根本明音の場合 (3)
やはり、このころが一番責任感みたいなものを強く背負おうとしていたのかもしれない。
今考えれば、一方で身勝手に見えた周りの人たちに文句を放ちたかった。
時間はあっという間であり、その暇もなかったけれど。。
お通夜、葬式、まるで流れ作業をしているみたいな感覚で体が動いていた。
葬儀社の人との話し合い。
すべて自分がしなければいけない。
両親に負担をかけてはいけない。
そんな重圧があった。
だから、一番辛かった。
ーー 両親を支えてあげて。
ーー あなたはしっかりしてあげて。
ーー 弟さんの分もしっかり生きてあげて。
ーー 両親は辛そうね。
~してあげて?
しっかりしろ?
私にかけられる言葉は、どれも私にかけられる言葉じゃなかった。
可哀想なのは命を奪われた弟。
自分たちより先に息子を亡くした両親。
私は可哀想なんかじゃない。
もちろん、そんなことはないだろうけど、このころの私は、どこかでそんなふうに受け取ってしまっていたのかもしれない。
親戚の上辺だけの励ましや綺麗事に。
だからだろうか。
私はお通夜、葬式の間、どこかまったく違うことを考えていることもあった。
仕事はどうしようか、休まないといけない、とか。
そうなれば、同僚に迷惑をかけてしまうな、と。
お通夜のあとで聞いたことである。
事情を知った友人が駆けつけてくれた。
心配する友人らに、私はいたって普通にそんなことを話して相談していたらしい。
自分のことだが、話を聞いて驚かずにはいられなかった。
そんなことを言っていたんだ、と。
葬式の日は悔しいほどに晴れていた。
式はしめやかに執り行われ、そろそろ出棺で、喪主である父が最後の挨拶をしているとき。
私はふと参列された方々の顔を眺めた。
今思えば、それまではその余裕もなかった。
そこでも、喪服に身を包んだ絢音さんを見つけた。
まったく気づかなかった。
本当ならば、もっとちゃんと話したかった。
私は心のなかで彼女とならば、本心をぶつけて話せたかもしれないから。
覚えていなかった。
もしかすれば、焼香してもらっていたとき、目が合っていたかもしれないけれど、気づかなかった。
だからこそ、ちゃんと話がしたかった。
それでも、式の流れからして、その機会はなかった。
そこで私は頭を下げ、そのまま車に乗り込んだ。