シュレディンガーの???
初異世界転生ものです。よろしくお願いします。
A『...此処は...?』
?『気が付いたか』
A『っ!何だ、此処は何処なんだ!?何も見えないし
体も動かない!一体どうなってる!?』
?『フッ、教えてやろう。
此処は、お前の元いた世界とは別の世界だ。
A『別の...!?異世界...ということか!?』
?『そうとも言うな。フッ、ようやく気が付いたか』
A『という事は、成功したのか...本当に。アイツの
言った異世界転生する実験とやらが。...お前は何者だ?』
ジョーカー『フッ、俺の名はジョーカー。盗賊だ。
訳あってお前を拘束させてもらった。お前の身体が
動かないのはそのためだ。目も塞がせてもらったとも。
無駄な抵抗はするな。命が惜しくばな。フッ』
A『ジョーカー...!お前...!
...フッフフッフうるさいな。息上がってるんか?
ジョーカー『…は?』
A『…ハッ!...まさか、縛った俺で、興奮を...⁉︎
転生後の自分も分からない以上、俺が超絶美少女という
可能性も捨て切れない...!自分の身体も触れないし...
声も聞こえないし...!』
ジョーカー『誰がお前で興奮するか川に捨てるぞ。
お前の生殺与奪の権は俺が握っていることを忘れるなよ』
A『そんなのさておき、此処は何処なんだ?ジョーカー。
川って言ってたけど、屋外か?自然豊かなところなのか?』
ジョーカー『此処?あー、あーそうだ。此処は自然豊かな平原。近くには川、周囲には野原が広がり、
木々も幾らか生えている。そこに俺とお前の二人だけ。
助けを呼んでも、誰も来る事はない。あー…あと...
遠くに...城が見えるな』
A『マジかよ。ザ・異世界じゃねぇか』
ジョーカー『そうだ。お前に見せられないのが残念な
くらいの景色だよ。見えるか?この暖かな日差しが』
A『見えねぇ。お前に目ぇ塞がれたからな』
ジョーカー『聞こえるか?この川のせせらぎが』
A『聞こえねぇよ。ご丁寧に耳まで塞ぎやがって』
ジョーカー『感じるか?肌を滑る柔らかな風...』
A『...いや...?…感じねぇけど。流石に顔に風当たる感触くらいは分かる』
ジョーカー『ちっ、騙されねーか』
A『なんで騙す必要が...?
まあいいや。お前の目的は?何故俺を拘束する?』
ジョーカー『理由か。そんなの単純、金だよ』
A『いかにも賊らしい理由だな。身代金?売買?』
ジョーカー『あーそうだな...どっちかって言ったら身代金かな。そっちの方が稼げそうだし』
A『俺みたいな転生者の般ピーより、その辺の貴族攫った方がお金貰えると思うよ?俺さっきまで学生だったし、
普通の男子高校生だったし』
ジョーカー『ご謙遜を。それとも命乞いか?身代金目的で
攫われてる時点で、お前の身分と命にはそれ相応の価値があるんだよ。分かるだろ?勇者様』
A『勇者...!?それがこの世界での俺の身分なのか!?』
ジョーカー『あぁ、そうだとも。だからこそお前を
攫って……?…オイ、何だその顔、いや目隠しであんま
見えねぇけど』
A『...そういうタイプの転生かぁ...元からある程度地位
高い感じの...俺ゼロからやる派なんだけどなぁ...』
ジョーカー『なんで残念そうなの?勇者とか誰もが
羨むだろ。ていうかこの状況分かって...』
A『違ぇんだよ!分かってねぇな、ゼロからコツコツ
レベル上げて、装備揃えて、そんで強くなんだよ!
それこそ異世界ファンタジーの定番だろ!いや勿論元から強い俺TUEEEも好きだけど、でもやっぱり俺そっち派じゃないっていうか...』
ジョーカー『急にめっちゃ喋んなや、ウザいオタクか?
…とにかく、お前を使って貴族、民どもから金をたらふく奪う。それが無理だったらプランBだ。お前の身包みを
剥げば多少の儲けにはなるだろう』
A『初っ端からハードな展開だなぁ。さっきお前が言ってた遠くの城のとこで?』
ジョーカー『あー...いや、そっから逃げてきたんだ。売るなら隣の国だよ』
A『そっか。じゃあまだ猶予あるな』
ジョーカー『落ち着きすぎだろ。俺暗殺者だぞ?いつでもお前を殺れるんだぞ?』
A『...お前さっき盗賊って言ってなかった?』
ジョーカー『...…二足の草鞋ってやつだよ。
安定しないの、両方』
A『でしょうね、もっと職選べや』
ジョーカー『よし川流しの時間だ。ひと足先に隣の国で
待っててくれ』
A『おい待て運ぶな早まるな。旅の仲間は多い方が楽しいだろ?』
ジョーカー『だってお前お荷物だもん、色んな意味で。
荷物は別個で目的地に送った方が楽』
A『完全に物扱いじゃねぇか泣くぞ』
○
A『なぁ、お前賊じゃねぇだろ』
ジョーカー『あ?んだ急に』
A『さっきから隣の国向かう向かう言って、全然動かねぇじゃん。流石に疲れたんだけど』
ジョーカー『拘束されて寝て喋ってるだけで何が
疲れただ。
...それにお前の知らないところではもう既に移動して...』
A『拘束されて寝て喋ってんのが疲れたって言ってんだよ。あと移動してねぇだろ。
運ばれた感じひとっつもしねぇぞ』
ジョーカー『...乗り物で運んでんだよ』
A『そんなら少しくらい揺れるだろ』
ジョーカー『...仮に、お前が言った通り移動してなかったとして、それと俺が賊じゃないって事は結び付かないだろ』
A『…いや…なんか...敵意を感じないというか...
