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第二話 刀を持った青年

カイは手描きの地図に描かれた場所に行くためにとりあえず町を出ることにした。


町に近づいていくと森に向かって一体の苔むせた石像が立っているのに気が付いた。


こんな石像あったかと思いながら、何やら文字が書かれているところのコケを削り落としてみる。


『リューン・ノア 勇敢なる戦士の名前』


(リューン?町の名前と同じだ)

(何か関係があるのか)


疑問を抱きながらも夜なので宿を見つけなければならない。




この世界は五つの大陸からなる。


カイがいるのはその中でも一際大きな大陸であるパドキニア大陸。


ここリューンはパドキニア大陸の東に位置し、人口二十万人をかかえるかなり大きな町である。


そしてかつて海運業で栄えた港町であり、当時の華やかさを表す建物も多く残った歴史ある情趣深い町だ。


地図に示された場所はリューンから200㎞ほど離れた場所にあるが海路を使ってアクセスができるためこの町はもってこいの場所である。


カイは取り敢えず街を歩いて宿を見つけることにした。


しばらくして酒場と宿が一緒になったリューンでも一際にぎわっている店を見つけた。


ここにしようと中に入ると案の定大盛況。酒を酌み交わす者もいれば、音楽を演奏する人たちもいてお祭り騒ぎだ。


どうやら今日約半年もの船旅に出ていた運送をしている船団の人たちが帰ってきたらしい。


そのため宿の部屋はいっぱいになっていた。


他に宿がないか聞こうと店の奥に進むと、この店の店主らしき人がいるカウンターの席が空いていたのでそこに座ることにした。


「おぉ、兄ちゃん見ない顔だね。この町は初めてかい」

「北の森に住んでいてね、降りてきたんだよ」

「ほぅ、北の森からねぇ」


なるほどと理解した後にピンとひらめいた様な顔になった。


「てことは、兄ちゃんジエフさんのとこの子か」

「そうですけど」


こりゃたまげたとびっくりしている。


ジエフが元気しているか尋ねてきたので事の経緯を丁寧に話した。


「そっか、そっか、そうか、それは気の毒に」


店主は少し寂しそうな顔で大きなため息を吐いた。


カイはジエフとこの店主が何らかのつながりがあるのではないかと思い尋ねてみることにした。


「お恥ずかしい話だけどね、昔いろいろとお世話になったのよ。そこからのつながりかな」

「そういえば名前聞いてなかったな」

「カイと言います」


それからジエフとのこれまでの話や他愛のない話で会話が弾み気づいたら一時間近く経過していた。


カイはそういえばとこの町に来るときに思った町に入るときに立っていた石像の名前とこの町の関係性を聞いてみることにした。


どうやら昔この町が森の獣たちの大群に襲われたときに命がけで戦った戦士がいたようだ。


その戦士のおかげで町は守られ、その戦士を祭ることと感謝の意味を込めて銅像が建てられ、その戦士がいる町という意味でリューンとなったのだという。


そして金輪際、獣が町を襲えないように森の方向に向かうように銅像を建てたらしい。


そろそろ店を出るかと店主にお礼を言い、店を出ようとするとジエフとの思い出を大切にしろよと言われたので笑顔で返して店を出た。


店を出てすぐ他にある宿について聞くことを忘れたことに気づいた。


夜も遅く宿ももうどこも閉まっていたのでしぶしぶ野宿をすることに決めた。


リューンには町の景観を保護するために自然公園がある。


ここはかつてこの土地を収めていた貴族が所有していた館の庭だったらしい。


カイはその公園のベンチで寝ることにした。


(意外と寝心地がいい)


案の定すぐに眠りに落ちた。



カイはしばらく寝ているとこちらに近づいてくる足音がすることに気が付いた。


寝たふりをして様子を見ることにした。


(身を守ることなら楽勝だ。こちとら、じいちゃんから護身のためにいろいろ武術習ってんだ。来るなら来い)


しばらくこちらの様子を窺うようにこそこそと周りを歩き回っている足音がしていたが急に静かになった。


そのとたん強く踏み込んだ足音がした。


(攻撃してくる)


そう感じたカイはすぐさまベットから転げ落ち構えをとり状況を確認したとたんゴーンと大きな音がした。


目の前には全身黒づくめの男が二人、うちひとりが棒のような武器でカイが

寝ていたベンチに棒を振り下ろしていた。


(危なかったな、それよりもこいつら一体何者だ)


