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現出周期

 

「隆也、もういいぞ」


 レイムの言葉に、表に出る。 

 ゲートの一部は大きく崩れ落ち、守備兵の詰め所も崩れた石に埋まっていた。


「ラミエルは、あっさりと引いたな。ラムザス、坂本を馬車に案内してやれ。すぐに出るぞ」

「分かった」


 レイムの言葉に、ラムザスが長剣を肩に歩み寄って来る。


「おれもすぐに行く。先に休んでおいてくれ」


 血に濡れた瓦礫を見せないようにし、おれは坂本をラムザスに託した。

 その背を見送り、崩れ落ちた石に腰を下ろす。


 その傍らに、

「先ほどは、失礼いたしました。主上」

カザムが膝を付いた。


 先ほどの――レイムとの諍いのことを言っているようだ。


「おれは何を言われても構わない。カザムがそれを気にするな」

「ですが、主上」

「カザムが命を懸けるのは、民のため、国のためだ」


 カザムは考えるように一瞬の間を置き、

「承知しました」

頭を下げる。


 あの時、刀に手を掛けた瞬間に刀が抜けることが分かった。

 抜けるということは、命を掛けての斬りあいになるということだ。


 おれ自身、カザムがおれを思う気持ちで覚悟を決めた以上、それ相応の対応をしなければならないと思った。

 カザムとシルフ、互いに本気になっている中、馴れ合いでは止めることは出来ないと思った。

 そして、刀が抜けることを知ったのだ。


 自然に腹は固まり、言葉になった。

 しかし、この刀は本当にサラたちと、印綬の継承者たちと戦うために抜けるようになったのだろうか。

 それとも、後から現出したラミエルを予測したのだろうか。

 思わず深い息が漏れる。


「それより、ここの状況はどうだ」


 顔を上げた。


「ラミエルは、派手に暴れたようです。守備兵が数人やられましたが、幸いなことに翡翠亭に被害はありませんでした」

「殺されたのは、守備兵か」

「はい、現出時に三人がラミエルに殺され、六人が負傷です。すぐに印綬の方々が応戦しましたので、被害は抑えられました」

「サラたちも無事のようだな」

「はい。ラミエルが消えたのは、以前よりも早かったようです」


 膝を付いたまま答える。


「消えたか。とにかく、ここにカザムも座れよ」


 どうも、足下に控えられれば、話しづらい。どうにかなららいのだろうか。


「いえ、主上」

「いいから、座れって」


 その言葉にやっとカザムが立ち上がり、隣に腰を下ろす。


「ラミエルがすぐにいなくなると、良く分かったな」

「自分には、ラミエルが主上を狙っているように思えました。その為に、主上の姿が見えないと消えるのではないかと考えただけです」


 そうだ。イリスの山で確かにラミエルと目が合ったと確信した。そして、真っ直ぐにラミエルは追ってきたな。

 おれとラミエルは意見が合う。どちらも共に狙っている。


「なるほど。しかし、おれを襲う理由はないはずだが」

「主上は家の蔵と一緒に転移をしたのですよね。その時にもラミエルが襲ってきたとか」

「そうだ」

「ラミエルを動かした者が、蔵か聖符の周辺にいた者を誰でもいいから殺せと指示したとしたら、どうでしょうか」

「印綬の継承者を殺せではなくか」

「はい。そして、ラミエルが狙った相手がたまたま主上だったと」


 ラミエルに指示を与えた者か。


「自分は、そのような曖昧な指示を出す者を一人、知っています」

「イグザムのことか」

「その通りです。しかし、イグザムにそのような力はありません。その背後にいるのがリルザ王国、あるいは重商連合」


 一族の中でカザムの評価が高いのも分かる。これだけの推察が出来るのならば、信頼も厚くなるはずだ。


「分かった。ところで、おれも一つ思ったことがある。ラミエルの現出には、一定の周期があるように思える。それはルクスの消費ではないかと」

「どういうことですか」

「今になって思うが。カザムが言った一番最初に現出した時、この世界に召喚されたおれの家の蔵をルクスの力で押し戻そうとしたらしい。そして、ラミエル自身も転位した。その四日後に、ラミエルは現出した。その時は、おれも含めて印綬の者を別の場所に吹き飛ばした」

