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勇者-2

 アルテと出会った日のことを、鮮明に思い出した。


 暗闇の迷宮。【回復魔法】の光だけを頼りに進んだ洞窟。曲がり角で、赤髪の女剣士とばったり出くわした。


 アルテはリーフを殺す前に、気を失ってしまった。血まみれで横たわるアルテ。背中には、おびただしいほどの刺し傷――



「――今の、どういう意味ですか」



 低く、リーフは尋ねた。雰囲気が豹変したリーフに、レンは狼狽うろたえながら視線をそらした。


「どうって? アルテは2週間前、オレたちと迷宮攻略してた途中に死んじまったんだよ。確かにそのはずだったんだ。だから、驚いて」


「《剣聖》ほどの実力者が、誰にやられたんですか」


「あんたにゃまだ分かんないかもしれないけど、難易度の高い迷宮だったんだよ。《錆山のダンジョン》。そこのモンスターにやられたんだ。最後まで勇敢だったけどな……」


「――あの日、アルテさんの外傷は、背後からの刺し傷だけでしたよ」


 空気が死んだ。レンの目から人間の光が消えた。口を閉じ、再び開いたとき、リーフを見下ろすその目に宿った、明確な殺気。



「――お前、あの場所にいたのか」



 自分の首が飛ぶイメージがぎった。咄嗟にリーフは【創造魔法】で衝撃を生み出し、レンたち三人を吹き飛ばした。爆風を巻き上げてグラウンドがえぐれる。


「なぁっ!?」


「オト、構えて」


 砂煙が舞う孤児院の庭で、勇者パーティー3名はゆらりと起き上がった。――無傷。あの至近距離で、あのタイミングで防ぐのか。今までの相手とは次元が違う。


「なんだ、そうかそういうことかよ。おかしいと思ったんだよな。アルテは殺したはずなのに、誰かが勝手にダンジョンを攻略しちまうんだから。アルテがあの傷で生き延びれたってことは……治したのも、お前だなぁ」


 レンは鋭い目を病的に見開いて、腰のつるぎを抜き放った。二人が身構えた、そのとき――砂煙を突き破って、巨大なシルエットが地響きを上げながら姿を現した。


『ギギィッ!!』


 ギギである。レンたちを敵と判断したのか、ねぐらから飛び出してきて一直線にグラウンドを駆け抜け、レンめがけて躍りかかるや大きな拳を握りしめる。


「あん?」


 片目をそちらに向けたレンは、飛びかかってきたギギに右手を伸ばし――飛来した拳に"デコピン"で応じた。爆音が駆け抜け、ギギの腕は粉々に粉砕。か細い悲鳴を上げて、ギギの巨体は砂地をごろごろ転がった。


「あれ? 俺またなにかやっちゃいました?」


 呆然とするリーフとオトをこれみよがしに見てから、レンは含み笑いで頭をかいた。


「ギギッ!!」


「悪いな、あんたのペット? 壊しちまって」


 レンを無視してリーフは一目散にギギのもとへ駆けつけ、粉々になった体を治してやった。涙目のギギに、「ここはいいから、隠れてな」と声をかける。


「ねぇ、なんの騒ぎ!? 二人とも大丈夫!?」


 孤児院からユイが飛び出してきて、グラウンドの惨状を見るなり目を見張った。彼女の金髪ブロンド、メイド服、豊かな胸を順に見て、レンは「おお」と顔つきを変えた。


「前来たときはあんないなかったなぁ。留守だったのかな?」


 レンは作り笑いを浮かべて剣を納めると、ユイに向かって「おーい」と手を振った。


 次の瞬間、レンは風のようなスピードでユイの目の前に立っていた。リーフもオトも全く反応できない、アルテにさえ匹敵する速度。ユイはギョッとしてのけぞり、半歩後退した。


「な、なんですか、あなた」


「名前、なんて言うの?」


「はぁ? いきなりなに? キモいよ君」


 げんなりしたユイに向け、血相を変えてオトが怒鳴った。


「ユイさん!! そいつから逃げて!!」


 そう言って杖をレンに向けるが、射線上にユイが被り、魔法が放てない。ユイにこっぴどそでにされてもレンは余裕の笑顔を崩さなかった。


 レンの音速の手が、ユイの頭にポンと置かれた。遅れてそれに気づいたユイの顔が、ぞわぞわぞわと引きつる。


「なにすんっ……――」


 一瞬、桃色の光がユイを包んで、それきりユイは大人しくなった。


「はい完了」


 頭を撫でられるがまま、ユイは黙ってレンを見つめていた。その目にピンク色の光が瞬いて、みるみる、ユイの顔が赤くなっていく。頬が緩んでいく。まるで、恋する乙女のように。


「もっかい聞くけど。君、名前は?」


「……ユイ」


「ユイね。今から一緒に飯でも食うか? ユイがよければ、だけど」


「う、うん。……いきたい」


 恥じらうように体を振って、ユイは小さくうなずいた。


 鳥肌が止まらない。何をした。今、あいつはユイに何をした。


「あいつのエクストラスキルだ! 【魅了チャーム】……あいつに頭を撫でられたら、どんな女もあのクソ勇者に惚れちまう!」


 悲鳴と怒声を混ぜ合わせたような声で、オトが叫んだ。戦慄せんりつしてユイを見る。うっとりとレンを見つめるユイの顔。あんな彼女は知らない。ユイは、子どもたちを置いて知らない男と食事になんて、絶対に行ったりしない。


 なにが、魅了だ。あんなの洗脳ではないか。

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