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綺麗事なんかキレイじゃない  作者: ひろゆき
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 内山絢音の場合 (2)


 なんで、そんなに邪魔をするんですか?

 晴れきった空に何度も問いかけたくなりました。

 その場に行くまでの間、私を拒むみたいに、様々なことが弊害となってはばかるのが悔しくてなりませんでした。

 信号が狂ったみたいに、私が渡ろうとすると赤になる。

 電車に乗ろうとすると、あと一歩のところで発車して取り残されてしまう。

 ホームに一人佇んでいると、「なんで?」と空に叱咤したくなるほど、気持ちは焦っていました。

 これほどまでに、私は運に突き放されていたのか、と。

 まるで、雑巾を絞るように心臓を痛めつけられているみたいな苦しさが襲っていました。

 タクシーを呼び、目的地に向かえば、という考えが浮かばないほど、余裕はありませんでした。

 本当にこのときばかりは、時間が止まってほしい、と願うばかりで。



 本来ならば、三十分ほどで到着できる場所に、一時間ほどかかり到着しました。

 街の中心にある総合病院に。



 彼のお姉さんからの連絡は衝撃的で、私の意識は吹き飛ばされそうになりました。


 彼が事故に遭ったので、病院に来てほしい、と。


 連絡があったときの本心としては、驚き半分、あと安心でした。

 彼が約束を忘れているのではなく、ましてや、私を裏切ったのではない安心感から。

 本当に不謹慎です。



 ざわめきが多い病院の廊下を、一目もくれず駆けました。

 周りを気にする余裕がなかったのです。

 外科診察室、内科診察室を通りすぎ、手術室の前が目的の場所ではありませんでした。

 体が進むにつれ、人通りは少なくなり、人はまったくと言ってもいいほどいなくなった、廊下の隅の隅で足は止まりました。

 隠れるようにひっそりと存在していた霊安室の前で。


 落ち着いて聞いてね。


 お姉さんから連絡があったとき、話の内容の前に一言、念を押されました。

 優しく語りかけてくれていたのでしょうけど、今思うと、お姉さんも感情を抑えていたのだと思います。

 そこに気づかなかった私が子供だったのです。



 彼は事故に遭いました。

 私との約束の朝、自宅を出たあと、近くの交差点で信号待ちをしていたとき、車道を走っていた青い軽自動車が彼の立っている場所にに向かって突っ込んできたみたいでした。

 信号無視をした、軽自動車が猛スピードで無謀な突進をして、信号を進もうとしていたトラックと衝突しました。

 トラックはさほどスピードを出していなかったらしいですが、スピードを出していた軽自動車はその反動で向きを変え、信号待ちをしていた彼のところに凶器となって襲ったのです。


 不運な事故。


 命を奪われてしまった以上、そんな言葉で片づけてほしくなんてありません。

 それなのに、彼は命を奪われてしまいました。



 霊安室は思っている以上に、薄暗い部屋でした。

 正直なところ、部屋の全貌なんてほとんど覚えてなんていません。

 部屋の中心に彼の眠るベッドがあることだけを除いて。

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