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暴走族と警察官

作者:

 緑豊かな広場。

 休日であれば、子供達の元気な喜悦の声が飛び交い、親達はそんな子供達を見つめながら柔和にゅうわな笑みを浮かべているだろう。

 だが生憎、今日は平日。

 散歩をする人達がまばらにいる程度。

 しかし、今日の広場はいつもと違っていた。

 紫、白、ダークブラウンと様々な髪色の男女が特攻服に身を包み、自慢の愛車の手入れをしていた。

 そんな集団の中の一人である雄吾は、新たな相棒を心ゆくまで整備をしてから、仲間達に向かって声を張った。


「てめぇら! 準備はいいか!」


 雄吾の声に全員が神妙な面持ちで振り返る。


「ようやくこの日を迎えられた! 全員……とはいかなかったが、道半ばで散っていった奴らのためにも、わしらは必ず走り切る! たとえ命を落としても!」


 並々ならぬ思いに仲間達は同調し、中には涙ぐむものまで現れる。

 それほどまでに雄吾達にとって、この走りは大事なものなのだ。


「さぁ! てめぇら乗りやがれ!」


 号令と共に、一糸乱れず一斉に相棒に飛び乗る。


「行くぞおら! わしについて来い! 出発じゃい!!」





「ダメだよおじいちゃん達。シニアカーで高速道路を走っちゃ」


 高速道路で複数のシニアカーが爆走(時速6㎞)しているとの通報を受け、警察はすぐに雄吾達を安全な場所まで誘導し、青空の下で聞き取りを行っていた。


「誰がおじいちゃんだ! 年寄り扱いしおって! わしはまだ七十歳じゃ!」

「いや十分お年寄りだからね。それで、どこまで行くつもりだったの」

「伏見稲荷大社まで」

「ここ愛知県ですけど?」

「わかっておるわ。安心せい。日帰りだからすぐ帰ってくるわい」

「片道で日を跨いじゃいますから」

「雄吾さん、まだ出発できんのかのー」

「ちょっと待ってくれトメさん。今話をつけるから」

「つきませんから」

「雄吾さん、飯はまだかのー」

しげさん、ちょっと前に食べたばっかりだろ。しょうがないのー……みんなにはばれないように食べるんだぞ。ほら、餅とこんにゃくゼリー」

「絶対食べないでくださいねー」

「雄吾さんや。さっきから幸信ゆきのぶさんがトイレを我慢してるみたいなんじゃが」

「といってもな……ここにはトイレはないし。おむつ履いてるはずだから漏らしてもらうしか」

「それが、どうやらここまでにもう三回漏らしちゃったみたいで、もうおむつパンパンなの」

「新人!! パトカー使って近くのサービスエリアまで送っていけ!!」


 新人はすぐにトイレの近い老人をサービスエリアまで運んでいく。

 聞き取りをし始めてまだ数分といううのに、警官の顔に疲れが見え始める。


「なんじゃ、そんなに疲れてどうしたんじゃ? 若い内から体力をつけておかんと後から後悔するぞ?」


 悪気のない雄吾の言葉に眉がピクリと動くも、自分の中に湧き上がる苛立ちにそっと蓋をする警官。

 警官として勤めて十年、色々な事件や厄介な相手をしてきたが、いつだって冷静に対応し、迅速に解決していた。

 今回もそうだ、声を荒げるほどではないと自分に言い聞かせた警官は、にっこりと笑った。


「助言ありがとうございます。それで兎にも角にもなんですが、私が誘導しますので、一度高速道路から降りてもらえますか?」

「なんじゃ? ここは京都じゃったのか?」

「いや愛知です」

「じゃあまだ降りちゃいかん。京都に着くまでは」

「だから、ここは高速道路だからシニアカーで入っちゃダメなんだって。そもそもどうやって入ったの? 料金所は?」

「今時ETCを搭載してない車なんて少ないじゃろ」

「え? ……うっわ、ちゃんとETCカード搭載してる」


 他のシニアカーも確認すると、全員ETCカードが搭載されている。


「これさえあれば高速道路を使っても問題ないじゃろ?」

「いやダメですから」

「何がダメなんじゃ! ほれよく見てみぃ! タイヤも四つついておるし、ハンドルもある! しかもエコカーじゃ!」

「そりゃシニアカーはほとんど電気で動きますからね」

「なら走っても」

「ダメですから」


 何度も否定する警官に呆れた様子で深くため息を吐く雄吾。


「あんた、英語は話せるか?」

「え、英語ですか? まぁ、得意ではありませんね」

「なら無理もないか。シニアカーのカーは日本語で車という意味なんじゃ」

「もしかしておちょくってます?」


 血管が切れそうになりそうになりながらも、警官はなんとか食いしばる。


「雄吾さん、ちょっといいかのー」

「なんだいトメさん、後にしてくれんか」

「でも……」

「おばあちゃん、こちらも大事な話をしているんです」

「そうかい、それはすまないねぇ。それならその話が終わったら、こっちに来てくれんかの。茂さんが急に喉を押さえながら顔を青くしておるで」

「だから食べるなっつっただろがクソジジィ!!」




「って、ことがあっての。結局シニアカーじゃ高速はダメだからとわざわざ旅行会社のバスを急遽手配してくれての」


 高校生の孫に先日あったことを話しながらお土産を取り出す。


「ほれ、京都土産の信州そば」

「じいちゃん結局どこいったんだよ」


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