「自分が、主上と出会う前ですね」

「そうだ。そして廃棄された集落で現出し、転移した。その三日後に、イリス山での現出。その現出日数のずれは、もしかすればルクスの消費量に関わっているのではないか」

「ルクスの消費量ですか。では、削られたルクスの補充にかかる日数だと」

「トリルト関で、ラミエルのルクスは大きく削れた、その為に今の現出に五日かかった」

「ルクスの補充か。確かにそうかもしれないな」


 目の前の瓦礫の上にレイムが立つ。


「本当に二度、ラミエルと遭遇したのだな」

「そうだ」

「では、この次の現出はどう見る」

「三日以内」


 その言葉に、レイムが笑った。


「あたしも同じ考えだ。天意を実現させるに、残りの日数を見ても次の現出まで時間はない。すぐに動くぞ」


 レイムが視線を移した。その先に馬車が引き出されるのが見える。

 しかし、急ぐと言っても領主館までは半日の距離のはずだ。


「ラミエル現出の後は、妖獣が溢れただろう。ラミエルは妖獣を引き寄せるからな」


 そうか、確かにそうだ。ラミエルの現出に妖獣は集まっていた。


「ここも同じだ。ゲートの補修は間に合わないので、バリケードを築かせる。その前にここを出なければならない」

「では、主上。自分も馬を用意します。レイム殿、主上を頼みます」


 カザムが立ち上がり、レイムに頭を下げた。

 あの部屋での諍いは、カザムも水に流したようだ。この切替の速さも、死生観によるものなのだろうか。


「待て、おまえも一緒に馬車に乗れ。領主館での確認をしたい。あたしもサラと一緒にそっちの馬車に合流する」


 そのカザムにレイムが笑顔を向ける。


「ですが、自分も馬車が」

「構わん、置いておけ。この先、必要はなかろう」


 レイムがそこまで言った時、不意にその眼前に光が集束する。

 ルクスの光。思う間もなく小さな人影が現れた。

 エルフだ。深紅の短衣を身に纏った男のようだ。


「よくここに来られたな、ライラ」


 レイムの吐き捨てるような声が響く。


「いやだなぁ、僕も大変だったんだよ。それに、さっきのはラミエルだね」

「関係なかろう、国を売る愚か者には」


 その言葉に、ライラは大きく肩をすくめ、


「この国は自力で復旧するには疲弊し過ぎているよ。だから、僕は民のことを考えたんだ」


 笑顔で答えた。

 レイムは顔を向けてもいない。


「民のことを考えるならば、まずは王を立たすべきだろう」

「いや、だからね」


 言葉に重なるように、レイムの足元にある瓦礫が爆ぜた。

 小さく砕かれた破片は、幸い身体を包むルクスに弾かれて当たることはない。そして、誰がそれをやったのかも分かった。

 レイムの全身から怒りが噴き出ているのだ。


「あたしたちを外西守護地に入れないだと。民の為に王は立たぬがよいだと」

「いや、だから」

「あげくに、障害なく関を抜ければ探りを入れに来たのか」

「いや、だか――」

「創聖皇の伝言者であるべきエルフが、創聖皇の意思に背くは、天逆だな」

「少しは僕の話すも聞いてよ。僕も騙された被害者だよ」


 ライラの叫ぶような声に重なって、

「隆也、馬車が出る」

サラの小さな声が肩口から掛けられた。


「分かった」

「これは時間がかかりそうだ。わたしたちは先に出る。レイムは転移して追ってくるだろう」


 そうだな。レイムは転移が出来るのだから、ここをバリケード閉鎖しても問題はない。それに、二人のやり取りで状況は把握できた。


「ここから先は、わたしたちが護る。ゆっくり休め」


 サラが手を上げて真獣に向かい。隆也は馬車へ足を進めた。

 開かれた扉から坂本が大きく手を振っている。だいぶ元気になったようだ。

 あと少しだ。あと少しで帰られる。



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