「目覚まし時計セットし忘れたけど、誰が夜に起こしてくれって頼んだかよ」


そう言い、ベンチを左足で強く踏み込みもう一体の男の顔に飛び膝蹴りをいれた。が、右手で防がれた。


(こいつなかなかやるな)


「あんたたち一体何者だって聞いても答えてくれるわけないですよね」


と言った瞬間棒を持った男が左から思いっきりスイングしてくる。


カイはしゃがんでよけ、男の顎にしたから両足で蹴りを入れ、がら空きになったお腹に思いきりグーパンチをおみまいした。


(どんなもんだい)


と油断していると後ろからもう一人の男にタックルを食らわせられ、吹っ飛ばされた。


(しまった、クッソ)


カイは立ち上がって戦おうとすると、男が何者かに背後から攻撃されて倒れた。


何だと思い奥を見ると全身マントで身を包みフードをかぶったカイと身長変わらない何者かが右手に刀を持って立っていた。


どうやら鞘の部分で男の頭を殴ったらしい。


「巻き込んですまないな」


と言い、腰に刀を収めた。


若い男の声だ。


「何者だ」

「これは名乗り遅れてすまない」


男はフードをめくる。


「俺の名前はシエル。訳あって姓は名乗れない」


肌は白く、きれいな紫色の瞳に水色のツンツン頭の青年だった。


「でも大体、人に名前を行くときはまず先に自分から名乗るもんだろ」

「それもそうだな、俺はカイ」


どうやら年も近そうだ。


「それよりもさっきの奴らは何者なんだよ」

「あいつらはリューン一番の金持ち一族が雇った専門の訓練を受けた兵士。まぁ、いろいろあって狙われてる」

「それよりもお詫びと言ってもなんだけれど、俺の家に泊まらないか。泊まるところないんだろ」

「いいのかよ。助かるぜ、泊まるとこがなくて困ってたんだよ」

「まぁ、家って言っても使われていない物置小屋だけどな。眺めはいいぜ、案内する」


家は町から少し離れたところにあり、まるで秘密の通路のような道を駆け上がるとある。


ここにシエル一人で住んでいる。


小屋から見るリューンの眺めはとてもきれいだった。さらに町の光が海の水面に反射して水中にもう一つの町があるかのように映っていた。


「きれいだろ」


シエルは椅子に座り足を組んだ。


小屋は狭かったが二人が寝るのには十分な広さがあった。


ただし布団はないため農作業用の袋や藁を敷かなければならなかった。


カイは藁に飛び込んだ。


「それよりこの町にどうしてきたんだ」


そして二人はお互いのことについて話し始めた。


「実は冒険を始めたばっかでよ、この地図の場所に行くためにこの町に来たんだ。船で行こうと思ってさ」

「それならこの町は最適だな」

「それよりシエルはどうしてこんなところに住んでるの」


少し黙ってから話し始めた。


「とある人を探しててな、俺にとって大切な人なんだ。で、なんだかんだであいつらに追われてなかなかこの町から出られない。それでここに住んでる」


(大切な人か)


カイは天井を見ながら先ほど店主に言われた言葉を思い出した。


するときれいな音色が流れてきた。どこか懐かしくて、切なくて、落ち着く曲。


シエルが何か楽器を吹いている。


「その楽器は?」

「これはオカリナっていう楽器だ。それで、この曲はその大切な人が俺が小さいころに教えてくれた曲なんだ。夜になると毎回その人に届くといいなと思って吹いてんだ」

「とてもいい曲だよ」


カイはずっと言おうか迷っていたことを言ってみることにした。


「なあシエル、俺と一緒に冒険しないか」


シエルは一瞬驚いた顔をしたが落ち着いてこういった。


「俺と一緒に冒険したらあいつらに追われることになるぞ、いいのか」

「いいさ。その時はまた追い返せばいい。それに俺達強いし」


カイは笑顔で答えた。


シエルは少し考えて言った。


「冒険ていうのも面白そうだな、よろしく頼むぜ、冒険者さんよ」

「任せとけ」


そして二人は明日からの旅に備えてもう寝ることにした。



翌朝二人は船着き場に行った。そこにおいてある地図と見比べてみるとジエフの地図に描かれている場所はガイエンという町らしい。


二人はガイエン行きのチケットを買って船に乗りこんだ。



その様子を遠くの建物の陰から見ている者がいた。


「ターゲットが船乗り込みました。仲間も一名います。どうしますか」

「泳がせろ。奴はきっとこの場所に帰ってくる」


変声機を使っているのだろう。おかしな声が通信機越しに聞こえる。













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