杉崎和樹の場合 (3)
励ましの言葉が違うのならば、どうすればいいのか。
がんばれ、なんて絶対に言えない。
がんばっているのはわかっている。あいつの声を聞いてから。
だったら、忘れろ。
辛い事故のことなんて忘れればいい。前に進むために。
そんなの絶対に違う。
それは、あいつに弟を忘れろ、と言っているみたいなもので、それこそ残酷すぎるじゃないか。
放っておくことなんてできない。
だからこそ、連絡しようと何度もスマホを眺めた。
それでも、その先に進めない。
空しく時間だけがすぎていくだけで。
優柔不断な自分を恥じている間に、あいつからの連絡があった。
そこで痛感させられた。 もう初七日なんだ、と。
そして、最後に最近連絡できなくてごめんね、と繋がっていた。
確かに事故が起きる前からずっと会えなかった。
しかし、それよりもまたあいつに謝らせてしまった罪悪感に襲われてしまう。
その後、いたたまれず、連絡を入れた。
直接、声を聞きたかった。
「謝るなよ」
本当なら、もっとちゃんとした言葉をかけるべきだった、と後悔していたけれど、言わずにはいられなかった。
あいつは笑っていた。
でも、どこかぎこちない。
不謹慎なのはわかっている。
恐らく、このころが一番何かと用事があるだろうと。
それでもあいつを遊びに誘ってみた。
声を聞いて咄嗟に言っていた。
実際、新しくできた居酒屋が気になっていた。
すでに行ったことのある友人から、リーズナブルで美味しいお寿司があると言っていた。
特に穴子が美味しかったと。
それに日本酒が合うと。
日本酒の好きなあいつの気晴らしになれば、と誘ったけれど、思いに反して断られてしまった。
興味があるので、行ってみたいけれど、今は余裕がない、と残念がっていた。
まだ初七日も終わっていないので、それが終わり、気持ちが落ち着いたならば行ってみる、と拒まれたのである。
まだ、完全に興味薄れている様子ではなかったので、そこは正直安心もした。
それでも、“気が落ち着いたら”というのが頭に引っかかってしまった。
そこでまた何か言えばよかったのだけれど、あいつは「じゃぁ」とどこか逃げるように通話を切ってしまった。
無理はするな、とだけでも言えばよかった、と叱咤したい。
一瞬、喜んでいたように聞こえたけど、まだ無理しているのは伝わってくる。
もう一度すぐにでも連絡したかったけど、執拗になるのもダメか、と。
このときは諦めた。
それでも、できる限り連絡を入れようと、心に決めた。
なんだっていい。
嫌われるかもしれないけれど、こちらから他愛ない話をしようと。
それであいつの気持ちが紛れるのならば、と願って。
魔法の言葉なんてない。
そんなことを少し考え出していた。