第一話 無双の男
令和時代。生まれつき病弱だった僕は、ついに持病が悪化して死んでしまう。病院のベッドで意識が遠退き、深い深い眠りへと墜ちた。それは永遠の眠りのはずだった。だが、
僕は豪邸の自室で目を覚ます。
「な、何だ?」
そして記憶が上書きされる感覚を覚え、僕は、どうやら『バーズカ南斗』に転生してしまったようだと、自覚する。
バーズカ南斗とは平成の三十年間を駆け抜けた、『AV男優』兼『漫画家』だ。まるでヘラクレスのような肉体美を誇り、その卓越したテクニックは数々のAV女優を驚喜させた!
そして漫画家としてデビューすると、爆発的なヒットを記録して、TVアニメ化。そのTVアニメは国民的な人気を獲得する。
だから、バーズカ南斗は豪邸で暮らしているのだ。
時計に目をやると、朝六時。バーズカ南斗に転生した僕は、とりあえず朝食を食べる。メニューは鶏肉のボイルとサラダ。
その後、豪邸の庭に建てた個人用のトレーニングジムで汗を流した。これが毎朝のルーティンのようだ。
そして午前八時頃になると、AV男優の後輩が数名、ジムに顔を出し、
「南斗さん、おはようございます!」
と、一緒にトレーニングする。これも毎日のことなのだろう。
こうして午前九時過ぎに、バーズカ南斗は、
「じゃ、俺は仕事にいくから、ジムは好きに使ってもいいけど、ちゃんと清掃はしろよ」
と、後輩に言い残し、シャワーを浴びて、ブランド物の服に着替えると、愛車の真っ赤なランボルギーニ・カウンタックに乗って、都内の漫画スタジオに向かう。
僕がスタジオに入ると、
「先生、おはようございます!」
と、八名いるアシスタントが立ち上がった。これから朝礼になるのが流れだ。チーフ・アシスタントが今日の作業の流れを指示し、その後、僕が、
「では、今日も、よろしくお願いします」
と、挨拶して、仕事が始まるのが午前十時。
僕がチーフアシスタントのデスクに、昨夜、自室で仕上げたネーム(下書き)をポンと置くと、代わりに僕のデスクにドサリと原稿が置かれた。
この原稿には、すでにアシスタントの手により、背景やモブキャラは、描かれていて、僕は主要キャラに筆入れをして原稿を仕上げていく。
こうして漫画制作を進め、午後二時になると、僕はTVアニメの打ち合わせのため、
「じゃ、ちょっと行ってくるよ」
と、漫画スタジオを抜ける。
バズーカ南斗に転生した僕は、ランボルギーニ・カウンタックを疾駆させ、湾岸のテレビ局に入る。
何という生活だろう。転生する前の僕は、ただ病弱な人間で、何も成すこともなくしんでしまったのに。だが、なぜだが解らないが『無双の男』として転生し、今、新しい人生がスタートした。




