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ラミエル現出

この後に続く物語に必要な話を「王旗を掲げよ~導きし光~」に記しています。


是非、そちらもご覧ください。

 

 身体を起こしたおれは、周囲を見渡した。

 門衛棟の中は闇に沈んでいる。夢も見ずに、ぐっすりと眠れたようだ。

 ベッドから出ると、音を立てないように武具を取って扉に向かう。


 来てくれた従僕たちに部屋は綺麗に片付けられ、落ちたカップや器に気を使うことはなかった。

 向かった扉は音も立てずに眼前で開かれる。

 カザムか。


 回廊に出ると扉は閉められ、

「主上、お早いですね」

カザムが頭を下げる。


 しかし、カザムはいつ眠っているのだろうか。


「ルーフスの具合はどうだ」

「はい。熱は下がり、痛みも治まったようです。もう少し休めば動けましょう」


 その場で防具を付けるおれを、カザムが手伝ってくれる。


「無理をすることはない。休ませてあげてくれ」


 腰に刀を留め、外套を羽織ると階段を下に向かった。


「昨日は大変だっただろう」


 カザムが苦笑する。

 おれはサラに絡まれ、レイムはカナンに絡み、そのとばっちりはカザムにまで及んだ。

 カザムが、サラとレイムに絡まれる姿は新鮮だったが。


「印綬の方々の飲食というのは、だいぶ想像とは違ったようでした」


 そうだろうな。あいつらには品性の欠片も感じられないのだから。

 階段を降りると城門に向かう。

 低く重く流れてくるのは、妖獣の唸り声だ。


 狭間に向かうと街道を見下ろす。

 紫に輝きだした空に、蠢く妖獣の姿がかすかに見えた。一体どれほどの数が集めっているのか。


「百頭は集まっているようです。場内からは討伐体も出せず、傭兵団もここを離れました」


 結界は機能しているようだ。


「もうすぐ日の出だな」


 カナンが門衛棟とは反対側から跳んで来た。


「どこかに行っていたのか」

「ここに強いルクスを二つ感じてな。見に行ってきたんじゃ」


 強いルクス。感じることは出来なかったが、商業ギルドのルクスの強い女性がいると聞いた。

 もう一人はイグザムだろうか。


「違うな。もう一人はエルミ種の女、商業ギルドの偉いさんじゃな」

「印綬の継承者に成りえるのか」

「一人はエルム種だから可能性はあるな。気になるか」

「それは気になる。藤沢の復活をお願いして貰わなければならない」

「そうだったな」

「それで、サラよりもルクスは強いのか」


 今の印綬の継承者の中では、サラが王へ一番近いはずだ。


「サラほどのルクスはそうそういないぞ」

「そうだろうな。淀みなく輝いて、真っ直ぐに伸びていた」

「ほう、そう感じたのか」

「何を言っている。カナンにルクスを分けて貰ってから見えるようになった」

「そうか、それは面白い」


 カナンは楽しそうな笑みを見せると、

「それよりも、準備は出来たか」

一変して鋭い目を目ける。


 準備。聞くまでもない、ラミエルとまみえる準備だ。


「万全だ。覚悟はとうに固まっている」

「そうか、他の者も万全のようだな」


 カナンの視線を追うと、階段を降りるサラたちが見えた。

 昨日の醜態が嘘のような、完全武装の凛々しい姿だ。

 それに合わせたように門塔が開き、白い甲冑と外套を身に付けたアベルたちも出て来る。

 その中から走り寄って来たのはルーフスだ。


「主上、昨日はご迷惑をお掛けしやした。おかげで、動けるようになりやした」


 まだ顔色は悪いが,昨日のようなどす黑さは抜けている。


「おれに気は使うな。それに、礼はこのカナンとレイムに言えばいい」

「ありがとうございやす、カナン様」


 再びルーフスが頭を下げ、こちらに来るレイムに向かう。


「ルーフス、無理はするな」


 その背に声を掛け、街道に目を戻した。

 東の端を彩っていた紫色の光は赤く変わり、朝焼けを空に広げている。


「早いな、隆也」

「サラたちこそ、昨日の酒は抜けたのか」

「そこまで飲んではいない」


 そこまでって、普段はどこまで飲むのだよ。


「よくもまあ、妖獣も集まったものだな」


 サラも狭間に身体を預けた。


「しかし、隆也には隠れていてほしいのだがな」

「おれでないとラミエルを誘導出来ない」

「誘導、もしそれが出来なければ門衛棟に隠れて」


 シルフが冷たい声で言う。

 信じてないな。まあ、信じられないのも無理はないかもしれないけど。


「構わないさ。とにかく討伐は打ち合わせ通りに」


 おれの言葉にカザムが頷いた。


「頭に入れておくが、無茶はするな」


 カザムたちと違ってサラたちは真剣には聞いていない。


「まあ、そうしておこう。それよりも、坂本を頼むぞ」

「それはしっかりと守るさ。それよりも隆也は、もし誘導が出来てもそのまま隠れろ。後は我らでやる」


 隠れるか。広場に秘密の地下道はありそうにないし、どこに隠れろと言うのか。

 門衛棟になんか行けば、ラミエルを連れて行くようなものだしな。


「まあ、ゆっくりと手順を確認すればいい」


 取りなすようにアレクが口にした瞬間、街道の中心、城壁の側に光が集約した。

 ルクスの輝き。

 赤黒い靄を纏いながら強い光が迸り、天に伸びていく。


 全身が総毛立った。なんつうルクスの強さだ。これが、ラミエルの本当の力。

 これまでの比ではない。昇った光は天を支える柱のようだ。 

 隆也は咄嗟に狭間の陰に身を隠した。


 ラミエルもこの側におれがいることは気が付いているはずだ。しかし、その正確な位置までは把握していない。

 把握をしていれば、いつもすぐ近くに現出して捜すまでもないはずなのだから。

 妖獣の唸りと鈍い斬撃の音が幾重にも響きだした。


「主上、そのまま姿勢を低くして下さい」


 音に重なるようにカザムの声が聞こえ、僅かに一呼吸を置いて爆発音が身体を揺らした。

 これは――立ち上る煙が見えた。

 場所は二箇所、門衛棟から居館へと続く回廊とカザムたちとは反対側の門塔だ。アベルたちが爆破したのだ。


「これで、この騒ぎに乗じてイグザムの軍も動けません」

「思い切ったことをするものだな」

「主上に教えて貰ったことです」


 そんな物騒なことは教えてないよ。


「ラミエルの動きは」

「ほぼすべての妖獣を狩りつくしています」

「サラたちの動きはどうだ」

「広場で体制を整えていますが、周囲の傭兵団も体制を整えだしています」


 この機会に、印綬の継承者を誰か一人でも討つ気か。それならば、時間もないな。

 立ち上がると、城門の上からラミエルを見下ろした。

 漆黒の影もこちらを見上げる。やはり、意見が合う。

 そのまま広場に下がると、追うように城門が吹き飛ばされた。


読んで頂きありがとうございます。

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