03.メイドの仕事その1。着替えのお手伝い。
翌日朝。
「あまり寝れなかった……」
とはいえ、起きないわけにはいかない。
今日から仕事なのだから。
俺は、起きて使用人服に着替えた。
鏡を見て乱れがないか確認した後、俺は自室を出る。
もちろん、廊下へ通じる扉の方だ。
「十分の遅刻ですね」
扉の前に立っていたのは、黒川さんだった。
「え、お嬢様が起きられる時間五分前ピッタリのはずですが……」
「それより少し早く部屋に入って支度をするのです。あと、お嬢様の事はちゃん付けで呼んでいいとご本人から言われたはずですが?」
「え?普段からそう言ってもいいんですか」
「はい、構いませんよ。ただし、外出時やお客様がいらっしゃった時等、TPOを考えて発言してくださいね」
「了解しました」
意外だ。
こっそりとならいざ知らず、普通にちゃん付けでいいとは。
っていうかいつ一花ちゃんがちゃん付で呼んでいいって言ったの知ったんだこの人。
……まぁいいや。
それより仕事仕事。
ん?
「あの、支度ってなんの支度ですか?」
「やれやれ。着替えの服の準備に決まっているでしょう」
「ああ、そういう事ですか」
そうか、俺は朝起こせばいいと思っていたが、休日とはいえそういった準備もいるんだ。
つまり、今後は一花ちゃんが起きられる時間よりある程度早く起きて、着替えの服の準備をしなきゃならないのか。
一花ちゃんを起こす時間は聞いていたけど、そこまで頭が回らなかった。
まぁ、鍵無扉を使えば起こさないように入って準備とかも出来るか。
「まぁ、今日は初日ですし、私の説明不足もありましたから、不問としましょう。ですが、毎回指摘する事は出来ませんからね。可能な限り今日で仕事を覚えてください」
「はい……申し訳ありませんでした」
「では、お嬢様を起こしに行ってください」
「はい、わかりました」
そう言うと、俺は隣の部屋へ行くと、一花ちゃんの扉を叩いた。
「一花ちゃん、朝です。起きてください」
「はーい、起きてまーす!どーぞ」
黒川さんを見ると頷いたので、俺は一花ちゃんの部屋に入った。
「お兄ちゃん、おはよー!」
一花ちゃんが俺に抱き着いてきたので、俺は倒れかけたが、黒川さんが支えてくれた。
「すみません」
「困りますね。足腰を鍛えてください」
「ねぇねぇ、お兄ちゃん、このパジャマどぉ?」
黒川さんとの会話に割って入った一花ちゃんのパジャマは、ピンク色の可愛い物だった。
「うん、とても可愛いよ」
「ありがとう!じゃぁお願いね」
「?」
そう言って一花ちゃんは俺からちょっとだけ離れた。
お願い?何を?
「お着替えの手伝いですよ」
「……は?」
黒川さんが助け船を出してくれた。
でも、着替えの手伝いって……
え、服の準備だけじゃないの?
漫画とかでよくある、メイドがお嬢様の服を着替えさせるやつもするの?
「いやいやいや、俺、男ですよ。そりゃ、メイドですけど」
「どこに問題があるのですか?申し訳ありませんが、私にはわかりかねます」
「ですから、男が、十歳の女の子の服を着替えさせるなんて」
俺は一花ちゃんに聞こえないように言ったが、黒川さんはため息をついた。
「あのですね、女の人が女の子の服装を着替えさせるのは問題ありませんよね」
「はい」
「でしたら問題ありません。今の時代、男女平等ですから。女性がやっても問題ない事は、男性がやっても問題はないはずです。問題視するという事は、差別につながります」
「いや、それはオーバーでは?」
「別の言い方をしましょうか?服を着替えさせるのは、メイドとして当たり前なのです。そして今のあなたはメイドです」
「それは、メイドは女の仕事だから」
「それは性別による差別です。昔ならいざ知らず、男がメイドをやっていはいけないというのは問題発言です」
「いや、でも……」
「今、あなたがしているのは差別行為です。今後は注意してください」
「……はい」
「だいたい、あなた以上の年上の男性が、一花様より幼い少女を着替えさせる事など、よくある事ではないですか」
「……あの、それは親子なのでは?」
「同じ事です。いずれにしても、一花様の命令に従う事があなたの仕事です。頑張ってください」
「……わかりました」
納得は出来ない。
でも、仕事である以上、やるしかない。
