第一話「神、瀕死!」
俺は沼田慎一。
23歳、ワンルームアパートに住む何処にでもいるコンビニバイト...まぁ、遅刻の常習犯なのだが。
俺は老けているらしく、他の人にはよく30代に見間違えられる。
それに加えて、ドMデブ童貞アニメオタクである。
大学一年生の時の夢は何でも屋兼貫禄溢れるニート。
今日も、ぷるんと出た腹がビューティフル♡・・・
というのはギリギリな自己肯定感を保つためのおまじないというやつだ。
人前では死んでも言わない。
長めの反抗期の勢いと無駄なプライドで、
短大中退と共に一人暮らしを始めた。
お金を貯めていたわけでもない自分が
いきなり一人暮らしなどは出来るはずも無いことに気づいた時には、時すでに遅し、という感じだった。
現在はなんとかバイトでその日暮らし。
なんとも、実家住みニートが羨ましくなる。
―――――――――――――――――――――――
はっ、と目を覚ます。
またあの日の夢か。
一人暮らしを始める日、父は二ヶ月分の家賃を口座に入れておいたからと、すぐにでも早く俺を家から追い出そうとする。
母は目に涙を浮かべる。
嬉し泣きか?と俺はその涙に心の中で唾を吐いたが、心配してくれていたのだろう。
父は母には止められない。
厳格な人だった。
まさに昭和の父親のような風格をしたその人を、俺は今でも単純に、毛嫌いしている。
本当にストレスだった。
昨日の床オ◯の痕跡がスッと視界に入る。
そういえば一回、高校生の時にお姉ちゃんにバレて絶叫された。
もっとも、割と美人なお姉ちゃんに"それ"を見られた俺は、少し興奮したのだが。
あの時、父にもバレていたら、竹刀でケツをパシーン!としばかれながら、公開オナ◯ーになっていたかもしれない。
------いや、それは無いか。
流石に俺もそこまで変態じゃ無い
それにしても今日はやけに目覚めがいい。
だが、こういうのはだいたいフラグになる。
やっぱりな・・・
大好きな異世界アニメキャラで、主人公の精霊として冒険を助けるナイスガイ!のフーちゃんを背景にした俺のスマホには、9:15 と表示されている。
バイトは午前9時からだ。
頭が理解を拒む。
冷や汗が背中を濡らす。
枕に顔をうずめる。
これがいつものフルコンボである。
遅刻には慣れてしまった。
だが、店長とバイトリーダーからの説教はいつまで経っても慣れられるものでは無い。
俺のメンタルは、赤ちゃんの出す初級魔法でも粉々に粉砕出来されるレベルだろう。
今日も怒られるのは嫌だ。
助けてくれよフーちゃん。
もう、行かなくてもいいか。
でも行くしか無い。
その日暮らしなのだから。
そんなことを何度も心の中で呟きながら、歯磨きをテキトーに済まして顔を洗った。というより顔を水でビチャビチャに濡らした。
昨日の夜、近所のスーパー買ってきたパンを半分ほど食らいつく。
『朝食は、どれだけ絶望的な時間でも食べる!』それが俺のモットーだ。
生活習慣は支離滅裂なのに、無駄にそこら辺には気を遣っている。
俺の部屋の極小のテレビには、近所で最近多発している、不可解な強盗殺人事件についてのニュースが流れている。
なんとも、惨殺された痕跡はしっかりと残っているのに、死体が一切見つからないらしい。
ここ1週間、毎朝同じ内容しか報道されていない。
どうやら、警察の捜査は全く進展していないようだ。
もっとも、今の俺にはそんなことを心配している余裕は無いのだが。
着替えをしながらすっと目を時計に向けると、すでに9時半を回っていた。
なんだこれは!
最高記録更新ではないか!
