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第11話 性的猿人 前編

 文学作家の大絵剣三浪おおえけんざぶろうがノーベル文学賞を受賞した。これは快挙である。


 世間は、この話題で盛り上がり、その著作は書店にズラリと並べられた。ここで改めて、大絵氏の若かりし頃のエロチックな作品も注目を集めることとなる。その作品の一つが、


「映画化されることになってね。監督の依頼がボクのところに、なぜか来ちゃた」


 と、村二市むらにし監督が嬉しそうに語る。


「で、監督が、俺に電話してきたという事は?」

「バズ君にも、出演してもらおうかと思ってね」


 と、いうことらしい。村二市監督はAV監督であったが、その作品の芸術性を高く評価する映画関係も数多くいた。


「それで、映画化されるのは、どの作品ですか?」

「あれだよ、初期の傑作『性的猿人』という短編」


 僕は、この出演依頼を即決で快諾し、とりあえず書店に走って、大絵剣三浪の短編集を購入する。


 村二市監督の話では、僕は主演の予定だ。まずは勉強のために原作を熟読した。


 この性的猿人のストーリーは、金持ちの息子が倒錯的な性的行為の願望を抱え、それを実行して、壮絶な死を向かえるというものだ。登場人物は、


・優次郎

 本作の主人公。大金持ちの次男坊で倒錯的な性的衝動に悩まされている。この欲望を実現するために協力者として慎二を金で雇った。


・慎二

 警察官。元々は正義感あふれる青年であったが、今の社会には失望している。多額の借金もあり、返済のために、優次郎の協力者となって高額の報酬を受け取った。演じるのは、なんと富士丘ヒロシである。僕との因縁のある富士丘は『主役を喰うために迫真の演技をしてやる』と、息巻いているらしい。


・莉央

 女子高校生。目も眩むほどの美貌の持ち主で、慎二の手により拉致され、優次郎の別荘に監禁される。演じるのは若手人気女優・アオイ和奏わかな。清楚な清純派の彼女は、女優として一皮剥けるために、本作への出演を志願した。



 そして、いよいよクランクインの日。


 「じゃあ、始めましょうか」


 と、村二市監督は、いきなり見せ場の別荘のシーンから撮影した。


 これは張り詰めた緊張感を出すために、出演者もスタッフも、お互いに面識のないうちに撮影しようと、村二市監督が考案したらしい。


 この時、僕は初めてアオイ和奏と会った。セーラ服姿で撮影現場に佇む透明感は、汚してはならない存在のように思える。だが、


「はい、スタート」


 と、村二市監督がカチンコを鳴らす前に、


「キヤアーッ!」


 莉央役の和奏が悲鳴をあげた。


「おとなしくしろ、コラ!」


 警察官の制服を着た富士丘が、役の慎二郎になりきって、セーラ服姿の和奏の髪を鷲掴みにして、


「この、雌ガキがッ!」


 と、乱暴に床に引きずり倒す。


「痛い、本当に止めて下さい」


 このシーンは、泣き叫ぶ莉央を、優次郎と慎二が二人がかりで襲うシーンだ。

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