八話:攻略・ヴァルゼノア神殿~冒険者の壁~
「ここが交易都市...」
城門の関所をぬけ、目の前に広がっていたのは前世を彷彿とさせる"都会の町"だった。
かつての東京を思い出すような人の量。店の数。交通網の多さ。
オーラに圧倒されていると無事に関所での手続きが終わったのか、後ろからリンネとスズカが声をかけてきた。
「お待たせしました、ヤマトさん。」
「うわあ...いつ来てもここは凄いや。」
リンネはこの盛り上がりにテンションがノリノリだ。子供みたいにはしゃいでいるのが可愛い。
正直見て回りたい気持ちもあるが、このままだとすぐに日が暮れそうだったので
後ろ髪を引かれる思いでこの場を後にした。
「ここが冒険者ギルドです。」
門があった大通りをそのまま突き進むと先程とは違い、異世界の町らしい雰囲気が漂い始めた。
多くの酒場が昼から満席で、周辺にアルコール臭が充満している。
その中でも一際目立っているのが、目の前にある「冒険者ギルド」と書かれた建物だ。
まず大きい。3~4階くらいの高さだろうか。周りの建物が低いのもあって、余計大きく見える。そして、何故か知らないが扉から禍々しいオーラを感じる。でもなんとなく懐かしいような...
そんなことはさておき、満を持して入った先にはイメージ通りの景色が広がっていた。
ギルドで冒険者と一番接する機会が多いであろう綺麗な受付嬢達、簡易的な飲み屋で稼いだ金をはたいて酒に走る冒険者達。そして壁側に貼ってある依頼用紙。
異世界の醍醐味と言っても良いのではないだろうか。憧れたこの景色。
ヤバい超楽しい!!厨二心がくすぶられる。
「あの、、ヤマトさん?大丈夫ですか。」
そんな分かりやすかっただろうか。横から俺の様子を伺っていたスズカが心配してくれている。
「ごめんごめん、初めて来たからさ。少し興奮しちゃって。」
そう答えると、安心したような顔をしている。
まだ出会って2日だが、スズカとリンネのことを少しずつ理解してきた。
スズカは心配性なのだろう。妹のリンネがあんな性格もあるのだろうが、リンネの行動を見ていると心配したくなるのも分かる。逆にリンネは好奇心旺盛なイメージだ。何にも囚われない。そんな強い意志を感じる。
そんな彼女達だからこそ守りたいと強く思うのだろう。ま、武器でごり押していたやつが言うセリフじゃないな。
「ヤマトさん、私たちはあっちで依頼見てくるから。ヤマトさんはギルドカード作ってきなよ。」
リンネにそう勧められたので、俺はギルドカードを作るために受付嬢に声をかけた。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルド:グラン=フェルダ支部へようこそ。」
「すみません、ギルド登録をしにきました。今ってできますか?」
「大丈夫ですよ!書類を持ってきますので少々お待ちください。」
「ありがとうございます。」
対応してくれた受付嬢さんは、近くにあったドアを開き奥に消えていった。
それにしても、綺麗な人だなあ。高校にあんな可愛い人いなかったぞ。
受付嬢さんは自分と年齢が近い、10代くらいのハーフアップをしている女性だった。清楚っぽい顔によく似合うナチュラル系のメイクで動作などもすごく流麗だ。思わず見惚れてしまうほど。
「お、兄ちゃん見ない顔だな。新入りか?」
すると、いきなり背後から聞き覚えのない声が聞こえた。ゆっくりと振り返ってみるとそこにいたのは
190cmほどの上背がある、如何にも冒険者らしい男性だった。彼の背中に背負っている大きな戦斧が余計に威圧を放っている。
「はい。今日この町に来たばっかで。」
「そうかそうか!顔つきと言い、肉体的にもまだ若いなお前。上京してきたのか?」
「まあ、そんなところです。」
これ以上そっち系の話をされると、いつかボロが出そうだな。早めに話を切り替えないと。
「そんなことより何か用ですか?もしかして自分、邪魔でした?」
よく周りを見渡してみると他の受付も混んでいる。邪魔だっただろうか。
「いや、そんなことはねえよ。ただ見覚えのない顔があったから声をかけただけだ。」
なんやコイツ...まさかコミュ強か?