そもそもこうやって喋ってるし、掛け合いに謎の安心感が...』
ジョーカー『なんだそりゃ。敵意って、別にお前を殺す気はねぇよ。目的は金だっつったろ?
俺は盗賊と暗殺者の二足の草鞋で生きているジョーカーで…』
A『その口上みたいのなんなの...というか賊とか暗殺者だってのは嘘なんだろって聞いてんの』
ジョーカー『...なんでそう思う?』
A『なんとなくだよ。敵意無さそうってのもそうだし。
勇者を攫ってるのに落ち着き過ぎってのもそうだ』
ジョーカー『そりゃこちとら長いこと盗賊やってる身だからな。どんな相手でも落ち着いてだなぁ...』
A『あとお前、多分今いる場所も嘘じゃないか?
平原だって言ったのも嘘だろ?』
ジョーカー『…なんだと?』
A『お前は身分だけじゃなく、今俺たちがいる場所も
偽ってるんじゃ無いかなって思ってね』
ジョーカー『...ほう?では何処だと?』
A『いや詳しくは分からんよ。誰かさんのせいで何も見えないし聞こえないし動けないからな。
でも、それでも分かる事はある。
目を覆われていようが、薄い光は感じられるはずだ。
お前はここに日が差していると言っていたしな。
此処は薄い光すら感じない。そんなことあるか?』
ジョーカー『日陰、夜、色々あるだろ。微かな光にしろ、
何重にも目を覆えば別に分からないだろ』
A『あと、近くに川があるんだろう?人間一人流せるくらい流れの速い川。流石に耳塞がれてても音少しくらいすると思うんだよ』
ジョーカー『何重にも塞げば聞こえない。さっきも言ったろ?川は…大して流れは早くないよ。
ここから距離も多少離れているしな。お前を流しても、
国に着く前に凍えて死ぬだろうな。はは。
...それで?それだけか?』
A『そして何より、此処は随分と埃っぽいな?』
ジョーカー『…は?』
A『さすがに鼻までは塞がないよな。おそらくここは
平原なんかじゃない。詳しくは分からないけど、予想としては屋内かな。それなら日が当たらないのも、何の音もしないのも、風が当たらないのも納得できるから』
ジョーカー『…』
A『お前が嘘ついてるって思って…考えてて、シュレディンガーの猫ってのを思い出したよ。箱の中を認識するまでは、見るまでは、中身がどんな状態か分からないってヤツ。
俺はまだ、箱の中身を…外界を、状況を
認識出来ていない。
だから箱の中身の状態をお前に教えられようと、それが嘘でも本当でも、俺は否定できない。知らないからな。
お前は猫が死んでるって言うけど、俺が実際見たら
生きてるかもしんねぇだろ?』
ジョーカー『…』
A『なぁジョーカー。いや、こんな嘘ばっかなら、お前の名前も嘘で、違うのかな。
俺はここに来て、何も知らんまま速攻で捕まって、
そんで今、身の回りのことなんにも分かんないんだよ。
バカだろ?
頼む。このバカな転生者に教えてくれないか?
此処は何処だ?本当は、お前は誰なんだ?』
ジョーカー『...はぁ
…教える必要なんて無い』
A『…は?』
ジョーカー『そうだ。正解だよ。
俺は嘘をついて、お前を騙してた。
今いる場所も、俺の名前も、何もかも全部』
A『やっぱりか…なんでそんなことを...?』
?『…嘘をつくのは知られたくないことがあるからだよ。
大体そんなもんだろ?』
A『…?』
?『お前の予想は当たりだよ。ここが平原であるってのは嘘だ。お前の予想通りここは屋内、詳しく言えば、ただの埃に塗れたボロ小屋だ』
A『…』
?『もっと言えば、お前をどうこうして金を得ようと
してるってのも嘘だ。俺はそこまで金に困っちゃいない』
A『やっぱりお前は賊じゃないんだな、お前は一体…?』
?『…この際だ、もう全部ぶちまけちまってもいいかな。
…そんじゃあ…コホン。
お初にお目に掛かる…あー...と言ってもお前には
見えないんだが…
私の名はジャック。この王国…今滅びつつある場所、
このユーカー王国の十一代目勇者だ』
A『…え……はぁ?!』
ジャック『やぁ。転生者よ』
◯
A『…勇者…?ていうか滅びつつあるっつったか…?どういう…』
ジャック『あぁ、まさに今、滅びつつある。折角だ、教えてやろう。
…数日前、平和だったこの王国に、突然軍が進撃してきた』
A『軍…異世界なら、魔王の使わした魔物の軍勢って
とこか?…』
ジャック『魔王の軍勢ってのは間違いじゃないが、事態はお前が思ってるよりも、そして私が思っていたよりも深刻だった。
私も驚いたよ、親密だった隣の王国、ポッヘン王国の人間が攻めてきたものだから』
A『…はぁ…?そんなの…ただの…』
ジャック『あぁ、そんなのただの戦争、だったらまだ単純だったのかもな』
A『いや…戦争以上に複雑なものも無いと思うが』
ジャック『…そうだな。でも、それでもあまりにも
不可解な事があった。その人間達が闇の魔法を用いて
攻撃して来たんだ』
A『…?…闇魔導士みたいなことか?』
ジャック『…?…あぁ…すまない、転生者のお前には少々
分かりにくいか。
簡潔に言えば、本来魔王軍が使う魔法ってことだよ』
A『…魔王のとこの魔法を、人間が…?』
ジャック『闇魔法が何かを説明しなきゃな…
闇魔法は、ただの人間が使うには、体力の消費、力の調整がとても難しいものだ。使うとしても闇魔法そのものを研究するため、くらいなもので、戦いに運用する事はまず無い。使い手を蝕む程に、あまりにも強力過ぎる為にな。
