オト-3
「すごいよオト! 相手は白金冒険者だったのに……!」
ひどくやられた自分の体を再生させ駆け寄ったリーフに、オトは手をひらひらさせた。
「こんな雑魚が白金クラスなわけないだろ。有名な貴族の坊っちゃんだからな、コネでもらった階級だろうよ。勇者パーティーの一員って肩書もある」
「それでも、めちゃくちゃ強かったのに……」
「お前のほうが何倍も強いっつの。相性だろ相性……おっと」
オトがふらついたかと思うと、ストンとその場に座り込んでしまった。
「ど、どうしたの、オト!?」
「疲れた」
「へっ!?」
「俺は魔法の才能ゼロだからな。魔力量カスだし、レベルも低いからちょっと魔法使っただけでガス欠になるんだ。今日は調子に乗りすぎた。もう動けん」
ふざけた口調だが、その顔には玉の汗が浮かんでおり、呼吸も荒く弱々しい。限界を超えてしまっているのは明らかだった。疲労はリーフにも治せない。
「ここで休んでて! ユイさんは僕が連れ戻す!」
「おぉ、悪いな……魔法さえ使えりゃ、お前に勝てる相手なんていねえよ。頼んだ。戦えるようになったら、俺もすぐ行く……」
倒れ込んでしまったオトを背に、リーフは走り出した。ルシエールが魔法を封じる結界を張ったことで、勇者も【転移魔法】を使うことができず、歩いてこの場を立ち去っていた。まだそう遠くには行っていないはずだ。
果たして、間もなく勇者たちの背中を視界に捉えた。レンはユイとエリシアを両手に抱いて、ちょうどゴミ山のあたりを歩いていた。ゴミ山と言っても今ではリーフたちが清掃したおかげで、見違えるようにゴミが減っている。
「……あん? なんで逃してきてんだよ、ルシエールのやつ。まさか負けたのか? 使えねえ。弱い上に男なんてなんの需要があるんだよ」
追いすがるリーフの気配を察知してか、レンは立ち止まって振り返り、小さく吐き捨てた。追いついたリーフが足を止めると、レンは二人を下がらせ、面倒くさそうに腰の剣を抜いた。
「いいや、もう、俺がやる」
「……一つだけ聞きたい。どうしてアルテさんを殺そうとしたんだ。仲間だったんじゃないのか」
レンは苛立たしそうに舌打ちした。
「いいだろ、どうでも。どうせ今から死ぬのに」
「答えろよ」
「……ハァ。大した理由じゃねえよ。最初から合わなかったんだ、あの女とは。《剣聖》なんて呼ばれてて、その上あの見てくれだろ? 俺の仲間に相応しいと思って勧誘したんだが、全然オレの言うこと聞かねえの。冒険ルートに口出ししてくるし、ハーレム作ろうとしても邪魔するし、オレが派手に暴れたいときもアイツが先に解決しちまうし。アイツがいるとオレが霞むんだよ」
肥大化した自意識に吐き気がする。この男が欲しがっているのは仲間じゃない。思い通りに動き、自分を飾りつけるアクセサリーだ。
「お得意のエクストラスキルも、アルテさんには通じなかったみたいだね」
「頭撫でる隙がアイツにあると思うか? まぁ、一回寝てる間に試してみたんだが、どうもレベルがオレより一定低くないと効かねえらしくてな。ったくヒロインなら即墜ちしろっての」
「いいじゃんレン君、あんなブスの話」
「そうだなエリシア。お前のほうが百倍かわいいよ」
「もう……!」
怒りで、脳が煮えそうだ。
アルテは、リーフに「パーティーの皆と会わせたい」と言っていた。それくらいいい人たちなんだと思っていた。
でも、アルテはダンジョンを出たあとも、人界に帰ってきてからも、一向にパーティーメンバーを探そうとしなかったし、オトとリーフと新しいパーティーを立ち上げたりしていたから、不思議だった。
――もう一度、あたしを助けてくれ、リーフ。
ダンジョンで交わした共闘の約束。アルテが、リーフの力を借りて戦いたかった相手は、錆竜ではなかった。
お前だったんだな。
「アルテさんを……仲間をなんだと思ってるんだ……」
「あ? お前オレのチートスキル知らねえだろ。ぶっちゃけ、どんな敵も相手にならねえんだよ。オレ一人だけでこの世界丸ごと救えちゃうの。いっそ退屈だぜ。だから話が合うやつや可愛い女を仲間にして、道中少しでも楽しくやろうってだけじゃん。お前もうちょっとオレに感謝しろよ。なんの義理もねぇ異世界救ってやってんだぞ?」
「感謝なんて、まさか」
リーフは感情のままに、顔を手のひらで覆い、【破壊魔法】を発動させた。
破壊したのは、オトがかけてくれていた【光魔法】。リーフに人界で生きる権利を与えてくれた魔法。
手を外したとき、リーフの肌は久方ぶりの、生まれ持った灰色に戻っていた。レンの目が見開かれる。
「お前……!」
「魔族である僕を救ってくれたのは、アルテさんたちだ。お前じゃない。お前に救われたんじゃ、この世界がかわいそうだ」
「は、ははははは……! こりゃいい、お前魔人かよ!? 殺せば一気に経験値アップじゃねえか!」




