内山絢音の場合 (4)
私の気持ちは異常なのか、とそのときは少し悩んでしまいました。
彼のことはもちろん、愛しています。
彼をこんな形で失うことに多大な喪失感がありました。
それこそ、心を奪われるような。
それなのに、心のどこかに冷静さ、いえ、もっと酷く言えば、冷酷さが生まれたみたいで戸惑っています。
病院で彼と、彼の家族と別れたあと、ごく普通にすごしている自分がいました。
お姉さんからお通夜、お葬式の予定を大まかに聞いたとき、そしてお通夜、お葬式の場でもそうでした。
私たちの関係を知っている友人らが事情を知り、駆けつけてくれ、「大丈夫?」などと励ましてくれるなか、不思議と平然として話していました。
変な話ですけれど、私の方が笑ったりもしていました。
まだ私は彼の死を受け入れられないままだったのでしょうか。
お葬式に参列し、大きな花が飾られた祭壇に、笑顔を咲かせていた彼の遺影が強く印象に残っています。
楽しかったときに見せてくれていた笑顔。
私の好きな笑顔でした。
そのときは逆に変な感情が悲しみを邪魔していました。
彼の家族の方はずっと気丈に振る舞っておられたので、私がここで泣き崩れて迷惑をかけるわけにはいかないと、心のどこかで我慢していたのかもしれません。
やはり遺影を見たときばかりは。
結局、その日に家族の方とは会釈をすることしかできませんでした。
出棺のとき、霊柩車のクラクションが鳴ったときでした。
私の唇が少し震えたのは。
それが彼との最後の別れでした。
ずっと緊張が私の気を張り詰めさせていたのかもしれません。
お葬式が終わり、自分の部屋に戻ったときでした。
微かながら、彼の死が受け入れられなかったんだと思います。
だからこそ、自分を取り巻く日常が現実なんだと、気づかせてくれたのでしょうか。
見慣れた部屋を眺めた瞬間、涙が流れました。
頬が熱くなり、涙がこぼれると、抑えていた震えが止まらなくなりました。
着替えがままならないまま、ドアに凭れてそのまま崩れました。
メイクも落とさないまま。
私はこのまま泣くこともなく、日々をすごすのかな、と思っていたのは間違いだったみたいです。
このとき、私は初めて彼の死を目の当たりにした気になり、泣きました。