表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
綺麗事なんかキレイじゃない  作者: ひろゆき
1/26

 内山絢音の場合 (1)

        内山絢音の場合



 何、やってるのよ。

 スマホを眺め、彼と以前一緒に撮った写真を眺め眺めていました。

 心のどこかで約束をドタキャンされ、憤慨していたんです。

 子供みたいに無邪気に笑う彼を睨み、何度も心で罵っていました。

 それでも、彼からの連絡はなく、間の抜けた笑顔が憎らしいだけ。

 もしかすると、浮気でも……。

 と、正直不安が疑念を沸きたてていたときです。

 スマホが鳴ったのは。

 浮ついた声で、どんな言い訳をしてくるのか。

 浮気だったら許しませんどした。

 けれど、ただの寝坊であるならば、どんな言葉で反論し、その代償として何か美味しいものでも奢ってもらおうか、とスマホを眺めました。

 しかし、スマホに映し出される名前と番号を見た瞬間、私の頭に大きな“?”マークが何個も並んで踊ってしまいました。

「……絢音さん?」

 戸惑いながらスマホを耳に当てると、ある女性の声がゆっくりとしたトーンで、私の告げました。

 抑揚のない、落ち着いた口調。

 それが逆に私の不安と緊張を煽るのです。



 待ち合わせの場所は、バスのロータリーでした。

 手前の停留所の行き先は、地元では有名な神社へ向かうバスの停留所。

 ネットでは恋愛成就のパワースポットにもなっていると、噂が流れていたので、バスを待つカップルの姿も多かったです。

 恥ずかしいですが、私たちも以前にその神社に訪れたことがありました。

 そのときの光景がふと脳裏に浮かんでしまうのです。

 彼が照れながらも、お揃いの犬の形をした小さな置物を買ったのを。

 照れくさそうに笑う彼をなかば強引に誘ったのは私でした。

 頬を赤らめる彼の顔が浮かび、嬉しいはずなのに、笑うことはできませんでした。

「……はい。……はい。わかります……」

 自分の声がこんな声だったっけ、と浮ついた声が耳にへばりついてました。

 たまにカラオケに行き、自分の歌声に疑問を持ったときみたいに、返事はとてつもなくぎこちなく聞こえるのです。

 まるで、別人の声に聞こえるのに、周りの雑音がまったく聞こえなくなるほど、自分の声が鮮明に聞こえてしまいました。

 とてつもなく緊張した声が。

「……はい、お姉さん…… はい、大丈夫です」

 結婚、という漠然としたイメージが芽生え始めたのは数ヶ月前でした。

 まだはっきりとしたプロポーズを受けたわけではありません。

 それでも、このまま彼とずっと一緒にいられるんだ、と奇妙な安心感がありました。

 彼の実家にも何度かお邪魔したことがありました。

 彼は実家暮らしで、ご両親と、二歳上のお姉さんがおられました。

 初めて家にお邪魔したとき、とてつもなく私は緊張していたのですが、そんな私をご家族の皆さんは暖かく迎え入れてくださいました。

 そこで、お姉さんと連絡先を交換していました。

 それでも、まだ直接連絡をしたことはありません。

 やはり緊張してしまいますので。

 だからこそ連絡があり、驚きは隠せませんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