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綺麗事なんかキレイじゃない  作者: ひろゆき


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 根本由紀子の場合 (3)


 ずっと動こうとしていなかったときです。

「ご飯を食べよう」

 唐突に主人が私に声をかけました。

 ご飯?

 私は料理を作った覚えはありません。

 あまり食欲もなかったし、そのままでいようとすると、半ば強引に主人に連れられリビングに向かいました。

 ふらつく私の前に現れたのは、綺麗に並べられた料理。

 鯖の味噌煮でした。

 三人分の料理が並べられている。

 私は作っていない。

 主人も料理をする人ではない。

「明音が作ってくれたみたいだ」

 途方に暮れる私に、主人が静かに呟きました。

 その瞬間、私の意識は飛びそうになりました。

 娘。

 娘が作ってくれた。

 よく考えれば、鯖の味噌煮は私の好物でした。

 娘はそのことを知っていて、この料理を作ってくれたのか。

 これまでに何度も作っていました。

 娘が子供のころから、私のそばでそれを見、時折手伝ってくれていた。

 忘れていた記憶が、静かに蘇ってくる。

 娘はそれを覚えてくれていた。

 そして作ってくれた。

 きっと気を遣ってくれたのです。

 それはどんな思いで作ってくれただろうか。



 急激に恥ずかしくなった。

 私は娘の顔を一瞬ではあるけれど、忘れてしまっていた。



 お通夜、葬式の間。

 娘がどんな顔をしていたのかが思い出せないでいた。

 私はずっとうつむいていた。

 息子の遺影すら見ることができず、目を背けていた。

 そのとき、娘はどんなことをしていたのだろうか。

 主人と一緒になって動いてくれていたのだろうか。

 私はまったく娘を見ていなかった。

 悲しかったはず。

 辛かったはず。

 娘だって、弟を喪ったのです。

 悲しいはずがない。

 それなのに、親である私は何もしていなかった。

 娘はどんな思いでこれまでの時間をすごしていたのだろうか。

 私はなんの支えにもなっていなかった。

 情けない思いで一杯である。



 娘は泣いていたのか。

 料理を見た瞬間、何もできなかった、気づけなかった自分を恥じてしまった。

 変わらなければいけない。

 そうなのである。

 私たちにはまだ娘がいる。

 わかっている。



 娘はちゃんとしている。

 どれだけ迷惑をかけてしまったのか。

 娘の時間は前に進んでいるのを痛感してしまう。

 前を向くまでどんな思いだったのかは、私には想像できない。

 ただ、足かせになりたくない。

 なってはならない。

 それにはどうしたらいいのかも、理解している。

 いや、気づかされた。

 時間を止めてはいけない。

 進めなければいけない。

 ……だが。

 私は時間を進めることはできるのだろうか。

 親としてしっかりとしなければいけないのに、自信は……。

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