そもそも闇魔法は魔物によって生み出された魔法。対人間に対し強い効果を発揮するものだ。対人間用の魔法なんて平和な世界で使われるはずは無いし、使うことなんてあってはならない。当たり前だが使用は禁じられてる』
A『……?…難しいとはいえ、使えはするんだろ?そんなら数人くらい居ても…』
ジャック『一人や二人なら、私も偶然で済ませたよ。実際、使う人間が絶対に居ない訳じゃ無いだろうしな。
でも、王国各地で戦闘を行った兵団からの報告により、
ほぼ全ての戦場で闇魔法の使用が確認された。
報告からざっと推定して、大体相手の軍の三分の一以上は使用者が居ると考えられる。異常だ』
A『対人間用って…ましてや命削ってまで…?この国…
何か、その国に恨まれるようなことしたのか?』
ジャック『…この異常な進撃の正体、
現状考えられる可能性は三つ。
一つはお前の言ったように、こちらに対する恨みによる
もの。
まぁ…これはおそらく無いだろう。このユーカー王国と
ポッヘン王国は代々仲が良く、同盟も結んでいた。俺にも良くしてもらっていたよ。彼らがこんな急に裏切る理由はない筈だ。此方側にも心当たりは無い。
ましてやここまでの殲滅の策を弄してくるとは、正直気味が悪い。
二つ目は人間に化けた魔物による進撃であるということ。
人間を毛嫌いする魔物共のことだ、前触れ無く唐突に攻めてきてもおかしくはないし、このような趣味の悪い策を用いてきても何ら不思議ではない。
しかし、これも無いだろう。人間に容姿の似た魔族の存在はあるが、人間そのものに化ける魔物は前例が無い。その上、王国の民に化けるなら、事前に民たちに多少干渉しておく必要があるだろう。そんな兆候は一切見られなかったし、あったとしても、事が起こる前にこの王国が救援に
行っている筈だろう。
そして三つ目。どれも酷い仮定だがこれが一番最悪だな。
三、既に隣の王国は魔物共の手中であった。
A『…は?』
ジャック『あくまで可能性の話ではあるが、今の我々にはこの説を否定する術は無い。その為、三つの理由の中で
一番有力な説だ。納得がいってしまうのだ。残念ながら。
何故隣の国が我々を裏切った?何故なんの兆候も無かった?何故魔物しか使わないような闇の魔法を使う?
これら全てを片付けられる理由がこれだ。
国は随分前に既に落ちていて、此方側との友好関係も
偽装していた。決して此方に悟られぬよう、細心の注意を払い、水面下で計画を進めていたのだろう。
もしもそうなら、我が国はまんまと計画に嵌まり、多くの国民、兵士達、友であったポッヘン王国の人々も救えずに
失った、という訳だ』
A『そんな…お前勇者なんだろ?何とか出来ないのか?』
ジャック『…確かに、代々勇者には闇の魔法に対抗し得る
光の力がある。魔物に対し絶大な効果を発揮する力だ』
A『…じゃあそれで何とか…!』
ジャック『魔物にだ。さっき言っただろ、
相手は人間だと』
A『あ…』
ジャック『それに、狡猾な魔物共が唯一の危険因子である
私の存在を危惧しない訳がなかった。
これも三つ目の仮定を裏付ける証拠になるが、彼らは私と交戦する事を極端なまでに避けていた。
きっと今回のこの進撃の目的は、この国を陥落させる為の先制攻撃。前哨戦。勇者以外の戦力を削ぎ落とすことを目的としたものだったのだろう。
A『…それで…どれだけ消耗したんだ?』
ジャック『…交戦を行なった兵団はほぼ壊滅。民達も半数近くが重症及び死傷。そして王族の姫と王子が戦いに巻き込まれ行方不明。深手を負いつつも生存した国王は、
生き残りの人員を集め、民、姫と王子の捜索、国民達の
避難誘導に追われている』
A『…お前…そんな状況で何してんだよ…?
俺なんか構ってないで、せめて助けに行けよ!
勇者なんだろ?勇者は世界を救うもんだろ!?
お前が動かなきゃそれこそ、もうこの国は…本当に
絶望的だろ…?!』
ジャック『あぁ。絶望的だな。もう詰みってやつだ』
A『諦めんなよ!何でそんな…』
ジャック『三つ目の可能性が最悪な理由。まだ最後まで
話して無かったな、これは今調査隊を送って調べている最中の為確定では無いんだが。
この国は随分と他国から離れた位置にあるんだ。それこそ周囲には、攻めてきた隣の国以外何も無い。まさに平原が広がる田舎も田舎の国だ』
A『…じゃあ何だ、他国から救援を呼ぶにも時間がかかると?』
ジャック『孤立無援、という意味なら正解だな。
我が国は他国から遠く離れているが故に、唯一の隣国、ポッヘン王国との友好関係を大事にしてきた。互いに協力し、資源を分け合い、周囲の国の情報を集めていたんだ。
それでもまぁ、伝わりは遅いものだったが。
ポッヘン王国がいつから陥落していたかは分からないが、
魔王の手にあった以上、今までそこから得ていた情報は全て偽りと判断したほうが良いだろう』
A『…つまり…どういうことだ?』
ジャック『その情報が偽りなら…
我々が今まで謳歌していた平和も偽りだというのなら…
考えられてしまうのだ。そもそもポッヘンが
落ちた段階で、もしかしたらと思っていたんだ。もし…
魔王の手に落ちたのがポッヘンだけでは無いのなら?
その他の国も、魔王の手に落ちているのなら?』
A『…それは…まだ、調べてる最中なんだろ…?
