1章 マツタケのスープの謎
この話は続編ですが、たぶん前作を読まなくても大丈夫です。
「ウミガメのスープの話を知ってるかしら?」
僕はそう問われた。
ある警察署の取調室。机をはさんで2人の人間が座っている。
1人は中学生の僕、佐倉夏木。
もう1人は百白紅子刑事、通称モモさん。
小柄で茶髪の美人の女性だ。
念のため言っておくが僕が犯罪をしたわけでも補導されたわけでもない。渡川という男に依頼されたから来ただけだ。
互いにあいさつをした後、モモさんが「ウミガメのスープの話を知ってるかしら?」と僕に聞いてきた。
「ええウミガメのスープは知ってます、怖い話ですよね」僕はモモさんに答える。
ちなみにウミガメのスープは次のようなクイズだ。
ある男が、レストランで「ウミガメのスープ」を注文した。
スープを一口飲んだ男は、それが本物の「ウミガメのスープ」であることを確認し、勘定を済ませて帰宅した後、自殺した。
なぜ自殺したのか?
これは出題者に質問をして解答を導き出すゲームで、水平思考クイズとよばれる。質問は「はい」「いいえ」「関係ありません」のいずれかで答えられるものでないといけない。
「そう知っているのね。じゃあ『マツタケのスープ』の話は知ってるかしら?」
マツタケのスープ? なんだそれは。
「いえ、知らないです」
「じゃあ話すね。ある女が友人と一緒に高級レストランに行きマツタケのスープを注文した。女は友人に言ったわ。
『昔、ママが特別な時にマツタケのスープを作ってくれたの。テストで良い点を取ったときや誕生日に高級なこれを作ってくれてとても美味しかったわ』
マツタケのスープが来て、女と友人は食べ始めたの。
女はけげんな顔をしてウェイターを呼んだ。
『これは本当にマツタケなの?』
聞かれたウェイターは答えた。
『お客様、間違いなくマツタケでございます』
友人は『ちょっと何言ってるのよ~』と言って女のスープを拝借して少し食べた。
『これは間違いなくマツタケよ』
友人はそう言い、女は絶望したわ。……女はこの後どうなったと思う?」
モモさんは僕にそう問いかけた。
僕は考える。
これは僕が質問をして解答を導き出すゲームだ。
ウミガメのスープは、男が自殺をした理由がクイズになっているが、マツタケのスープは女がどう行動するのかがクイズになっている。
では、モモさんに質問してみるか。
「ウミガメのスープの話みたいに女は自殺したのですか?」
「いいえ、違うわ」
「昔、女の母が作ったスープに本物のマツタケが使われていますか?」
「いいえ」
どうやら女は昔、偽物のマツタケを食べていたようだ。
「昔食べた偽物のマツタケは、食べてはいけないものですか?」
「いいえ、食べても問題ないわ」
「女の母はケチですか?」
「良い質問ね。母はケチなの」
僕は考えた。
母親がケチって……答は1つじゃないか?
「女はこう言いましたか?
『ママは安いキノコをマツタケとだまして私に食べさせてたんだ。恥ずかし~』」
モモさんはニッコリと笑った。
「大正解! 女は大恥をかいたのよ」
「……ギャクじゃないですか」
「そう、ギャグなのよ」
モモさんはクスクスと笑った。
なんてくだらない話だ。
「長年娘をだましていたなんてひどい母ですね」
「マツタケってのが絶妙ね。似てるのがあるし、めったに食べないからだまされるよね」
「まあ、たしかに」と僕が答えたところ、部屋に第三者の笑い声が響く。
「ふははは、くっだらねー話だな、モモ」
実を言うとこの部屋にはもう1人(?)いる。
50センチくらいのピエロの人形、『カジスキ』が机の上に置かれている。スピーカから話す不気味な人形だ。
「その話は自分で考えたのか、モモ?」カジスキはスピーカーから馴れ馴れしくしゃべる。
「前に捕まえた結婚詐欺師の女が話してくれたのよ。これを話すと男がマツタケが出る高級店に連れてってくれるって」
「おもしれー女じゃねえか。クイズのチュートリアルとしちゃあ上出来だな。これで夏木も水平思考クイズの流れがわかっただろ」
「ええ、流れはわかりましたよ」僕は答える。
「じゃあ、爆破中止ゲームを始めよう。クイズは全部で2問だ」
ちなみに僕は、百白刑事とカジスキに今日が初対面だ。
だが、2人については渡川という男から事前に聞いている。