「そうなんですか。」
「で、お前の名前はなんて言うんだ?」
「え、名前?」
まさかの自己紹介?
「ここで登録するってことはある程度、この町に滞在する予定なんだろ?それだったら、ダンジョン内とかで会う可能性もあるし最低限のコミュニケーションはとるべきだろ?」
理に適ってはいるな。それに俺はこういうタイプ案外好きだ。
「そうですね、自己紹介が遅くなってすみません。名前はヤマトって言います。えっと...」
「フォーリアだ、よろしくなヤマト。」
「よろしくお願いします。フォーリアさん。」
「おいおい年下だからって敬語はよしてくれよ。苦手なんだ笑。」
「...分かった。よろしくフォーリアさん。」
彼と笑顔で握手をする。何か懐かしい気分だ。
「そーいや、ヤマト。下手なことは言わねえが、ちっと厳しいと思うぞ。」
「ん?何のこと?」
全く心当たりのない話だ。一体何のことを言ってんだ?
「お前さっき、クリスティーナのことニヤニヤしながら見てただろ。」
「クリスティーナ?」
「お前が話してた受付嬢の名前だよ。」
へー、彼女はクリスティーナっていうのか。まだこの世界の文字が魔法を使わないと読めないから名札を見ても読めなかったんだよなあ。今度ドーミナ様に確認してみるか。
って、ニヤニヤ?!
「し、してねえよ!変なこと言うな!」
思わず声を荒げる。俺が?クリスティーナさんを見て?
そんなわけねえだろ。(多分)
「アイツはなあ。生粋の男嫌いだから辛い思いする前に諦めたほうがいいぞ。」
「男嫌い...?」
「おっと。これ以上はタブーだったな。すまんすまん忘れてくれ。」
フォーリアはそう言って話を逸らした。
タブー。何かあったのだろうか。聞きたい気持ちもあるが、これ以上はプライベートだしな。
「すみません、お待たせしました...ってフォーリアさん?」
声が聞こえた方向を見ると、クリスティーナさんが書類を持って戻ってきていた。
「久しいな、クリスティーナ!なあに、新人と世間話してたんだ。なあ?」
「そ、そうdaで、ですね!」
ここは否定していけない気がした。きっとそうだ。
「...?まあいいですけど。あまり新人さんを虐めないでくださいね?」
クリスティーナさん、男嫌いって聞いてたけどフォーリアさんと普通に話してるけどなあ。
「ガハハハ!大丈夫だ!新人に娼館の行き方とおススメを教えてやっただけだ!」
ちょっと?!そんなこと1ミリも話してませんけど?!
その言葉を聞いて、彼女の俺を見る視線が冷たいものに変わった気がした。
「はぁ..。これだから男は...」
全くと言っていいほど冤罪なんですけどね?!
「そんなことは置いといて、すみませんこの書類にサインをお願いできますか?」
クリスティーナさんは机の上に一枚の紙を置いた。
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1.当ギルド系列の建物の敷地内において、許可された場所以外での戦闘は断じて認めない。
2.ダンジョン・依頼で獲得した戦利品は、基本受付にて認定を受けない限りギルドに所有権がある。
そのため受付にて認定を貰い、所有権の譲渡となる。
3否定期的に"強制任務"が課される場合がある。その場合は基本Dランク以上は強制である。
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魔法を使って内容を読んだ感じ、ギルドの規則への同意書のようだ。
俺は前世使用していたサインを書き、提出する。
「承りました。では、これより魔力・スキル測定を行ってからギルド証発行となります。
こちらのボードに手を触れてください。」
彼女が続いて出してきたのは、B4サイズくらいの鉄板のようなものだった。
恐る恐るそれに触れてみると、ピカーン!と光始めた。
「な、なんだ?!」
急な出来事に驚いていると、フォーリアが測定板だと教えてくれた。
「...測定が完了しました。手を放してもらって大丈夫です。」
30秒ほど手をのせていたが、どうやら終わったようだ。
「これが今回の測定結果になります。どうぞ。」
彼女から一枚の紙を受け取る。
そこに書いてあったのはよく異世界系で見るステータス用紙だった。
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名前:ヤマト
種族:人族
Level:1
称号:【獣鬼王狩人】
~能力値~
体力:2500/10000
筋力:3520/10000
俊敏:1500/10000
魔力:4000/10000
知力:70/100
運勢:30/100
~スキル~
・言語理解III ・算術X ・鑑定眼I ・剣術III ・槍術II ・双剣術II ・拳術II ・身体強化 ・隠蔽VIII
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これ、すごいのか...?