実際そうと決まった訳じゃ…』
ジャック『もしそうならば…本当に絶望的だ。詰みってやつだな。
もしかしたら、ポッヘンが落ちたことで、魔王は手札を全て揃えてしまったのかも知れないな。
この国を滅ぼすための、それによって、勇者を完全に
殺すための手札を。
おそらく次は、魔王の手に落ちた世界中の国が、この国に攻めてくるだろう。魔王の配下である魔物達も含めた、
全兵力がな』
A『…』
ジャック『世界を救うのが勇者だと、お前は言ったな。
私が救える世界など、もうとっくに無かったんだ。
私が…俺が救う前に、とっくに世界は滅びてたんだよ』
◯
A『…もう、本当に何も無いのか?』
ジャック『…何がだ』
A『…何が策は…状況を変えるような何かは…?』
ジャック『世界中が敵かも知れないこの状況でか?
今出せる策なんて、逃げるか死ぬかだよ』
A『…本当なのか…?…まだ何か切り札を残していないのか?…嘘ばっか吐いてたお前のことだ。せめて少しでも
良い方向に向かえるような、考えがあるのだろう?』
ジャック『…いや、無い。そんなもの』
A『何でもいい!早く言え!』
ジャック『無いと言っているんだ。世界中を相手に
立ち向かえるような…そんな策なんて無い。もう…逃げるかここで死ぬしか無いんだよ…!』
A『そんな…本当に……
……?
…逃げられる…のか…?
逃げるための策なら…あるのか?
世界中を敵にしても、逃げ切れるような策が…?』
ジャック『…!』
A『もうそれでも良い!教えろ!』
ジャック『本当に…ただ逃げるだけだぞ?それだけの、
そんな、策とも呼べないような…』
A『いいから教えろ!何もしないよりマシだろ!』
ジャック『本当に穴だらけの策だ。民の安全も完全に保証される訳じゃ無い』
A『教えろって言ってんだ!』
ジャック『こんな策を聞いて、お前がどう思うか。
失望するだろう。俺を許せなくなるかも知れな…』
A『いいから早く言え!』
ジャック『……本当に良いのか?』
A『構うもんか。俺がどう思うかなんて知ったこっちゃねぇし関係ねぇだろ。ここでウジウジしてるくらいならどんな作戦でも実行したほうがマシだ。ビビってんじゃねぇ。お前の計画なら信用する。きっと良い方向に傾くはずだ』
ジャック『…どうしてそこまで…』
A『知らん。勘だ。なんとなくだ。』
ジャック『……わかった。言う…
お前の期待には沿えないだろうがな…
この策を実行すれば、おそらくこの国は一時的に
安全になるだろう。その後のことは分からない。
あくまで国の延命、処刑の先送りに過ぎん。
…勇者の命と引き換えに、民たちは助けてくれと、
魔王に懇願する。ただそれだけだ』
A『…』
ジャック『…お前もきっと分かっていたな。彼らの目的は勇者を殺し、二度とこの世界に誕生せぬように
根絶すること。それさえ達成すれば、国の一つなど
どうでも良くなるだろう。
進撃の目標も、容易く勇者を殺せるように戦力を取り除き地盤を固めることだ。今回人間を用いて攻撃してきたのも
勇者は人間を相手にすることが出来ない、ということを
知ってのことだろう。
情けない話だが、俺は人を斬ったことはない。
勇者は魔物を退治し、人々に平和を与えるだけの
存在だからな。人殺しはその本分に反する。
明確に奴らは、勇者に対する策を練って来ているんだよ。
彼らの最終目標である勇者の命。それを差し出せば
争う理由は無くなる。ただそれだけだ。簡単だろ?』
A『…なるほどな』
ジャック『民達は魔王に支配されてしまうかも知れないが、死ぬよりはマシだろう』
A『…それしかないのか?』
ジャック『あぁ。これ以上は思い付かなかった』
A『……』
ジャック『お前一人くらいなら逃すことが出来る。転生者だ。この諍いとは無関係だしな。世界に狙われている俺はもう逃げられない。ここで国と心中するつもりだよ』
A『逃げるための策って、俺がってことか』
ジャック『あぁ…言葉足らずだったな。改めて言おうか。
お前に残された選択肢は…二つ
俺と共にこの国で死ぬか、お前だけでも逃げるか。
…俺のオススメは後者だよ』
A『………
拘束を解け、ジャック』
ジャック『…そりゃそうだな。良い判断だ。待ってろ…』
A『違うよ、三つ目だ』
ジャック『…は?』
A『三つ目の選択肢だ、俺もお前と残って戦う』
◯
ジャック『…お前…おかしくなったのか?何を馬鹿なことを言って…』
A『ずっと考えてたんだ。俺は何でここに来たのか。何でここに転生してきたのか。きっとこの状況を打開する
為なんだよ』
ジャック『…それは…』
A『いや、そりゃ勿論難しいだろうよ。いきなり世界を
相手なんてハードが過ぎる。勝ち目なんて無いだろうよ。
でも、やってみなきゃ分かんないだろ?』
ジャック『…』
A『きっと何とか出来るんじゃねぇかな。転生者には
何かしらチート付与されてるもんだし』
ジャック『…無理だ』
A『…やって見なきゃ分かんないだろっての。
俺とお前のコンビ、上手くやっていけると思うぜ?
さっきまで熟年夫婦の如きやりとりをしてたからな』
ジャック『…出来っこ無い』
A『出来ねぇって言ったって、やらないよりマシだろ?