いつも通り、アパートを出て、とぼとぼと職場への道を歩く。
電車やバスの乗り遅れ、或いは電車の遅延などの、寝坊以外の理由を店長には言いたい所だが、
職場のコンビニまで徒歩10分という、アパートの素晴らしい立地が仇となった。
さっきまでのテンションは何処に行ったのだろうか。
やっぱり外は嫌いだ。
自分が本当の自分ではいられなくなる。
はぁー、店長に怒られるのがどうにも嫌で仕方ない。
先代の人類がつくり上げた時間というものに、どうして現代の人類、俺が苦しめられなければならないんだ。
おかしいだろ。
なあ、どうしてみんなは何も思わないんだ?
俺が特別なのか?
俺は他の人とは違うのか?
だったらさっさと転生とかさせてくれたっていいだろ。
当たり前だが、死んだら脳の活動も停止する。
意識や感情が無くなるということだろう。
この現実において、転生などは有り得ない事だ。
そんなことはとっくの昔に分かっていた。
だが、それぐらいしか、今の俺には夢と呼べるものは無い。
―――――――――――――――――――――――
そんなことを道行く女性の胸を眺めながら(不可抗力)考えていると、着くなと渇望していた場所に着いてしまった。
気分は最悪だった。
店内に入る。
バイト仲間と目が合う。
店長に睨まれる。
不意に睨み返す。
店裏に呼ばれる。
店長は俺にこう言った。
「いつもは5分遅刻だから、そういうクズもいるんだろうと呆れていたが、お前はそれを優しさだとでも思っていたのか?」
俺は何も言えなかった。それは紛れもない事実だったからだ。
続けて店長は言った。
「お前は俺の優しさにつけ込んで、全く改善しようともしない。なんせ今日は43分も遅刻しているんだぞ?分かってるのか?お前は20年生きただけじゃ何も学べない無能だ!」
「すいませんでした! 今日も他の人より1時間残って働きます! その分の時給は要りません!」と、俺がいつしか考えていた最終手段とも言える言葉を発しかけたその時だった。
店長が勝ち誇ったように口を開く。
『もう来なくていい。クビだ。』
――――俺の喉から出かけた言葉は乾いたため息となり、震えた舌には何処からか流れて来た塩水の味がした。
俺は悟った。
詰んだ。
もうどうしようもない。
どうすることもできない。
俺が何をした?
無能な俺は、時間も、上の人間にも逆らえない。
『こんな社会、ぶっ壊してやる。』
店の中で赤子のように泣きながら手足をばたばたと床に叩きつける気力も無かった。
逆に、そんなことしか浮かばない自身の無力さに打ちひしがれた。
絶望的とも、悲壮感とも言えない表情で店を出る。
アパートまでの道は、異様に短かった。
心の中は、無数に湧いてくる汚物のような感情で溢れていた。
どうして俺がこうなった。
どうして俺だけがこんなことに。
これが運命というやつなのか。
どうして俺だけがこんなに不幸にならなきゃならないんだ。
どうして……な゛ん゛だよ゛ぉ!
あの店長の言葉が吐瀉物のようにべったりと後を引いて、耳から離れる気配すらしない。
玄関の扉を開ける。
この家ももうすぐ俺の家では無くなるのだろう。
つい1時間前の浮ついた自分が許せない。
「ぶっ飛ばしてやろうか」とも思える。
冷静になろう。
今の俺はまさに台風の中、崖っぷちでつま先立ちしているようなものだ。
いや、台風の中心には、『目』があるじゃ無いか。
そうだ、まだきっとなんとかなるはずだ。
この心もいつか晴れ渡るはずだ。
よし。 前に、進もう。
第一話をお読みいただき、ありがとうございます。
理不尽な孫の手さんの無職転生をきっかけに、こちらの世界に片足を入れさせて頂きました。中々簡単ではありませんが、ちょくちょく参考にしていこうと思います。何か悪い点や、改善点などがございましたら、気軽に感想欄に書いて貰えると嬉しいです!
また、この先細かい点を改変することもあると思うので、そこだけご了承下さい。
現在、僕は学生なので、投稿頻度に大変波があると思います。
気に入っていただけた方も、そうでない方も、温かい目でご覧いただき、頭の片隅にでも置いていただけたら幸いです。
これからも白髪の白文鳥をよろしくお願いします。