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綺麗事なんかキレイじゃない  作者: ひろゆき
14/26

 杉崎和樹の場合 (4)


 他愛ない話を繰り返していたときである。

 時期としては初七日も終わり、一週間が経っていたときである。

 あいつから連絡を受けた。

 それまでこちらが送れば返事はあったのだけれど、自分から連絡をくれることはなかった。

 だから連絡を受けて驚いた。



 そこで誘ったのが、前に話題に出していた居酒屋である。

 久しぶりに会ったあいつは、少しやつれている様子に見えた。

 その姿に心労は計り知れない。 

 一瞬、言葉に詰まったけれど、できる限り事故の話題に触れないようにした。

 酒を飲み、美味しいものを食べて気が紛ればと思った。

 確かに話を聞いていた通り、そこの日本酒は美味しかった。

 酒を飲みら綻んだあいつの笑顔が嬉しかった。

 ただ、穴子より鯵のにぎりの方が美味かったのは好みかもしれないけど。

 それでも、あいつの笑顔はすぐに笑顔が消えていた。

 そこで一気に現実に引き戻され、背筋が凍った。

「悩んでるんだ」

 弱々しくもれる声に、やはり苦しんでいたんだと、息を呑んだ。

 それでもちゃんと向き合わなければ、と考えていると、あいつの悩みは考えていたのと少し違った。



 亡くなった弟さんには、恋人がいたらしい。

 その子とは家に誘うほどの仲だったらしく、結婚するだろうと思っていたらしい。

 彼女は葬式に見かけたけど、話す機会がなく、そのままになっているらしい。

 それからは、家に来ることも、連絡も。

 あいつも自分のことで精一杯だったらしく、こちらから連絡もしてないらしい。

 元々、数回しか会ったことがなく、どうするべきか悩んでいると、猪口を眺めながら呟いた。

 時間が経ちながらも、彼女から連絡がないのは、自分たちを拒んでいるんじゃないか、とも。

 自分たちの繋がりであった弟さんを亡くし、関係を絶とうとしているんじゃないか、と。

 それならば、こちらから繋がろうとするのは迷惑になってしまうんじゃないか、と。

 あいつは顔を曇らせた。

 酒の力もあって、赤らんでいたのに、いつしか顔は青ざめている。

 すぐに返事ができない。

 軽率なことを言えば、あいつを困らせ、苦しめると。

 その恋人の気持ちが少しわかる気がしたから。

 どちらかと言えば、自分と立場が似ていたから。

 なんで一度も会いに行かないのだろう。

 恋人であっても、別れる寸前まで冷めていたのか?

 いや、話では弟さんが亡くなったとき、デートをする予定だっらしい。

 そもそも、冷めた関係ならば、病院に来ていただろうか?

 急いで駆けつけた様子だったらしい。それならそんなことはないだろう。

 それでいて拒んでいるなら。

「遠慮してるんじゃないかな」

 自然と言っていた。

 もちろん、怖さもあると思う。大切な人が急に命を落としてしまえば、ショックで狂いそうになるのかもしれない。

 自分だって、あいつがと思うと、怖い。

 でも、その悲しみなかで、どこか自分は違うんだ、と気持ちを押し留めているんじゃないだろうか。

 自分は家族じゃない、家族じゃない自分が同じように悲しんではダメなんじゃないかって。



 話は逸れてしまうが、子供のころ親の仕事で転校をしたことがあった。

 人見知りが酷かったので、クラスのなかに打ち込めるのに時間がかかった。

 隣の席の子に話しかけるのにも勇気がいた。

 どこかみんなと自分は違うんだ、と考えてしまう。

 そんな気持ちに似ているんじゃないか、と伝えると、あいつは驚いていた。

 思い当たる節があるらしい。

 病院で弟さんと対面したとき、自分たちから距離を取り、近づこうとしなかったらしい。

「気づいてあげられなかったんだね」

 そこであいつはまた表情を曇らせた。

 今度は自分を責めるように。

「連絡してみなよ」

 言っていた。

 あいつも今は辛いだろうけど、その恋人も苦しんでいる気がした。

 それに、このまま終わってほしくなかった。

 この選択が正解なのか、間違いなのかはわからない。

 それでもこのまま二人が何もしないでおくのは、もっとダメな気がしてならない。  

 本当に心から願ってしまう。

 心を晴らすことのできる、魔法の言葉はないだろうかと。

 例え、見つけることができなくても、間違っていないと信じたい。

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