良いじゃん、どうせ死ぬなら玉砕覚悟で突っ込もうぜ。
もしかしたら俺の秘めたる才能が目覚めるかもしれんぞ』
ジャック『…もういい』
A『なぁ頼むぜジャックよぉ。せっかくなら俺に
異世界ファンタジーさせてくれよぉ。なんかお前他人には思えねぇのよ。古くからの友人っつうか?生き別れの兄弟っつうか?なんかそういう気を感じるというか…』
ジャック『黙ってくれ!もういい!もう十分だ!』
A『…え、なに急に、怖…
え…お前…まさか泣いてる…?』
ジャック『もういい加減…勘弁してくれ…うんざりだ…
もう…許してくれ…』
A『は…え…すまん…励まそうとしただけっていうか…
いや…だってすげぇネガティブしてたし、ちょっと
ふざけただけっていうか…
……でも!お前と残って戦いたいってのは本音よ?!
お前いい奴そうだし…お前残して俺だけ逃げるってのも
気ぃ引けるし…』
ジャック『……くそ……話し過ぎたんだな……』
A『大丈夫だって!足手纏いにはなら……
なる…かもしんねぇけど、何とかなるって!異世界転生者は何らかの特殊能力に恵まれるっていうテンプレで…』
ジャック『無いんだよ!そんなもの!そんなもんがあるなら俺が知らないはずない!こんなクソみたいな状況になっちゃいないんだ!』
A『…えぇ…そんなキレなくてもいいじゃんよ』
ジャック『…もういい。全部ブチ撒けてやる。
どうせ死ぬんだもんな。
いいか、お前には特殊な才能なんざただの一個もねぇ。
ただの一般人。むしろ平均以下だ。
そんなお前に俺が逃してやるって言ってんだ!
俺の気が変わらない内に受け入れろってんだよ!!』
A『…はぁ…?何だ急にディスりやがって…泣くぞ?
そもそもお前に分かるのかよ?俺の能力とか、
才能とかよぉ?そういうの、転生させてきた
神的な奴にしか分からんと思うんだけど…』
ジャック『…分かるんだよ。お前がどんなに能無しかってことくらいな。俺がその神的な奴だからな…』
A『ぇ…能無しって言われた…泣いた…。
ていうか、今なんて……?』
ジャック『能無しのお前のために簡単に言ってやろうか?
お前を此処に転生させたのは俺だ』
◯
ジャック『勇者を継ぐものには代々、ある能力が
授けられる。それが、異世界から転生者という形で
人間を一人だけ呼び出す能力。勇者の資格、
魔物に対抗し得る光の力を持つものを途切れさせない為に賜られた能力だ。
俺はそれを使い、お前を呼び出した』
A『…はぁ…?どういうことだ…?』
ジャック『そのままの意味だよ。
お前を転生させたのは俺。お前の転生に世界を救うような大義名分は無いし、それを可能にするような力も
有りはしない。そんな奇跡のようなこと、
過去の転生者達からも、今まで確認されてない』
A『…じゃあなんで、俺を呼んだ。
呼んだところで、それで状況が変わる訳でも無い。そんな力も無い。それが分かっていて、なんで?』
ジャック『……』
A『なんか言えよ、なぜ?』
ジャック『……』
A『答えろよ!』
ジャック『……
…逃げるためだ』
A『…逃げる…ため?』
ジャック『……俺は命が惜しい。死にたくない。国の為、民の為、魔王に命を差し出して死ぬなんてこと俺には到底無理だ。かと言って、それを打ち払える程の力なんて
持っちゃいない。その上、この場から逃げたとしても、
世界中が敵かも知れないこの状況で、そんな地獄で、俺が
生き残れる確証も無い』
A『…』
ジャック『…まして、俺が勇者である以上、魔王との因縁から逃れることなんて出来ないんだ。勇者の存在そのものが魔王や魔物達からすれば危険因子で目障りだからな。
この世界の何処へ逃げようと、彼らは血眼で俺のことを
探すだろう……そしていつかは殺される。
俺が…勇者である以上はな』
A『……なるほど』
ジャック『…もう分かったろ?
…俺は勇者としての資格をお前に譲渡し、自分から資格を消すことを考えついた。ついでに身分を盗賊とでも偽って魔王にお前を突き出し、助かろうとしてたんだよ。
盗賊くらいの身分なら、勇者を敵視していても不思議では無いし、魔王も勇者を差し出した者をわざわざ殺すとは
考え難い。
お前は…ただ俺の身代わりにされるため、転生させられたって訳だ』
A『…』
ジャック『悪いな、哀れな転生者よ。お前はどちらかといえば、訳も分からぬまま箱に詰められ、
毒を吸わされる猫側だ』
A『……
……なんで、それを教えた?』
ジャック『お前に選んでもらおうと思ってな』
A『…さっきの、逃げるか死ぬか…ってやつか?』
ジャック『そうだ。お前はまだ、
この地獄のような世界から逃げることが出来る。
俺はお前に勇者の資格を既に譲渡した訳じゃない。お前が望むのなら、この異世界から元いた世界へ帰還することも可能だ。ただの転生者など、いても邪魔なだけだからな』
A『!!』
ジャック『…まあ、俺がそれを許可すればの話だが』
A『……』
ジャック『…さあ、もう嘘は無い。これが本当の二択だ。
お前が選べる道は二つ。
俺の代わりに死んで、俺を救うか。
お前が逃げて、俺が死ぬか。
どうする?』
A『……
…お前は、死にたくないんだな?』
ジャック『あぁ、勿論。そもそも進んで死にたい奴なんていないだろ』
A『…だから、俺に死んでくれと?』
ジャック『あぁ。そうだ』
A『…俺だって死にたかねぇよ』
ジャック『だろうな。だからもう一つ示したろ?』
A『…現世に、今なら帰れるってやつか?
でも…その権限はお前が握ってるんだろ?』
ジャック『…出来る限り、お前の選択を尊重してやるよ
嫌だってんなら、逃してやる』
A『……分からないな。
本当に、なんでそれを教えた?』
ジャック『…』
A『そんなの教えず、勇者の資格だけ譲渡して
魔王に突き出しゃ良かったんじゃ無いのか?