「え?!お前、称号持ちなのか?!」
俺のステータス用紙を後ろから見た、フォーリアが驚きの声を上げる。
「称号?」
もう一回紙を見てみると、種族の下に"称号"という欄があることの気が付いた。
そしてそこには【獣鬼王狩人】という記載が。
「オークキング...?」
そんなやつ倒しただろうか。記憶を掘り起こそうとしかめっ面をしていると
「オークキングっていったら、B級の魔物だぞ!」
ザワザワザワ──
俺らのやり取りを聞いていたのか、周りにいた冒険者たちが騒がしくなってくる。
「オークキング?!」「あれって単独撃破できるのA級冒険者でも上位じゃないのか?!」「アイツ何者だよ!」「新人って本当か?!」「あの機械、壊れてるんじゃないのか?」
あの魔物、確かにヤバいオーラを放ってたけどそんな強い魔物だったのか...?
「オークキングはな、上から3番目のB級パーティーが討伐推奨になっているくらい強いんだ。」
フォーリアが焦りながら説明している。どうやら、俺は見知らぬ間に高ランクの魔物を倒していたらしい。
「お前さん、一体何者だ...?」
ヤバい...怪しまれてる...。
ここで変に話すとボロが出たとき詰む。どうしようか...
内心焦りを浮かべていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「ヤマトさん?!これは何の騒ぎですか?」
後ろに振り向くとそこにいたのは、依頼書を持った姉妹だった。
「二人とも!」
俺に集中していた視線が姉妹たちに移っていく。アルコールが入っているのか、チラホラ彼女たちの容姿やスタイルを性的な目で見ている話が聞こえてきた。
「何で発行するだけで、こんなに悪目立ちするんですか...」
スズカはため息交じりにあきれた表情を浮かべる。
「じょ、嬢ちゃん達。こいつと知り合いか?」
横にいたフォーリアが彼女たちに尋ねる。
「はい、知り合いというか...」
リンネは答えようとするも、「あれ、私たちの関係性ってなんだ?」と言って考え込んでしまった。
「と、とにかく知り合いです!」
と、スズカが代わりに答える。
「ならこいつがオークキングを倒したことがあることを知ってるか...?」
余程信じられなかったのだろう。俺のステータス用紙を差し出して食い気味に質問した。
「おーくきんぐ?」
妹のほうは首をかしげている。なんとなくそんな気はしていたのだ。
「倒してますよ、彼は。私達を助けてくださいましたもの。」
スズカが代わりに答える。
倒したあのモンスター、オークキングって名前だったのか。知らなかったぜ。
スズカの言葉に冒険者達は一層騒がしくなり、人もどんどん集まってくる。
正直めんどくさくなってきたな。
よし、ここは...
「クリスティーナさん、この町のダンジョンって登録初日から行くことって可能ですか?」
受付でこの一連を静観していた、彼女を利用することにしたのだ。
このままだとギルド自体の業務にも支障がきたしかねないので、申し訳ないがどうにかしてもらおう。
「え?!あ、はい可能ですけど...」
「わかりました、ありがとうございます。では。」
いけるそうなので、俺は少し時間がかかったがダンジョンに向かうことにしよう。
彼女たちは...っと、思っていたところでスズカと目が合う。
(向かってもらって大丈夫ですよ!)
