表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やがて、冬の雪がとけたら  作者: null
七章 ルビコン川の先に

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/74

星空の住まう場所へ 2

人の家って、その人の匂いが色濃く漂ってますよね…。

いい匂いのときは、ついつい嗅いじゃいます。


なにはともあれ、お楽しみください。

 彼女の声によって顔を正面に向けると、踏切の向こう側に、例のマンションがそびえ立っているのが確認できた。


 大都会のタワーマンションに比べれば足元にも及ばないものの、この中途半端な規模の町では、充分立派なものだ。


 あんなところに住んでいるということは、かなり裕福な家庭であることだけは間違いないだろう。


 そういえば、綺羅星の両親はどんな人たちなんだろうか。

 ハーフということは、父親か母親のどちらかは外国人のはずだ。

 …そう考えると、何だか緊張してくる。


 さらに彼女の強烈な性格を加味すると、絶対に両親も只者ではない。


 ちょうど、踏切付近に着いたところで、警報機が鳴り始めた。


 左、右、左、右で交互に赤い光が明滅しているのが、何だか不気味だ。


 早足になれば、通り抜けられそうだ。


 急ぐつもりで柊の手を引いたのだが、逆に強く引っ張られて思わず立ち止まった。彼女の意図が分からず、怪訝な表情を柊へと視線を向ける。


 しかし、柊は依然として頬を染めたまま、そっぽを向いていた。危ないでしょう、と呟いた気がしたが、自分の幻聴かもしれない。


 銀と青でデザインされた、六両編成の列車が、目の前を弾丸のように通り過ぎていく。


 列車の風圧で、柊の長い髪が木の葉のように舞い上がる。

 きっと、自分の髪もたなびいているだろうと想像したが、彼女の髪のように美しくは舞えないな、と卑屈になるわけでもなく、心の底からそう思った。


 列車が完全に過ぎ去って、不必要とも思えるぐらい長い時間が経ってから、ようやく遮断器が緩慢な動きで持ち上がる。


 それから、どちらからともなく目的地に向かって歩き始め、しばらく無言でいた。

 だが、大きな透明のガラスで出来たドアの向こうに、見知った女性が立っていたため、凄い勢いで柊に手を振り解かれる。


 そんなに恥ずかしがらなくとも…。


 多少の不満を覚えていたが、元々プライドが高い柊のことだ、こういう、子供じみたことは苦手なのだろう。


 エントランスにて、腕組みをして首を振る綺羅星の姿が見える。

 その斜に構えた気障な態度と、眼を見張る容姿は、どこから見ても彼女だと分かる。


 だがそんなことよりも、この時期にワンピースを身にまとっているというのは、どうだろう。外界の温度のことなど無関係だ、と言わんばかりの出で立ちに、二人は些か閉口気味になる。


 入り口まで移動し、オートロックの向こう側の綺羅星に、鍵を開けるよう身振り手振りで柊が伝える。


 しかし、彼女は時間が止まっているかのように微動だにせず、じぃっとこちらを見つめているだけだ。


 瞬きだけは規則的に行われているため、死んではないようである。


 綺羅星があまりにも傍観を続けるため、ついに柊が痺れを切らして、オートロックのガラス扉を軽く音を立てて拳で叩くと、「ねぇ、早く開けなさいよ」と早口で命じた。


 ようやく時間の針が動きを取り戻したようで、綺羅星は、壁から背を離すと、ドアのセンサー辺りに手をかざし、二人を招き入れた。


「何をぼさっとしてたのよ?服装もだけど、アンタ少し呆けてるんじゃない?」

「いいえ、下に迎えに来たのは、野暮だったかしらと反省していたの」


 エレベーターへと先導する彼女は、真っ白のワンピースにその身を包んでおり、高身長と容姿を十二分に発揮して、優雅なオーラを全面に展開している。


 季節感さえ狂っていなければ、ファッション雑誌の表紙を飾れるのではないかと思えるほどだ。


 …まあ、そんな雑誌買ったこともないのだが。


 行き先ボタンを押した綺羅星は、眉間に皺を寄せて黙っている柊を一瞥すると、首を傾げてからかってみせた。


「お手々、まだ繋いでいてもいいのよ」

「チッ、うるさいわよ」


「そんなに照れなくてもいいじゃない?ねぇ?」と綺羅星がこちらを見て同意を求める。

「うん、まぁ、恥ずかしがり屋だから…」


 冬原がそう適当に答えた頃合いに、エレベーターが一階に到達して重厚な扉が開く。


 中に入った瞬間、大きな鏡に目が吸い寄せられたが、鏡越しに紅潮した柊と目が合って、つい吹き出しそうになった。


 エレベーターが嫌な慣性と共に一気に上がり始めると、自然と皆が口を閉ざした。


 この鋼鉄の箱には、そうした不思議な力が宿っている気がしてならない。


 扉の上部に取り付けられた液晶の光が、一番右端の12階に到達し、幾度か明滅したところで、再び嫌な重力がかかってエレベーターが停止した。


「最上階…」と思わず声が漏れる。綺羅星はその声に一切反応せず、先に降りると、短く二人を呼んでから、廊下の奥へと迷わず進んでいった。


 綺羅星が扉の前に立ってキーをかざしたのを見て、いよいよ彼女の両親とご対面なのだと気づき、肩が力んでしまう。


 友達の家に遊びに来るのなんて何年ぶりだろうか、とどうでもいいことを考えているうちに、扉のロックが音を立てて外れる。


「あ、まだ心の準備が…」

「なにを寝ぼけたこと言ってるのよ、行くわよ」ぐっ、と柊に腕を引かれる。「ちょ、っと」


 中に入った綺羅星が、靴を脱ぎながら手招きする。


 おそるおそる、中へと足を踏み入れた途端に、嗅ぎ慣れた上品な香りが漂ってきた。思わず、これがハイソサエティの香りなのだろうか、と考える。


 無駄に広い玄関だ。とても三人暮らしとは思えない。


 ふと、玄関先の靴に目が行った。

 そこには、二足しか靴はなく、片方は彼女が先ほどまで履いていた白いヒール、そしてもう片方も同じく彼女の物で、学校に履いてくるローファーであった。


 もしかすると、両親は外出しているのかもしれない。


 それを、ほんの少し高いところに立って二人を待っていた綺羅星に尋ねた。


「へぇ、良く見ているわね」と綺羅星は感心したように呟いた。「でも惜しいわね、私はここに一人暮らしなのよ」

「えぇ?」


 まさか、彼女も親元を離れて暮らしていたとは思いもよらなかった。


 これはますます、綺羅星亜莉栖年齢サバ読み説が濃厚になりつつある。


 ふふっと美しく微笑んだ綺羅星に対し、柊はとても苦いものを口に放り込まれたように険しい顔を作った。そして、靴を脱ぐことなく、怒気混じりのため息を吐く。


「貴方、本気で冬原に何かするつもりだったんじゃないでしょうねぇ?」


 綺羅星は、「さぁ、いらっしゃい?」と柊を無視して、そのまま、靴を脱いだ冬原の手を引いて、中へと導き入れた。


「あ、ありがとう…」


 恭しく、お姫様にするようにそっと手を握った綺羅星。冬原は、されるがままに奥の部屋へと誘われる。


「ちょっと!なんでアンタも満更でもなさそうなのよ、待ちなさい!」


 それを目にした柊は大声を上げながら、慌てたように靴を脱ぎ散らかし、その後を追うのだった。

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


ご意見・ご感想、ブックマーク、評価が私の力になりますので、


応援よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