俺が何も知らない内に』
ジャック『…何でだろうな』
A『…?』
ジャック『…分からん。俺にも分からないんだ。お前にも分かるはず無いよ』
A『……』
ジャック『…さぁ、さっさと選べ。
一、お前が死んで、俺は生きる。
二、お前が逃げて、俺は死ぬ
どっちだ?』
A『…そんなの、決まってるだろ。
どっちもお断りだ』
◯
ジャック『は?』
A『いや、どっちも嫌だよ。
俺だって死にたくないし、お前にも死んで欲しくない』
ジャック『…それを叶えられないから、今こうしてるんだろ?
…それとも何か考えが?』
A『………いや、無いけど』
ジャック『…お前な…本当…マジで…
…というか、お前を身代わりにしようとした奴を
庇うのか?死んで欲しくないって…恨まないのかよ?』
A『…や…分かんないけど、お前多分悪い奴じゃ無い
だろ?逃してくれようとするし。だからなんか…やっぱり
死なないで欲しい』
ジャック『…』
A『…んー…何とかならないのか?…一旦生き残り連れて逃げて、魔物の手に落ちてない人間探すとか…そんでちょっとずつ相手の戦力削るとか…?』
ジャック『……もう詰んでるって言わなかったか?俺』
A『うん言った。でも…多分なんかあるだろ。勝つ方法』
ジャック『…何か』
A『とりあえず、なんかやってみようぜ。
腹切りするより、腹括れってやつよ。
…?そんな言葉あるっけ?』
ジャック『………
……ねぇよ、
……そんな言葉』
A『…おぅ…そうか。まぁ…そんな侍みたいな…』
ジャック『…フッ、フハハハッ!!!』
A『?!どうしたお前!?急に怖?!』
ジャック『そうだな!もう知らん!やるだけやろうか!』
A『えぇ…?え…えー……
………
…まあ、元気出たなら良いや…』
ジャック『フッ、感謝するぞ転生者よ!』
A『あ、戻った。口調』
ジャック『…あぁ。もう平気だ、多分。
覚悟が決まった、という訳では無いが、少し吹っ切れた。お前のおかげだ』
A『そっか。良かった』
ジャック『そうだな…じゃあお前も、元の世界に返してやろう。ここからは俺の仕事だからな。一般転生者は邪魔なだけだからな!
…巻き込んでしまって悪かった』
A『この野郎ッ……!……はぁ……まぁ良いよ…別に…
…あ、そうだ。最後に目隠しだけ取ってくれよ。
帰る前に異世界の景色を見てみたいし』
ジャック『…いや、それは出来ないな』
A『えぇダメなのかよ。結局一度も異世界のもの見れて
ねぇんだけど』
ジャック『…今のこの景色を、こんな景色を、
お前に見せる訳にはいかないからな』
A『あぁ…そっか』
ジャック『その代わり約束しよう。次にお前が此処へ
来たときには、お前の望む異世界ファンタジーとやらを
体験させてやるよ。
…悪くないだろ?』
A『…なるほどねぇ…
まぁ…良いか、それで』
ジャック『ありがとう。
では、そろそろお前を送り返す』
A『…分かったよ』
……
A『…なぁ、ジャック。一つ気になったんだが』
ジャック『…何だ?』
A『俺とお前って、どこかで会ったことあったっけ?』
ジャック『…』
A『…何か、気になったというか。前も言ったけど
やり取りに安心感が…というか』
ジャック『…フッ、此処は異世界で、俺はこの世界の勇者で、お前は別世界からの転生者だぞ?』
A『…そうだよなぁ。気のせいか…?』
ジャック『…まぁ、そういう事も、あるかもしれんがな』
…
A『———』
ジャック『…もうそろそろだな』
A『…———』
ジャック『…なぁ、…茜』
A『…!』
ジャック『もしも俺がこの先、魔王に勝って、生き残ったら、
この世界で、異世界ファンタジーしようぜ?』
◯
………
?『あ、帰ってきましたね』
A『………
え、何?』
?『今見てもらったのが、貴方がこれから行くことになる異世界です』
A『???』
?『いやー困りましたよ?だって貴方、『どんな異世界に飛ばされるか不安だから、チラッと見せてくんない?』
とか言うもんですから。
そんな無理難題を叶えるこっちの身にもなって…
…て、あれ。どうしました?』
A『……此処どこ?お前誰よ?』
?『え、どこって天界ですけど』
A『…え、天界ってどこ』
?『…ここ』
A『え、此処どこ』
?『天界』
A『……』
?『……?』
A『……なるほど
夢か』
?『いいえ、現実です。試しにほっぺたつねってみたらどうです?』
A『………
まだ体動かないんだけど』
?『ははっ。でしょうね。動かす体ありませんし』
A『……はい?』
?『…え、いやだって…ここ天界ですよ?』
A『…はい…?』
?『天界って、死んだ人が来るとこですよ?』
A『…え、じゃあ何。俺死んだの?』
?『つまり?』
A『つまりって何…?
じゃあ俺幽霊?魂的な?』
?『いぐざくとりー』
A『やかましいわ』
……
A『…つまり俺は、
現実世界で、異世界転生の方法を試して、ここにいると?
