表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/114

国の在り方

 

 翌朝、日の出と共に通りは喧騒に満ちた。

 担架に乗せられた怪我人が列をなし、彼らを運ぶために、馬車から荷物を下ろすように指示する衛士と抗う衛士が、怒鳴り合っている。

 通りの奥に進むのは、外壁補修の職人だろうか。


 宿を出ると周囲を見渡す。妖獣の死体は片付けられてはいたが、血は石畳にこびり付き、異様な匂いを放っていた。

 公設浴場の残り湯を撒いているようだが、洗い流すまでには至っていないのだ。

 通りに並ぶ馬車は怪我人を満載し、順次動き出していた。


「次の街道駅までは、歩くしかないな」


 カザムが呟く。

 確かにそうだ、とても乗られそうな馬車は見られない。


「大丈夫だ。次のサザリナ街道駅の治療院に大半の怪我人は運ばれる。そこにならば、馬車の空きが出来る」


 カザムに続いて、隆也も通りに足を進めた。

 街道に出ると、西に向かう。

 しばらく歩くと,ザクトが袖を引っ張った。


「お兄ちゃん。今度、おいらにも剣技を教えてくれよ」

「おれも、剣に教えて貰っているところだ」

「おいらのタガーは教えてくれないよ」


 楽しそうに笑う。次の街道駅までは三、四時間かかるがザクト達は苦にも思っていないらしい。

 傍らを追い抜いて行く何両もの馬車が過ぎると、街道に人の姿は見えなくなった。

 葉を落とした木々が寒そうに並び、街道は遥か先まで伸びているだけだ。


 いや、その先から一両の馬車が見えた。

 二頭の馬が引いているのは、小さな窓が付いただけの馬車。傍ら通り過ぎるその馬車の窓から、空に向けて小さな手が伸びる。

 何だ。


「あの馬車は」

「鉱山での労働者。エルグの奴隷を運んでいる」


 当然のようにカザムが言い、ザクト達も普通に馬車を見送るだけだ。

 奴隷、何だこれは。この世界には普通に奴隷がいるのか。

 そこに疑問もないのか。

 感覚は中世のそれなのか。


「ところで、隆也」


 その中をカザムが身体を寄せてきた。


「人の尊厳の話をしていたが、公領主に虐げられる民の尊厳は、どうすれば守られるのだ。公領主の横暴は、創聖皇ですら咎められない」


 遠まわしにイグザム公のことを言っているのだろう。イグザム公との確執に根深いものがあるようだ。

 しかし、尊厳を考えるならば、奴隷制についても同じだ。

 この腹立たしさは何だろうか。


「守護領地自体を廃すればいい。公領主など排除すればいい。そして、奴隷を開放するべきだ」


 おれの言葉に、カザムが苦笑を漏らす。


「子供のような事を。守護領地制は国の基盤だ。それを廃することなど出来るわけがない。奴隷もいなければ鉱山も成り立たない」

「創聖皇が咎められないというのは、王に国の全てを任せているからだ。公領主の存在を創聖皇が認めていないからだ。そして、奴隷も理にはなく、創聖皇は認めていない」

「認めていない」

「認めていない者を咎めようがない。創聖皇が認め、国を任せているのは王一人。全ての罪が王に帰すなら、王は国を一元管理する責任がある。奴隷を送る国にも王の責任は問われるはずだ」

「確かに、そうかもしれない。エルグの国は王の在位は短いと聞く」


 カザムの声が震えた。


「公領主の制度も同じだ。創聖皇の意思に反している」

「創聖皇の意思に反する、天逆か」


 カザムの足が止まった。

 そのカザムを置いたまま、隆也は足を進める。

 そういう風に国が変われば、この世界ももう少し住みやすくなると思う。

 日本の制度が全て正しいのかと云われれば疑問だが、この世界よりも確実に進んだものだ。


「この制度は、かつての賢王、そして今は三帝の一人サリウス帝が定めた制度だ」


 再びカザムが肩を並べてくる。


「王の威光も、新たな取り決めも、国の隅々まで届けるための制度だ」

「その結果が、これなのだろう。ならば、国の全土に意思を伝える官吏を置き、法も教育も税も統一する。王の元に、全ての民を公平にする」

「全てを公平に。ルクスの大小による区分は、どうするのだ」

「ルクスの大小は、人の優劣なのか」

「いや、人の意識の大きさ。器の大きさだ」

「器の大きさを表すというならば、公領主の器は大きいのだろう。なぜ横暴なのだ」

「それと清廉さは、別だからだ」

「答えが出ているじゃないか。ルクスの大小は一つの目安に過ぎない」


 その目をカザムに向けた。


「本当にルクスの大きさだけで区分するならば、ラミエルを王にすればいい」


 その言葉にカザムの足が遅くなる。

 何か考え込むように腕を組み、何度も頷いていた。

 最初に見せられた六種十国の理。あれが、この世界の基本であり、全てなのだろう。


 そこに、人はそれぞれの解釈をし、慣例を作った。

 今はそれに思考も行動も縛られているように思える。そして、その慣例にこそ既得権益が張り巡らされているのだろう。

 次の王になるサラも大変だ。

 あの性格ならば、官吏と折り合いが付けられそうにない。


「ねえ」


 袖を引かれ、視線を落とした。


「守護領地がなくなれば、関もなくなるの」


 ミリアが尋ねる。カザムとの話を聞いていたようだ。


「同じ国の中で、関は必要ない」

「じゃあ、外西にも開学が出来るの」

「開学というのは、何だ」

「幾つもの集落で作っている学院だよ」


 ザクトが答えた。集落が集まって運営する、公立学校のようなものなのか。


「外西守護地に、その開学はないのか」

「公貴の学院はあるけれど、開学はないの」

「それでは、外西守護地ではどうやって学ぶのだ」

「読み書きはお母さんに教えて貰った。それからすぐに、外東に行ったから」

「開学では、計算を教えて貰ったりするんだ」


 ミリアの言葉に重ねるように、ザクトが言う。


「そうか。では、ザクトとミリアは計算が出来るのだな」

「少しはね。でも、難しいよ」

「次の王様が、きっと全ての場所に開学を作ってくれる」

「でも、開学って集落が無料で開いてくれるんだよ。王様が命令すれば、出来るのかな」


 なるほど、開学というのは寺子屋みたいなものか。

 いや、寺子屋も家庭によって払える分だけお金を支払う。完全無料ではなかったはずだ。


「それは凄いな。だけど、子供を教えるのは国の役割だから、王様が無料の学院を作ってくれる」

「本当にかい。そうなったら凄いよな」


 二人が嬉しそうに笑いだす。

 小学生の頃に学べる喜びなんて感じたこともなかった。

 学校は、あって当然のものでしかなかった。

 だけど、そこで藤沢と坂本に会えたのだ。そして、同時に藤沢の死が、脳裏によみがえる。


 おれが大きく息をつくと、

「少し休もう」

いつの間に来たのか、カザムの声が聞こえた。


 そうだな、少し疲れた。見上げると、太陽は高く昇っている。


読んで頂きありがとうございます。

面白ければ、☆☆☆☆☆。つまらなければ☆。付けて下さるようお願い致します。

これからの励みにもしますので、ブックマーク、感想なども下さればと願います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