「では、私は替えの下着と服を出しますね。これは本来あなたの仕事ですが、今日は特別です。明日はお嬢様を起こす前に、あらかじめ準備してくださいね」
黒川さんは引き出しの方へ歩いて行った。
俺はというと、まずはこれから着替えをするからという事で、一応鍵をかけた。
「じゃぁ……お兄ちゃん、よろしくね」
一花ちゃんは恥ずかしそうにそう言うと、俺の前に来た。
「じゃ、じゃぁ、上から……」
俺は、ボタンを上から一個ずつ外していった。
一花ちゃんの顔が傍にあるから、一花ちゃんの顔がよく見える。
一花ちゃんの呼吸がよく聞こえる。
はぁ、はぁという呼吸がよく聞こえる。
恥ずかしそうな一花ちゃんは、顔を真っ赤にして俺の方を見ている。
俺は、ボタンを全部外すと、上着を脱がした。
一花ちゃんの上半身は、シャツだけになった。
「えーっと、じゃぁ、他は自分で」
「どうして?」
いやいやいや、さすがに下は
「ごめん、それは無理なんだ」
「……」
一花ちゃんは、しばらく黙ると、急に、泣きだした
「一花ちゃん?」
「やっぱり恨んでるんだ。一花の事が嫌いなんだ」
「ちょっ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
一花ちゃんは泣きながら謝って来た。
黒川さんの殺気が伝わってくる。
黒川さんは俺からは見えない位置にいるが、それでも恐ろしい殺気が伝わってくる。
殺気って見なくても分かるんだって初めて知った。
「一花ちゃん、嫌ってないよ、一花ちゃんの事が大好きだよ!」
「嘘だ!だって着替え手伝ってくれないもん!!」
「わかった、やる、やるから」
「本当?」
参った。
一花ちゃんにとってこれは当たり前の事なんだ。
黒川さんも止めてこないから、この行為はOKなのだろう。
もう、やるっきゃない。
「じゃぁ、次はズボンいくね」
「うん……」
おれは、一花ちゃんのズボンの左右の腰の部分を左右の手で掴むと、そっと下ろした。
白いパンツが見え、膝が見えるようになった。
慣れないからゆっくりになってしまったけど、下までおろすと一花ちゃんが片足ずつ挙げてくれたので、ズボンを脱がす事に成功した。
一花ちゃんは、シャツとパンツだけで立っている。
一花ちゃんの顔は今までにないくらいに真っ赤になっている。
俺ももう半ば何も考えられる状態じゃなくなっていた。
俺は次に一花ちゃんのシャツの下を両手で掴むと、そろそろと脱がし始めた。
一花ちゃんの可愛らしいおへそが見えた。
さらにシャツを上げていく。
シミ一つない一花ちゃんの綺麗な体は、美少女らしい美しい物だった。
そして、胸の部分に差し掛かり……
「やっぱり無理ー!」
一花ちゃんは叫ぶと、体を丸めてうずくまった。
「あ、ごめん!」
俺は思わず部屋から出ようとしたけど、鍵が掛かっているのを忘れていた。
落ち着けばすぐ気づくだろうけど、パニックになっている俺は気づけなかった。
「あ、鍵、鍵を開けないと!」
ポンポン。
いきなり肩を叩かれた。
「うわっ!」
振り向くと、そこにいたのは、黒川さんだった。
「何をしているんですか、あなたは」
「その……」
黒川さんはやれやれといった表情で俺を見ている。
「まぁ、あなたの気持ちは察しが付きますが」
黒川さんはため息をついた。
「まったく、これでは日々の着替えやお風呂のお世話は無理ですかねぇ……」
へ?
「あの……お風呂って……」
「お風呂で体を洗ったり、出た後で体を拭く仕事の事です。メイドとして、当たり前の仕事ですよ」
「そんなわけないでしょう!」
「やれやれ、また性差別ですか?女性がやってもいい仕事を男性が行って何が問題あるんです?」
またそれか……
「まぁ、ゆっくり慣れてもらいましょう」
そう言う黒川さんの言葉を聞いて、俺は今後がすごく不安になった。
「お、お待たせ……」
振り向くと、一花ちゃんが既に着替えていた。
一花ちゃんの服装は、彼女に合うとても可愛いプリーツスカート姿だ。
あれ、一人で着替えられるの?
後で黒川さんに聞いてみよう。
「では、一花様。食堂に行きましょう」
「は、はい……」
黒川さんの言葉に一花ちゃんはそう答えると、俺の左腕を掴んだ。
しかも、恋人繋ぎで。
「行こ♡」
一花ちゃんは着替えの時を考えているのか、顔を真っ赤にしている。
まぁ、俺もそうだけど。
だけど、俺の方を恥ずかしそうに見る一花ちゃんの顔を見て、俺は幸せを感じていた。