起爆装置の気体化はできなかった。だから光学迷彩で見えなくした小型ドローンを突っ込ませて爆破している」

「すごい技術ですね」僕は素直に感心した。

 こんな爆破を防ぐことはほぼ無理だ。防ぐには建物内を24時間換気するしかない。

「へー、そうやって爆破してたんだ。だから不審者が見つからなかったんだ」モモさんが感心している。

「爆破のタネの一部が割れてるからこれ以上続けたらさすがに捕まる。俺は日本で爆破はしない。別の方法で人々の幸福要求値を下げて幸せになってもらうよ」

「じゃあ自首するのはどうかしら? 私は幸せになるわよ」モモさんが言う。

「モモ。俺は多くの人の幸せを感じてもらう使命があるんだ。数多の人間の幸福要求値が下がり理想社会になれば自首するよ」

「そっか、残念」

「最後に夏木に言っておく」

「はい」

「君のお父さんの本地さんは、おそらくどこかの外国の戦場にいる、兵器の運用方法と結果を調べる現地主義者だからな」

 居場所を伝えるとは何が目的だ?

「……僕に戦場に行けと?」

「逆だ。危険だから本地さんは探すな。君は渡川の仕事を手伝ってろ。そうすれば身の安全は保証される」

「そうですか、忠告ありがとうございます」

 こうして、爆破中止ゲームは僕たちの勝利で終わった。 


「今日は付き合ってくれてありがとう」

 モモさんが僕に言って、お土産をくれた。

 僕が学園の寮に帰って中を開けると、ナス寿司の詰め合わせであった。

「……」

 中学生へのお土産にナマモノ?

 あと、ナス寿司のお土産なんてニッチなものを作る店があるのか。「普通、渡す前に僕がナス好きか聞くだろ」

 どうにも変な人だなと思いながらナス寿司を食べると、大変美味であった。 完

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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