02.お嬢様にご挨拶します。そして、俺はメイドのようです。
「はぁ、おいしかった」
夕飯が終わった後、俺は部屋のベッドで休んでいた。
明日から頑張らないと……
そう思いながら休んでいると、
「お兄ちゃん!」
そう言いながら、例の鍵無扉からパジャマ姿の女の子が入って来た。
「あ、一花ちゃ……じゃなかった。一花様」
俺は立ち上がると、一花様に頭を下げた。
「もぉーお兄ちゃん!」
そう言って一花様が勢いよく抱き着いてきたので、俺はベッドに背中から倒れてしまった。
「あの時みたいに一花ちゃんって言ってよ」
「え、ですがしかし」
「これは命令です!」
一花様は愛らしい笑顔でそう言った。
「わかったよ、一花ちゃん」
「一花って呼び捨てにして♡」
本当に一花ちゃんは可愛い。
一花ちゃんは、今小学五年生になったばかりの十歳。
腰まで届く長髪の彼女は、いつジュニアアイドルでデビューしてもおかしくない美少女だ。
まぁ、胸は無いけど。
とはいえまだ十歳だし、他の同年代の女の子は妹位しか知らないから比較するとわからないけど。
「ごめん、それはちょっと……」
「しょうがないなー」
一花ちゃんは口を尖らせてそう言うと、今度は
「じゃぁ、ナデナデして」
「え……」
「ぎゅってして、それから頭をナデナデしてほしいの」
「いや、でも」
「お願い……」
一花ちゃんは、顔を真っ赤にしてそう言うと、恥ずかしそうに顔を俺の胸に埋めた。
俺は、左腕で一花ちゃんを抱きしめ、そして右手で一花ちゃんの頭に手をやり、そっと彼女の頭を撫でた。
十歳の小学五年生、一花ちゃん。
彼女の体は、小さくて、きゃしゃで……
俺が力を入れると、折れてしまいそうなほどだった。
多分、一般的な五年生よりも小さいだろう。
それに、とってもいい匂いがした。
そして、俺が撫でる彼女の髪はサラサラだった。
触っているだけで気持ちいい。
俺は、彼女の体をそのまま抱きしめ続け、頭を撫で続けた。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「何?」
「恨んでない?」
「何を?」
「黒川さんから聞いたよ。一花を助けたせいで、変態さんだって言われたって。それで、家から追い出されたって」
「ああ、その事か」
そりゃ、一時期は恨んだ。
だけど……
「おかげでいいお仕事にもつけたし、一花ちゃんを助けた事を、後悔するわけ無いじゃないか」
「本当に?」
「ああ、それに、もし助けないで一花ちゃんがひどい目に会っていたらと思うと、とても悲しいし、ね」
「ありがとう!」
そう言って一花ちゃんは俺から離れた。
「じゃぁ、お兄ちゃん、明日からメイドの仕事、よろしくね!」
一花ちゃんは、鍵無扉に向かいながら、そう言った。
ん?
「メイド?使用人じゃないのか?」
「え、お兄ちゃん、私の専属のメイドになるんでしょ?」
「それって、執事とか、お世話係とか言うんじゃないの?」
「うーん、やっぱりメイド、かなぁ?その方が呼びやすいし。黒川さんも、その方が都合がいいって言ってたし」
「まぁ、一花ちゃんがそう呼びたいならいいけど……」
都合がいいってなんだ?
まぁ、一花ちゃんは俺がお仕えする方だから、メイドって呼ばれるくらいは許容範囲だけど……
「ねぇ、まさかとは思うけど、メイド服……女性用の使用人服を着るんじゃないよね」
「?違うよ。ちゃんと男の人用の使用人服があそこのクローゼットに入っているはずだよ。それに、お兄ちゃんスカート似合わなそうだもん」
一花ちゃんはそう言って楽しそうに笑った。
そうだった。
荷物整理の時に確認したのを忘れていた。
まぁ、この反応からして女装させられる事は(多分)なさそうだ。
「お兄ちゃんお休みなさい。明日は日曜日だから、色々案内してあげるね」
「お願いします。お嬢様」
「もー、お兄ちゃん!」
「あはは。お休み、一花ちゃん」
むくれる一花ちゃんに向かって、俺は笑って言った。
一花ちゃんは今度は笑って自分の部屋へ帰っていった。
「さてと、早く寝ないと」
俺はベッドに横になった。
当然だけど、明日は一花ちゃんより早く起きなければならない。
なれない場所で緊張するけど、明日の為に、俺は寝る体制に入った。
それにしても……
一花ちゃんは十歳だけど、もっと幼い感じがした。
外見的にも、精神的にも。