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外伝⑤ 王権移譲


 翌朝、馬車を降りると陽光に青く輝く王宮をおれは見上げた。

 エリス王国王宮、瑠璃宮と呼ばれているそうだ。

 その大きな門の前には、煌びやかな刺繍に飾られた長衣を身に纏った壮年の男たちが並んでいる。


 しかし、その豪奢な衣服とは対称的にこの立ち昇るルクスは何だ。

 赤黒く汚れたルクスは、殺人も厭わない反社の組織のようだ。国の中枢がこれでは国は沈む未来しかない


「サラ。カザムたちは潜り込めたか」


 掛けた言葉に、サラが身体を寄せる。


「大丈夫。わたしの遠縁の者の従者として王宮清掃人に推挙した。困窮する公貴も多く、立場を利用したわたしの横槍としか見ていないわ」

「それで、どう」


 シルフが後ろから声を潜めて尋ねてきた。

 息を付いて振り返るとラムザスたちも興味深そうにこちらに目を向け、レイムは空を見上げている。

 何を聞いてきたかは、その様子を見れば分った。

 門に目を戻す。


「酷いものだ」


 ルクスの穢れのない者を探すが、見当たらないほどだ。エリス王国の王の在位期間が短いのも納得できる。

 王宮の改革では済みそうがない。組織の改革と同時に、やはり彼らを一新しなければならない。


「用意した政務官を呼び寄せる」

「まあ、それは王権移譲を終えてからだな。帰還に時間が掛かり過ぎた、すぐに転移門も開く」


 レイムが横に進んでくる。


「反対ではないのか」

「これを見たらな」


 レイムもここまで酷いとは思ってもみなかったのだろう。しかし、準備した政務官では、とても足りそうにない。


「隆也様」


 門から駆け寄ってくるのは、小太りの老人を先頭にした一団だ。

 膝を隠すほどの上衣には、眩いほどの刺繍が施された政務服を纏い、満面の笑みを浮かべた臨時王宮の内務大司長、バウムだ。


「お急ぎください。もうすぐ、転移門が開くと連絡が参りました」


 すり寄ってくるようなバウムに、おれはルクスを開放した。

 同時に悲鳴が上がり、バウムの足も叩きつける威圧感に押されるように下がった。

 これが、バウムに対するおれの返事だ。

 その赤黒いルクスで、おれに近づくな。


「隆也よ、相変わらず凄まじいな」


 後ろからラムザスの呆れた声が流れてくる。


「今に始まったことではない。それに、王の威厳も見せなくてはいけないだろう」


 サラが足を進めて横に立ち、

「隆也王。王宮門の解放をお願い致します」

優雅に一礼した。


 まだ、王権移譲を受けていないために、おれを王と呼ばなかったバウムに対する当てつけのようだ。

 それに倣うようにラムザスたちも礼を示して来る。

 何だよ、それ。そんなことを気にするおれじゃないさ。


 おれは腰を落としたバウムたちの横を抜けて、門へと足を進めた。

 しかし、王宮と言うのは本当に大きなものだ。

 門だけで、三十メートル以上はある。


「手を当てるだけでいいぞ」


 レイムの言葉に、門に手を当てた。

 次の瞬間、ルクスの光が門を駆け抜け、音もなく内側に開かれていく。

 そこから見えたのは、石畳の通路を挟んで左右対称に樹々の植えられた庭園だ。


「王宮が閉鎖されて、三十年近くたつのではないのか」


 樹々は剪定されたばかりのように見え、庭園には落ち葉も見えない。


「閉鎖と同時に時間も凍結。当然のこと」


 シルフが呟くように答えた。

 当然、それは常識なのか。時間凍結って、時間を止めることなのだろう。それが、常識ってどんな世界だよ。


「こんな世界さ」


 心を読んだように、レイムが笑う。

 こんな世界ね。やはり、よく分からん世界だ。


「それで、どこに行けばいいんだ」

「そら、迎えが来たぞ」


 レイムの視線の先に、蒼いルクスの光が見えた。

 王宮から真っ直ぐに飛んでくる。

 あれは、見たことがある。確か、ライラとか言っていた少年のエルフだ。


「遅いよ、何をしていたんだよ」


 ライラは目の前で止まると腕を組む。

 赤い上着と半ズボンはどこか色褪せて見え、以前よりもやつれているようだ。


「何って、決まっておろう。様々に手配をしながら帰還したんだ」


 レイムがライラの前に進むと空中で仁王立ちになった。


「手配って、王権移譲の日時はレイムにも伝わっているだろう」

「レイムさんだろう、言葉に気を付けろ行儀見習い」


 その言葉に、ライラの手が震える。

 そうだ、ライラは三帝の一人、カナンの元で行儀見習いからやり直しているのだ。なるほど、それでやつれているのか。


「それにな、分かっているからこそ、帰って来たじゃないか」

「もう、そんなに時間がないんだよ」


 最後の抵抗のように叩きつけるように言うと、ライラはそのまま王宮に戻っていく。


「まだまだ、修行が足りないな。さあ、あたしたちも行こうか」


 勝ち誇ったように言いながら、レイムも王宮に向かった。

 おまえも行儀見習いが必要じゃないのか。

 通りを進むと王宮が見えてくる。


「それで、王権移譲とは何をすればいいのだ」

「簡単だ。広場があるから、隆也はその中心にまで進むといい。後は創聖皇からお言葉を授けられて終了よ」


 そうだ。中ツ国という所で、創聖皇と会うのだ。


「お言葉って何だよ」

「国の指針だな。国をどう導くか、それを伝えられる」


 アレクが肩を叩いた。

 お言葉か。


「いいか、隆也。王権移譲には、三帝も現れる。行儀よくするんだぞ」


 何だよ、行儀良くって。

 おれは子供なのか。


「それよりも、そろそろ王宮官吏たちが追い付いてくる。言葉使いを改めないとな」


 ラムザスが王宮の前で足を止めた。

 車寄せのような広いポーチの奥に、蒼く輝く扉。

 ここが王宮の入り口だ。


 再び扉に手を当てる。

 同じように青いルクスの光が走り、扉は開かれた。

 奥に続く廊下に明かりが浮かび上がり、高い天井と長い廊下が浮かび上がる。これも、自動のようだ。


「中ツ国に続く転移門は、地下にある。この先の階段から下に降りるぞ」


 レイムが自分の家のように先に飛んで行く。

 創聖皇。

 まだ何も知らない頃、サラに頼んだな。創聖皇に会うならば、藤沢を生き返らせておれたち三人を元の世界に戻してくれと。


 でも、それも創聖皇の計画だった。

 おれは目の前で、腕の中で、藤沢と坂本の二人を失ったのだ。

 神様だろうが、会えば言いたいことはある。


 行儀が悪いと言われようが、関係あるか。


読んで頂きありがとうございます。

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