で、何も見えない、聞こえないのは魂だけだからってことで良いの?』
?『…多分…そう言う事ですかねぇ…』
A『…いや全然全く意味分からん。どういうこと?』
?『いや私が聞きたいですけど?何ですか異世界転生の方法って、意味分かんない。そんなんどうせどっかのガセネタでしょうよ。そんなん小学生でも信じませんよ。
そんであんたそんなアホみたいなネタ信じて試して、ましてそれでここ来てんだから成功してやがるじゃないですか異例中の異例なんですけど?ほんと何やってんのマジで』
A『…結果的に魂だけになってんだし成功とは言えないのでは?』
?『そんなん知らねぇっすよ。天界=異世界みたいなもんなんだから実質成功でしょ』
A『いやでも魂だけ転生したせいで異世界行っても
何も出来なかったもん。何も見えんし聞こえんし動けんし一つも楽しめなかったんだが?』
?『そんなちょっとテーマパークにお出かけみたいなテンションで異世界に行こうとしないで下さい。現に魂だけってことは死んでんじゃないすか。そんなお出かけテンションで命投げんで下さい。暇ならその辺のショッピングモールとかゲーセンとかでも行けば良かったじゃないですか』
A『めっちゃ怒るじゃんごめんて。
ていうか俺耳聞こえないはずなんだけど何でお前の声聞こえてんの?』
?『いやそれはもう、脳内に直接ってやつですよ』
A『…あとなんか…帰って来て今だに埃臭いんだけど』
?『それは…まぁ…
掃除サボってるからじゃ…ないかな』
A『急に現実に引き戻すな』
……
?『…で、どうします?』
A『…何が?』
?『さっき行った異世界。そのまま居ますか?』
A『……
…いや、いいかな』
?『あら。良いんですか?』
A『…まぁ良いや。何か、帰りたくなった』
?『自分から来といて何を言っとるんすか』
A『あの、一個聞きたいんだけど
アイツ、あの後どうなったの?』
?『あいつ……あぁ、あの世界の勇者ですか?』
A『…無事なのか?』
?『……
………さぁ…どうでしょう……』
A『知らねぇのかよ…』
?『私にも分かりかねます。
…まあ、彼なら大丈夫だと思いますよ?
実際に会ったことのある貴方なら、よく分かるのでは?』
A『……そうかな』
?『さて、帰還の準備、できましたよ。戻ります?』
A『…そうだな。帰るか』
?『はい。とっとと帰ってください。そしてもう二度と不正で入り込もうとしないで下さい?本当に今回が特例なんですからね?普通帰れないんですよ?』
A『はいはい…分かったから…
…あ、あと、最後に一ついいか?』
?『はぁ…?
……最後ですよ?』
A『アイツって…ジャックって、
あっちの世界に転生したやつなのか?』
?『………さぁ……どうでしょう……』
A『これも分かんねぇのかよ…』
?『ふっ、分かりますが、貴方には教えません』
A『はぁ…?なんで…?』
?『それはまぁ…
神のみぞ知るってやつですよ』
◯
社『異世界転生に成功した。体育館倉庫に来い』
……え?
……は?
koki『え、やだ』
社からのこんな奇天烈なメールに気が付いたのは、ついさっきのことである。
現在、放課後16時。高校生としての1日の責務を終わらせ
僕、金田幸樹(16)は帰路につくところだったのだが…
……
…異世界転生に成功って何。どういう事。
なんで体育倉庫呼ぶの?何、ラブコメ?
体育館の倉庫から異世界に行ったの?は?
何で異世界からこっちにメール出来てんの?
などと、色々ツッコみたい文章ではあるが、
おそらく大した意味は無いのだろう。
で、僕は倉庫に行かなきゃいけないのか?
…いや、めんどくさ……
…もう帰りたいんだけど。
そもそも、僕がこんな適当なメールで社に呼び出されたのはこれが初めてじゃない。
その度に、面倒ごとを押し付けられたり、おかしな予定に付き合わされたり…と、色々あったのだ。
多分今回だって、めんどいから掃除手伝えやら、赤城誘ってゲーセン行こうやら釣りに行こうやらそんな事を言われるのだろう。やだ。僕お家帰りたい。
…しかし、成功したっていう異世界転生の方法…?って
なんだ?
詳しくは僕も知らないが、思い当たる方法というと、
決まった手順でエレベーターのボタンを押すとか、一定の時間帯、決まった角度で神社の鳥居を潜るとか、深夜路地を歩いていると突然…とか、まぁそんなところだろうか?
でも、この学校にエレベーターは無いし、鳥居があるような神社も多分学校の近くには無い。路地はあるだろうけど今16時だし、そもそもこれでは体育倉庫に呼び出す意味が分からん。
ましてや、僕はそんな方法で異世界に行けると信じてなどいない。ガセだろ多分。
あと何だ…ラノベ的なのだとトラックに轢かれるとか?
あと、雷に打たれて…とか…?
…いや、死ぬじゃん。流石に異世界より命だろ。
そんなんで死んだところで行ける世界とか天国か地獄か
虚無空間みたいなもんじゃ無いの。流石にあいつそこまで馬鹿じゃ無いだろ。
……
社『異世界転生に成功した。体育倉庫に来い』
koki『え、やだ』
…
……まだ既読つかないな。
……あいつ返信早いはずなんだけど…
いやまあついさっき気付いたばっかりだし、あっちも気付いてない可能性もあるが、
まさかマジで、自分の命を危険に晒す、もしくは死ぬことで異世界転生出来る、とか思い込んで、やってないよな?
輪廻転生信じ過ぎだろ?
そんなに現世のこと嫌いか?
あいつそんな思い詰めてたっけ?
…確かにあいつ友達赤城と僕(含めるのは癪だが)くらい
しかいないし、物静かなヤツだし、学校でもそこそこ孤立してるけども。…改めてよく考えたらあいつあんま自分のこと話さないし、隠してるだけで…もしかしたらなんか…
悩んでたりすんのか…?
…………
…いや、帰ろう。
どうせめんどくさい事に巻き込まれるに決まってる。
それなら帰りたい。
帰って録り溜めたアニメを見たい。
別に僕あいつの事とかどうでも良いし。
心配だとか全然無いし。
よし帰ろう。
すぐ帰ろう
真っ直ぐ帰ろう
とりあえず帰り際に体育倉庫だけ寄って帰ろう。
………
『...はぁ...』
…一人で何やってんだ僕は。
○
到着してしまった。
体育館倉庫。
ここに、社がいる…のか?
