第16話 マイケル・タイタン戦 その3
元ボクシング・ライトヘビー級・世界チャンピオンのマイケル・タイタンは『漆黒の鉄人』と呼ばれ、現役時代は50戦50勝、50KO勝ち。という驚異の戦績を残し、無敗のまま引退した。
現在は四十歳だが、フィットネス・モデルとして活躍する肉体美を維持しながら、エキシビジョン・マッチで荒稼ぎしをている。
今回の試合も、テレビ局の上嶋プロデューサーが言うには、
「タイタンは、この二試合で五億円のファイトマネーを要求してきましたよ」
と、言う。僕へのファイト・マネーは1000万円であったが、
「この額は売れっ子漫画家の南斗先生にとっては、はした金でしょう」
上嶋は申し訳なさそうに頭をさげるが、これは金の問題ではない。僕はキッパリと、こう言った。
「俺はマイケル・タイタンと試合ができる事が栄光なんだよ」
その後も僕はトレーナーの火事原先生と二人三脚で厳しい練習を重ねていく。そして時間は、あっという間に過ぎ去り、
第一戦目の富士丘ヒロシ戦が始まった。富士丘は真っ白い道着姿でリング上に立つ。
「大丈夫ですかね。富士丘さんは?」
僕は会場で観戦しながら、隣に座る火事原先生に聞いてみた。
「ウ~ン、ちょっと厳しいかもな」
と、火事原先生は辛口の返答を口にする。
カーン。
ゴングが鳴ると、富士丘は古武術のような構えをみせたが、これはボクシング・ルールの試合だ。
華麗なフットワークで間合いを詰めたマイケル・タイタンは、
ドカンッ!
強烈な左ストレートを放ち、一発で富士丘はダウンしたのだが、
1、2、3、4、
カウント4で富士丘は立ち上がった。だが、それを見た火事原先生は、
「立つのが早すぎる。カウント8まで時間を稼いでダメージを回復しなければ」
と、やや早口で言う。
リング上のタイタンは余裕の笑みを浮かべていた。そのニヤけた顔に、会場の富士丘ファンは、
「ブウウウゥゥゥゥ〜ッ」
激しいブーイングの嵐を浴びせかける。それでも不敵に会場に手を振るタイタン。
富士丘はファイティング・ポースを見せて、試合は続行されたが、
ドガアーンッ!
今度はタイタンの右ストレートが炸裂し、富士丘は真後ろに吹き飛んだ
ゴツンッ。
後頭部からリングに倒れ、ここでレフリーが試合をストップする。
カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン。
打ち鳴らされるゴングが、帝都ドームに響く。
その後、富士丘は意識が戻らず、病院へ救急搬送されたのだが、翌朝のテレビニュースで、
「俳優で武術求道者の富士丘ヒロシさんが、昨夜、搬送先の病院で亡くなりました」
と、報じられ、そのニュースで富士丘の死を知った僕は、
「なんで富士丘さん、死んじまったんだよ」
盟友の死に涙を流したのだが、僕には泣いている暇はない。そのマイケル・タイタンとの試合が、一週間後に控えているのだから。




