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ルクスの穢れ

 

「主上、自分はルーフスと話がありますので」


 門塔の扉を開けるとカザムが耳打ちした。そうだな。ルーフスとは話さないといけないな。


「頼む」


 カザムに言葉を掛けて門塔を出ると、大きく傾いた陽に館は紅に染まっていた。

 その回廊の中央に、ラムザスが立っている。彼はおれを見るなり手を上げた。


「わざわざ迎えとは、どうしたのだ」

「客を探りには来なかったようなのでな」

「任せると言ったはずだ。それで、話は付いたのか」

「話か、イザベルという重商連合の女に会ったが、あれはただ者ではないな」

「どういうことだ」

「香水で胡麻化しているが、血の匂いがする。我はルクスを見れないが、さぞや赤く染まったルクスだろう」

「血で、ルクスは赤くなる。紅い靄のようなものか」

「そうだ」


 不意に声が聞こえ、階段の上から降りてくるのはレイムだ。


「紅い靄とは、本当にルクスが見えるのだな」

「傭兵たちのルクスにも、紅い靄があった」

「ルクスは心の光だからな。無垢の者を殺せば、心に赤い穢れが刻まれる。それが多ければ靄に見えるだろう」


 レイムが目の前まで来ると腕を組んだ。

 以前にカザムに聞いた、心の光。しかし、その詳細をカザムは知らず、カザムのルクスにも見えていた黒い靄のことは、本人にはとても聞けなかった。


「どうしてここに、食事をしているのではないのか」


 そのレイムにラムザスが尋ねる。


「サラたちが隆也を待つと言うのでな、さっさと来させるように迎えに来た。隆也が来なければ林檎酒も飲めん」

「分かったよ。急ごう」


 階段に向かう。


「それと、黒い靄は何だ」


 レイムならば、詳しく知っているはずだ。


「ルクスのか。黒い靄は心の穢れだ。創聖皇の心、良心ともいうがな、それに少しでも負い目があると黒い穢れが現れる。行動を改めれば穢れは消えるが、意図的に人を傷つけ、罪を行う者は穢れが刻まれて消えることはない」


 その言葉に、胸をなでおろす。カザムたちの黒い靄は消えていた。人を傷つけておらず。行動を改めたのだ。


「もう一つ、ルクスの揺らめきは何だ」

「言っただろ。ルクスは心を現す。揺らめきはそのまま、不安と動揺だ」


 そうか、彼らに不安はなくなったのか。いや、腹をくくったと考えたほうのがいいのだろう。


「しかし、そんなものは見えぬ方がいい。生きづらくなるだけだ」

「ここで暮らすならばだろ。おれたちは故郷に帰る」

「そうだったな」


 階段を上ると、レイムは手をかざして門衛棟の扉を開いた。

 サラたちと騎士がそれぞれのテーブルに着き、湯気を立てる皿を前に座っている。

 本当に待っているのか。


「隆也はもう、仲間だからな」


 仲間か。藤沢と坂本以外に言われるのは初めてだな。その坂本は、隅の机でまだ書き記してる。隣に添えられた小さなテーブルには、小分けにされた料理が置かれていた。


「集中しているようなのでな。レイム殿が結界を張っているそうだ」


 アレクが顔を向けた。


「何の結界だ」

「向こうの声は聞こえても、こちらの声は聞こえない。」


 空いているサラの横に腰を下ろすと、その前にレイムが降りて来た。


「坂本に用事があれば声を掛けられるけれど、騒ぐ声は聞こえないのか。だけど、ずっと書いているのだな」

「あぁ。凄い集中力だ」


 サラが回ってきたパンを置く。

 いつもの黒パンに豆のスープ、一つ増えているのが、何の肉かは分からないが、肉の塊の入った煮込み料理だ。

 この食糧事情は、リルザ王国の援助なのだろう。


「そろったことだし、これで林檎酒が飲めるな」


 レイムがカップを手に取る。サラたちの手元にカップはなかった。


「飲まないのか」

「いつラミエルが現出するかは分からない。わたしたちは口にしないさ」


 ラミエルの現出、確かにいつ現出するのかは分からない。


「そうだな」

「それで、ラミエルをどう討つかだ」


 アレクが顔を上げる。


「強くなっている。技を身に付け成長しているな」

「戦斧に、精妙な動きがあった」


 ラムザスの言葉に、シルフも頷く。


「四人で斬りかかっては動きに制約が出る。二人一組で交互に叩く方がいい」

「しかし、ルクスの強さ、技の鋭さ。すぐに押されてしまうぞ」


 アレクの言葉に、ラムザスが考え込むように天井を見上げた。


「それでも、あの速さに対抗するには、人数は少ない方がいい。二人で挟撃するのが得策」


 シルフの声を聞きながら、パンを取る。

 彼らの戦いに、おれは入れない。足を引っ張ってしまうだけだ。しかし、おれにしかできないこともある。


「それで、坂本はここで騎士に護らせるが、隆也はラミエルを誘導すると言っていたが」


 サラが顔を向けた。


「どこに現出しても、この館に誘導する」

「どうやって誘導するのだ」

「姿を見せれば、勝手に追って来る」

「追って来るって、そんなことがあれば死んでいるぞ」


 カップを抱えたレイムが向き直った。


「何とか生きているさ。それより、サラはカザムたちをどう思う」

「カザムか、そういえば姿が見えないな」

「ラミエルを誘導する準備をして貰っている」

「なるほど、有能なアセットだ」

「そして、ルクスに穢れはない。国のために使えないか」

「彼ら、シムグレイ一族をか」


 考え込むサラに、

「しかし、王宮にもアセットはいる。余計な摩擦が起きないか」

レイムがカップを抱え込みながら目を向ける。


「だが、あれだけの人材を埋めておくには惜しい。特に、これからの国造りには必要だ」

「確かに、これだけ荒廃した国土を立て直すに人手はいるな」


 おれはサラに続けた。


「そのことも考えておいてくれ」



読んで頂きありがとうございます。

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