メール通りなら異世界転生している?のか?
いやそもそも異世界転生なんてフィクションだろ?
それにもし、この中で何か、大変なことが起きていたら…いや、無いとは思うけど…
……
………
…………分からん……
『はぁ……』
一度不安になると、頭の中でその考えが振り払えなくなる僕の悪い癖だ。
もういい。余計な事考えるのはやめよう。
見てしまえば、全部わかるんだ。
箱の中身を見れば、わかる。
悪い予想が外れることを祈りながら、
僕は、倉庫の戸を引いた。
◯
?『納得いかねぇ!』
?『え、何が』
?『何もかもだわ!』
?『いや、悪く無かったしょ。昨日漬けの力作よ?』
?『いーやダメだね。気に入らん。そしてお前とはあんま趣味が合わんってこともよーくわかった』
?『いやまぁ、これを提案したのは俺だが乗っかったのはお前だし…それになんだかんだお前も、天才か…とか
そんなん言ってノリノリだったじゃん…
……あら?』
幸樹『……なにこれ』
?『おっ来た。幸樹』
?『え、金田来てんの?何で?
あっ…蛇目!お前呼んだか!?』
蛇目社『いやぁコイツ写メって送ろうと思ってたけど、
ま、せっかくだから呼んだ方がおもろいなーと』
?『やめろぉ!金田、良かった!
俺を助けに来てくれたんだな!さぁ早く俺の拘束等その他諸々を解いてくれ!』
幸樹『…社、聞きたいんだけど』
社『許可しよう』 ?『え無視?まじ?』
幸樹『うざ。で…何で赤城、体育のマットで簀巻きにされてんの?』
社『身動きが取れないようにだよ』
幸樹『……何で目隠し付けてんの?』
社『目が見えないようにだよ』
幸樹『………何でワイヤレスのイヤホン付けてんの?』
社『耳が聞こえないようにだよ……
…何だこの問答、赤ずきんちゃんか?』
幸樹『社…まさかお前にこんな趣味があったなんてな…』
社『おい待てその判断は早計だ』
幸樹『大丈夫だ…お前がどんな趣味を持ってても、きっと受け入れてくれる奴がいるから…』
社『お前は受け入れてくれないのね。哀れみの目やめて?
あと、さっきからスマホで簀巻きの茜を6枚くらい
撮影してるお前に趣味どうこう言われたくない。誤解だ』
赤城茜『うんあの聞き捨てならない発言聞こえたけど?』
幸樹『…とりあえず、赤城のそれ、取ってやれよ。』
社『まぁ、確かにそうだな…
このままじゃ可哀想だし、良心痛むし、
イヤホンと目隠しだけでも取ってやるか』
茜『可哀想だって思うんなら全部取って欲しいんだけど?
あと金田、写真消せよ?』
社『ほい取った』
茜『おぉ…!久しぶりの現世…!ただいま世界…!』
………
幸樹『何言ってんのコイツ』
社『な』
茜『ただいまして早々辛辣なんだが?この現世』
社『自分から、構わん!やってくれ!って言い出したくせによく言うぜ』
幸樹『……え?
…む?』
茜『M言うな!…いや、やれって言ったのはそうだけど!もっとこう……良い感じに楽しめると思ったんだよ!
そしたらなんか普通にコレ窮屈で居心地悪いし?
肝心の異世界はどんどん暗くなってくじゃんか!』
社『拘束に関しちゃお前良いって言ったろ。それにお前がゼロから派とかハードモードとかご所望だから、
ハードな感じに軌道修正したんだろーが』
茜『いや限度があるじゃん?!あんなんもう
マイナススタートだよ!ベリーハードだよ!』
社『わざわざ修正したってのに文句を…』
幸樹『…赤城…お前…』
茜『あっ金田!お前は分かってくれるよな!?今の話、
理解してくれるよな!?』
幸樹『赤城…お前…自ら望んで…簀巻きに…』
茜『全然違うことまだ考えてたよ!そこじゃねぇだろ!』
幸樹『え、でもお前がやれって…』
社『うん、言ってた。言質とった。だからやった』
茜『おい蛇目お前まじ覚えてろ』
幸樹『大丈夫だ…お前がどんな趣味を持ってても、きっと受け入れてくれる奴が…
茜『その目やめろ!さっきもやったよこのくだり!』
………
幸樹『……まぁ、それは良いとして…』
社『おん』
茜『全然良く無いんだけど。マットから出して?
あと金田、撮った写真消せ?』
幸樹『よくわからんが、とにかく聞きたいことがある』
社『フッ、許可しよう』
茜『何それハマってんの?』
幸樹『色々気になること山ほどあるけど、まぁ…
それらはさておき、一番は、
…お前ら、ここで何してたの?』
社・茜『…………』
幸樹『何してたの』
社・茜『…………』
幸樹『…………』
社・茜『『……え、異世界転生ごっこ…』』
幸樹『お前らほんとバカだろ』
………
幸樹『なぁ……社…結局何で俺呼んだの?』
社『………
………掃除手伝って?』
幸樹『やっぱそれじゃねぇか僕帰る』
最後のがやりたかっただけです。
読んでくださりありがとうございました。面白がって頂けたら嬉しいです。
『シュレディンガーの馬鹿野郎』っていうワードだけ思いついて作りました。決して断じてシュレディンガーさんを誹謗中傷する意図も内容もございません。馬鹿野郎とも思ってないです。
ほぼ主観視点だったり内容を凝り過ぎたりした為、色々ごちゃごちゃした出来になってしまいました。申し訳ありません。異世界初心者だから許して。
ミス等確認されたら教えて頂けると助かります。