彼女は本当に優秀な人だと思う。決してリンネが悪いと言いたいわけではないが、スズカが出来すぎていて正直少し怖い。
彼女達とも意思疎通ができたので、近くにいたフォーリアさんに
「フォーリアさん、ではこれで今日は失礼します。」
「え、ちょっ!」
呼び止める声が聞こえたが、俺はお構いなしに扉を出てダンジョンへと向かった。
(スズカside)
目の前のフォーリア、と呼ばれていた男の人が目の前でポカンとしています。
先程まで騒いでいた外野も今は静かになっていました。その原因はもちろん、ヤマトさんのこの場の退出によるものでしょう。
そもそも、ステータスは個人情報ですので説明する義理はないと思いますけどね。彼らしいと言えばそうですが、この後質問攻めされるかもしれませんね...少々面倒です。
リンネはというと、横でヤマトさんのステータス用紙をジッと見ています。何か気になることでもあったのでしょうか。
それよりも私達も依頼を受けたいのですが、このままだと難しいでしょうし。どうしましょうか。
私が一人悩んでいると、奥から女性の焦った声が聞こえてきました。
「や、ヤマトさんってもうお帰りになられました?!」
綺麗な女性です。確か名前は...
「クリスティーナ!どうした、何かあったか?」
そうそう、クリスティーナさん。前回に来たときは担当してもらわなかったので名前を忘れていました。
「少し、確認したいことが...ありまして...」
走ってきたのだろう。息が切れていて、言葉が途切れ途切れになっている。
「えっと、そちらの女性方。彼のお仲間でしたよね。」
「は、はい。そうですが...」
もしかして、目的は私達...?
「こちらで、これをご覧になってほしいのですが...」
彼女の近くに行き、一枚の渡された紙をリンネと見る。
そこに書かれていたのは──
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名前:ヤマト
種族:人族
Level:1
称号:【神意継承者】、【聖剣所持者】、【獣鬼王狩人】
~能力値~
体力:1250000/10000000
筋力:3520000/10000000
俊敏:1250000/10000000
魔力:4300000/10000000
知力:570/1000
運勢:630/1000
~スキル~
・言語理解III ・千里眼I ・算術X ・鑑定眼I ・剣術III ・槍術II ・双剣術II ・拳術II ・身体強化 ・隠蔽VIII ・聖剣解放I ・平行詠唱I ・心話II etc.
~加護~
・破壊神之加護 ・愛神之加護 ・聖剣之加護
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この紙を見て、背筋が凍るような恐怖を感じた。
この数値は一体...?
「この紙、ステータスを用紙に転写する用の魔法陣の上においてあったんですけど...」
名前をもう一度確認してみるが、"ヤマト"と書いてあった。
いつの間にか近くにいた、フォーリアが絶句している。
「こんな数値...。歴代の英雄クラスの能力値に匹敵すんぞ?!」
冒険者ギルドには、歴代の"英雄"と呼ばれるS級冒険者の中でも限られた者しか選ばれない、武を極めた者達がいた。その数値は引退後にギルドから公表され、冒険者たちは皆彼らに憧れを抱いている。
そんな英雄クラスの能力値に匹敵するレベルのヤマトさんって本当に何者なんだろう。
「おい、しかもこれを見ろ!」
フォーリアが示した場所は「Level」だった。そして、彼のレベルは...
「「「「レベル...1 ?!」」」」
そう、何を隠そう彼はまだレベル1だったのだ。
レベル1。この世界のステータスにおいて初期能力ともいえる数値。
その時点で英雄クラスだというの...?
その時私を二つの感情が襲った。
一つ目は単純な恐怖。無理もない。私とリンネは下から2個目のFランク冒険者なのだ。
そして2つ目は憧憬だった。紛れもない単純な好意。彼はそこまで強いのにも関わらず、弱者である私たちに手を差し伸べてくれた。その事実に私は心が震えた。
よし、彼がダンジョンから帰ってきたら改めて感謝を伝えよう。そして頼むんだ。「強くしてください」と。
他の3人が各々目の前の紙に対して議論を行っている中、そう決心したのだった。
しかし、その未来はやってはこなかった。数時間後、冒険者ギルドに知らされたのは"ダンジョン緊急封鎖"の一報だった。