新婚旅行作戦その3
「ウガァァァァア!!」
「なあ、こんなもんじゃ収まらねえんだよ私の怒りは」
アリサはクラーケンの触手を少しずつ、少しずつ斬り落としていく。
「ヒィィィイィィせめて一思いに殺してくれぇぇぇ」
「お前、ディアベルが放せと言った時、放したか?」
「は、放すわけないだろ……何のために捕まえたと思って」
「そうだよな。だから私もお前の願いは聞き入れない。せいぜい最後まで自分の行いを悔いて絶命するんだな」
アリサはその後もクラーケンを少しずつ痛めつけていった。決して途中で死なないように、急所から遠いところからジワジワと嬲るように痛めつけていった。
◇
「魔王様アイツヤバイですよ! もしあの憎悪が魔王様自身に向いたら!!」
「それは、我も思う……でも」
「でも……?」
「アリサに助けられた瞬間……胸の奥がときめいてしまってな……こんな感覚、初めてなのだ」
ディアベルは顔を紅潮させ、もじもじしながらそう答えた。
「駄目だ……今の魔王様は完全に女の顔をしてますよ……。しれっと勇者を下の名前で呼んでますし」
「くぅぅぅ勇者めぇぇ私の魔王様を」
「いやアリスのでもありませんよ」
「うむ、魔王様にも春が来たということですな!」
「うわ、また酒飲んでますね……」
◇
「この間は大丈夫だったか? すまない。私がもっと警戒していれば……」
「いいんだ。助けてくれただけで我はもう……」
あれからというもの、アリサの近くにいるだけでなぜか胸がドキドキする。
「あ、あのアリサ」
「どうした?」
「手、握っても良いかな」
「そうか。ほら」
アリサに差し出された手を握ると、優しく握り返してくれた。
温かさが伝わってくる。あんな化け物じみた力を持っていても、こういったところは普通の女の子と変わらない。
近くでよく見てみると改めて思う。アリサの白髪は美しい。まつ毛も長く、端正な顔立ちをしている。それでいて我を助けたときの我を想う顔。
あれ、もしかして我……アリサのことが好きになって……いや、違う違う忘れるな! 我は勇者を利用しているだけだ!
……だけど、アリサと一緒にいるのも、悪くないかな。