根本秀夫の場合 (5)
正直、私たちは現実からずっと逃げていた。
現実に戻っているふりをしながら、目を背けていたのです。
だからこそ、本来、私たち親が向き合わなければいけないことに、娘が向き合ってくれていたんだ、と気づかされたのです。
かなり遅くなって。
冷静になってみれば、お通夜のときからそうでした。
塞ぎ込む私たちに代わり、娘が率先して物事を進めていたのだ。
どれだけ忙しかっただろうか。
辛かっただろうか。
娘も弟を喪った悲しみに打ちひしがれていたはず。
それなのに気丈に動き続けてくれていた。
私たちは完全に娘に甘えていたのです。
娘はこれまで一度たりとも、私たちに文句を言ったことはなかった。
きっと我慢をしていたに違いない。
言えない雰囲気を作り出していたことも否めない。
手つかずになっていた料理を見て、大切なことに気づかされてしまった。
娘のことを考えていなかった愚かな自分に。
このままではいけない。
私たちは変わらなければいけないのだ。
私は居間に戻り、妻を呼ぶとリビングのテーブルに着いた。
娘の作った鯖の味噌煮を食べながら、そんなことを妻に伝えた。
変わらなければいけないのだ。