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綺麗事なんかキレイじゃない  作者: ひろゆき


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 内山絢音の場合 (5)

        内山絢音の場合



 遺骨を目の前にしたとき、恐怖は極限に達していたのかもしれません。

 まだ夢であれば、と心の隅に根づいていたのかもしれません。

 それでも、もう覚悟しなければいけないと気づいたのが、このときなのでしょう。

 仏壇にある遺骨を収めた木箱。

 そして、無邪気に笑う彼の遺影に私は手を会わせていると、全身から力が抜けていき、唇が震えてしまいました。

 せっかく私を呼んでいただいたのに、ここで泣いて騒ぎを起こしてしまうと、家族に迷惑がかかるだけ。

 悲しみを堪えるしかありません。

 連絡があったのは数日前。

 日数的にそろそろ四十九日の法要があるだろうと考えていたときです。

 お姉さんから、

「迷惑じゃなかったら、来てもらえるかな」

 と、久しぶりに連絡をいただきました。

 迷惑なんてとんでもない。

 本当はすぐにでも行きたかったのですが、どうしても緊張してしまいました。

 いえ、やはりそれ以上に遠慮していました。



 こんなとき、何かを持って行かなければいけないのでしょうが、何を持って行けばいいのかわかりませんでした。

 そこで、彼が好きだったバームクーヘンを持参して、彼の実家に行くことにしました。

 久しぶりに会うご家族の方々。そして、彼の実家に赴くことに緊張しながら。



 緊張から玄関に立ち尽くしていた私を優しく出迎えてくださったのは、お姉さんでした。

 リビングに通されると、そこにお母さんがおられました。

 お父さんは仕事の都合で不在でした。

 お姉さんは以前会ったときと変わらず、穏やかな雰囲気でしたが、お母さんは見るからにやつれていました。

 彼の死が精神的にも負担になっておられたらしく、頬が痩けているようでした。

 申しわけありませんが、より老けたように感じてしまいました。

 笑って挨拶をしてくださいましたけど、どうしても無理しているようにしか見えず、辛かったです。

 よくドラマや小説などの物語では、誰か大切な人を喪った場合では、時間が経てば、気持ちが落ち着いてくれるといった表現がされることがあります。

 でも、それはただの比喩表現でしかなく、物語は娯楽でしかないのだと、私は打ちひしがれてしまいました。

 目の前のお母さんの姿からは、極限の悲しみや苦しみは、本当に人の心の時間を止めてしまうのではないか、と現実を恨みたくなりました。



 疲れ切っているお母さんと、どのような会話をすればいいのか。

 正直不安になりました。

 しかし、不思議と自然に話すことができました。

 きっと、お姉さんが場を和ませてくださっていたのでしょう。

 他愛のない話。

 それは友人らと話すときと雰囲気は違っていても、楽しかったです。

 いつしか、彼の話題が出ても、笑っていました。

 彼のことで盛り上がれるのは皮肉にも思えましたが、それは友達の間では絶対にないので、不思議な感覚でした。



 三人の会話が一段落したとき、隣の居間にある仏壇に向かい合いました。

 それは本当に望んでいたのかもしれません。



 どれぐらい手を会わせていたのかはわかりません。

 でと、顔を上げたとき、突きつけられる現実に、無性に寂しくなりました。

 やはり、彼はもういないんだ、と。



 それからはどうしても現実味のある話になってしまいました。

 お通夜や葬式でのことなどを離される二人。

 あくまで愚痴をこぼすように明るく振る舞っておられましたが、かなりの心労があったことは、感じ取ることがありました。

 私としては、「そうですか」と応えることしかできないのが悔しくて、残念でしかありませんでした。



 そして、これから加害者の裁判が始まるのは知っていましたが、裁判に対することは誰も口にはしませんでした。

 気にならないといえば、完全に嘘になります。

 口にすることを恐れていました。

 どうしても触れてほしくないとも考えていました。

 いつその話題が出るのかハラハラしていました。

 だから、家を出るまで話題にならなかったことに安堵していました。

 

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